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夜明け、女官のベスが起こしに来る前に、俺は姫さんの寝台から飛び降りる。
姫さん用の足台があるもの、簡単さ。
え?寝床の籠?使ってるさ。皆が寝静まるまではね。
夜中に姫さんの布団にもぐりこむと、姫さんは寝惚けながらぎゅってハグしてそのまま寝直す。
姫さんの夜鳴きが治って楽になったって、ベスとエマが話してる。
えっへん、俺の手柄なんだぞ。
朝の姫さんはご機嫌が悪い。
俺が飛びついて洗顔してやると、キャッキャッ言って機嫌が直る。
お湯なんかで洗い直す事ないと思うんだが・・・。
ミルクと蜂蜜をかけたポリッジでも、バタつきトーストでも卵でも、何でも残していいからね、姫さん。
落ちてきたらぜーんぶかたづけてあげるから。
両方の朝ごはんが終わると、姫さんは俺をギューしてくれて、お勉強の部屋に行ってしまう。
俺は留守番。
・・・なんかしてるわけないじゃん!
このおっきな巣を探検だーい!
石の家は大きくて、いろんな匂いがする。
探検する所がいっぱい。
しかし、石の階段はでかすぎて、俺の足では届かない。
飛び降りることは出来ても、登れないんで戻れないんだ。
姫さんのいるのは三階の子供部屋なので、どんどん下に下がっていくことになる。
これはトマスに抱かれて来た道だ。
ここを曲がってこっちに行くと。
ほら。
中庭だ。
おーい、母ー!ただいまー!
母にひとしきりかまってもらって満足し、一緒にゆっくり日向ぼっこしてると、くたびれた様子のトマスがやって来た。
母といる俺を見て驚いてる。
あ?
姫さんが鳴いてるんで俺を探し回ったって?
仔犬の行動力を馬鹿にしちゃいけないぜ。
近くの家に養子に出した三か月の仔犬は、次の朝一人で帰ってきました。
歩いて二分くらいの距離ですが、抱いて連れて行ったので、どうして道がわかったのか不思議です。