そして真実へ……
一週間後の月曜、その放課後。
わたしたちは部室で伊賀くんを待っていた。無論、依頼達成を伝えるために部室へと呼び出したのである。あちらから来てもらうのは気が引けるが、まぁ仕方がない。
放課後の校舎には吹奏楽部の演奏が響き渡り、時折、グラウンドで部活をしている生徒たちの勇ましい掛け声も聞こえてくる。しかし、我らが舎六部はそんな青春めいたものとはかけ離れた部活なので、聞こえてくる音もどこか遠くからやってくるように感じていた。
「遅いですね、伊賀くん」
わたしがそう呟くと、部長も同意した。
「全くだ。折角俺たちが苦労して例のブツを突き止めてやったってのに。あのリア充が」
「まだそんなこと言ってるんですか?」
いつまで伊賀くんに可愛い彼女がいることを根に持っているのだろう。そして、いつまで嫉妬しているつもりなんだろう。
不意にわたしはあることが気に掛かり、部長に訊ねる。
「……それで部長。どうしてあれが『吹雪花』なんです? 見た限り吹雪とは何の関係もないですし、どちらかというと吹雪って言うより、情熱的なイメージが……」
いつものようにお手製のベッドに寝転がりながら、部長は得意気ににやつく。
「まぁ、伊賀くんが来たら全部説明するさ」
「助手であるわたしにくらい、説明してくれてもいいじゃないですか」
「だめだ。推理は依頼人に最初に披露するものと相場が決まってる」
「……はあ」
わたしは割り切れないものを感じながらも、渋々頷いた。「推理はできるだけ依頼人に最初に披露する」。わたしにしてみればよく分からないが、これは探偵としての美学に基づく、譲ることのできない部長の信条らしい。
ちらっと寝転んでいる部長の姿を盗み見る。
この昼でも目立つ昼行灯、我らが舎六部の部長にして浮浪者、絵に描いたような曲者の須川在貴は、意外に鋭い頭脳を持っているのだ。内戦状態を崩すことのない髪の下に。そして、その考えは時としてわたしにも計り知ることができない。
少し見つめすぎたのか、それに気付いた部長が怪訝そうな顔でこちらを見やる。
「……? 何見てんだよ」
「え、いや、その。……教室に浮浪者がいるな、と思って」
「全く脈絡のない暴言だな、コラ」
憤慨する部長。苦笑いするわたし。
そんな遣り取りを交わしていると、誰かが廊下を小走りに駆けてくる音が聞こえてくる。……伊賀くんだろうか? いや、それにしては落ち着きのない足音だ。
部長は再び怪訝そうな顔をして、ベッドから起き上がる。
「……誰だ?」
「伊賀くん、にしてはおかしいですよね」
「あぁ。足音が軽いし、伊賀くんは多分廊下を走らない。女子生徒だろうな」
女子生徒?
そこまで判別できるものなのだろうか? わたしには全く区別がつかない。
部長がどんな根拠でそう言ったのか分からず、わたしまで怪訝な顔になる。伊賀くんじゃなくて、女子生徒? この短期間に二つも依頼が来るなどというミラクルがあるのだろうか? あり得ないことではないが、考えにくい。
二人して難しい顔をしていると、教室の後ろ戸引き匹開けられる。そしてそこには、部長が言った通り、女子生徒の姿。……どこかで見たことのある顔だ。
「……あの、ここって、『舎六部』であってますか?」
その女子生徒は遠慮がちな声でわたしたちに呼びかける。その瞬間、どこで彼女を見たのかに思い至り、わたしは思わず椅子から立ち上がった。
「あなたは」
声を上げる。振り返ると、部長も目を丸くしていた。
その生徒は他でもない、いつか送られてきた写真で見た、天然系の彼女その人だった。