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いっしょにかえろう。

作者: まきの

初めまして。まきのです。初投稿作品で少し緊張していますが、あたたかい目で見ていただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

「……、今日も、置いていかれたの?」


靴の裏がリノリウムの床に擦れて、キュッと小さく音を立てた。肩にかけた鞄がずり落ちそうになるから慌ててかけなおす。


「べつに」


坂田君は不機嫌そうなのか単に眠いのかよく分からない声で答えた。そして私が歩き出したのと同時に私の隣で歩く。

何時もこうだ。坂田君と一緒に帰るはずの友達は、坂田君が生徒会の集まりが終わる頃にはとっくに帰ってる。私は風紀委員で、帰りは何時も校門に立ってないといけないから、私も何時もこの時間に帰る。生徒会がどんな活動をしていて、何時も会議があるのかなんて興味がないから聞いた事ないけど、大変そうだなぁとはいつも思う。


「明後日卒業だね」

「実感ねーな」

「確かに。受験、あるのにね」

「せめて受験終わってからにしてほしいわ」

「坂田君は、推薦だから受験もうないじゃん」

「羨ましい?」

「うん」


私が素直に頷くと、坂田君はふふん、と得意顔になって、切れ目の瞳を冷やかすように細めた。

その後も会話のキャッチボールがポンポン続いて、私たちはまた何時ものように交差点で、「バイバイ」も言わずに無言になって別れる。


何時もこうだ。私も、坂田君も、一緒に帰る人がいないから、こうして帰ってる。でも、私も坂田君も、「いっしょにかえろう」といって帰ってない。会話のキャッチボールが続いたから、歩きながら喋ってる感じだ。

ただ、坂田君と話してると帰り道が短くて、時間が早くて、私の帰る道が、坂田君と同じだったら、もっと会話が続いて楽しいだろうなぁとはいつも、いつも思う。

そしたら。


「……、そしたら」


そしたら、なに?


思わず呟くけど、小さすぎて答えてくれる人はいないし、聞こえてたら私は一人で話してるちょっとやばい人だ。

そしたらなんて、続きはないけど。

坂田君が隣にいない帰り道は、つまんないから。


* *


トントン、と肩を叩かれたから、視線を向けると結城がちょっとニヤニヤした顔で私を見ていた。


「なに?」

「聞きたいんだけど」

「聞いてるじゃん。なに?」


首を傾げて続きを待つと、出てきたのはとんでもない質問。


「坂田とさ、咲は付き合ってるの?」


咲、という何処にでもいそうな名前は私の名前だ。そんな当たり前の事すら少し理解出来ないくらい、びっくりした。


「……なんで?」


一拍以上置いてから逆に聞き返す。当然だ。


「だって、最近、一緒に帰ってるじゃん」

「いや、あれはただ……」


会話のキャッチボールが、続いた結果で。でもそれをどう説明すればいいのか分からなくて、私は結局言い淀んだ。


「まぁ、元々仲良かったし、皆違和感には思ってないみたいだけど」

「いやいや! だから、それは……違うよ。付き合ってないよ、そんな訳ないじゃん」

「……そうなの?」

「…うん」


そう、付き合ってない。付き合ってないよ。後半の言葉は、自分に向けていったのだ。他愛もない会話の中に、好きだとか、そんな話題は乗らなくて、だからよかった。

意識せずに話せたから。


坂田君に、好きな人が居るとか、そんな事、意識せずに話せてたから。


「ふーん、でも、坂田は毎日咲の事待ってるよね」


くるくると指に髪を巻きつけながら、本当にさらりとそう結城が言うから、私はまたびっくりして、はぁ? と少し乱暴に聞き返してしまった。


「え、なにそれ、待ってるって、なにそれ」

「だから、坂田、咲が風紀終わるまで待ってるんだって。てっきり2人付き合ってるからかと思ってたんだけど」

「……なんで、まってるの」


独り言みたいに呟いた言葉に、結城は反応して答える。


「そりゃ、咲と一緒に帰りたいからでしょ? てか、生徒会の集まりなんて毎日ないよ。そんなことも知らなかったの?」

「興味、なくて」


嘘だ。


嘘だ、本当は知ってた。知ってたよ、だって、生徒会メンバー、昨日、すぐ帰ってた。その前も。私風紀委員だよ? 毎日校門前に立ってるのに、気付かないはずない。

なのに、私は知らないふりして坂田君と帰ってた。


一緒に帰る人がいないからとか、会話のキャッチボールが続いたからじゃなくて。


いつも会話のはじめは私で、キャッチボールを始めるのは私だ。


一緒に帰りたかったのは私の方だ。坂田君と喋ってると楽しくて、でも、


いっしょにかえろう。って、言えないから。


「結城、今日私一緒に帰れない」

「いや、最近一緒に帰ってないけどさ、うん、分かった」



廊下を何時もより早足で歩いて、暫くしたら坂田君がぼけっとした顔で立っていた。

真面目な顔したらイケメンだよね、と友達は言ってたけど、ぼけっとした顔も可愛いから私は好きだ。


「坂田君っ!」


結構大きな声で私は坂田君を呼んだ。ビクッと肩を揺らしてこちらを向く坂田君に、私はさらに大きな声で話しかけた。


「いっしょに、いっしょにかえろう! 私、坂田君といっしょにかえりたい」


言えた。ただ会話のキャッチボールが続く曖昧な感じじゃなくて、ちゃんといっしょにかえりたいから。


「ならかえるぞ」


坂田君は何時もよりちょっと真面目な声で私の隣を歩いた。

いかがでしょうか。坂田君と咲ちゃんは、やっと本当の意味で一緒に帰れたのかな、と思います。二人書いててすごく楽しかったです。

読んでいただきありがとうございました。

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