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「誰じゃ」
爺さんが扉に近づき、声をかける。
「この雨で難儀してる。一晩泊めてくれ」
「一人か?」
「そうだ」
爺さんはちょっとためらった後、扉を開けた。
どうせ蹴破れば壊れちまいそうな扉だ。
入って来たのは、びしょぬれの若い男、
「ぷはーっ!助かった!ひどい雨だ」
一人だって?
俺はちょっとうなった。
もう一人。外にいる。
男は炉のわずかな明かりで品定めするように小屋の中を眺める。
「なんだ?爺婆とガキだけか?
軍用馬がつないであるから、てっきり帝国兵かと思ったぞ」
「あれはわしらの馬車の馬じゃよ。
ダーラムシアの親戚の所へ行く途中じゃ。
戦は、始まったかの?」
「帝国が占領した辺境伯の城をローランディア軍が囲んでるが、この嵐で立ち往生さ。
雨が上がったら、一気に攻めるだろう」
小屋に残る雉を焼いた匂いをくんくん嗅いでいた男は、無遠慮に鍋の蓋を取り、スープの残りを見つけて大声を上げた。
「食い物だ!」
バン、と扉が開いて、もう一人、男が飛び込んでくる。
鍋に飛びついて、素手で中身を漁り始めた。
俺はこっそりと、影に溶ける。
最初の男はベルトの背中にさした棒を引き抜き、爺さんに突き付けた。
年寄りだと思って、すっかり余裕の態度で隙だらけ。
「おとなしくしてろよ、じじい。命はとらねえからよ。
おい、全部喰うな!俺の分も残しとけ!」