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シャーロック部と吹雪恋花  作者: 瀬海
吹雪恋花
3/22

聞き込み開始?

「で、部長」

 伊賀君から依頼を受けた翌日。土曜日の昼間である。

「なんでこうなるんです?」

 夏のじりじりと焼け付くような太陽光線、陽炎が立ち上るアスファルトの国道、その脇に店を構えている白を基調としたオープンカフェの一角。そこに部長は、待ち合わせ時間に一分も遅れることなくやってきた。白いTシャツに黒い麻のベストを羽織り、膝が隠れる程度の長さをしたジーンズを穿いている。……頭にはやけに大きな麦わら帽。

「探偵がやることと言ったら決まってるだろ。まずは聞き込みだ!」

 わんぱく坊主がベストを羽織ったような格好をした部長は、そう宣言するなり「ふはは」と悪役のように笑う。……つまりわたしは、せっかくの休日に関わらず、部長と一緒に炎天下の街を歩き回る羽目になったらしい。

 カフェの庇で日射しが遮られているにも関わらず汗が全く止まらないが、依頼のためならばこの程度の労苦を惜しむつもりは毛頭ない。しかし、その労苦がそもそも必要なのかどうか分からないならば話は別だ。

 先程注文したアイスコーヒーのグラスを、からん、と鳴らして抗議する。

「聞き込みって……何をですか」

「はっはっは。依頼内容を忘れたのかね。『吹雪花』だよ」

「いや、それは覚えてますけど」

 覚えてるから腑に落ちないのだ。

 わざわざ街にまで繰り出す意味が分からない。

 依頼を達成したいのであれば安楽椅子探偵を演じていても事足りるだろうに。それでなくとも学校の図書館や端末室を訪れればいい。今回の依頼で必要なのは頭を働かせることであって、体を動かすことではないはず――なのだが、当の部長は張り切った様子で「さぁ、行くぞワトソン君!」などとのたまう。

「亜理紗です。ちょっ、コーヒー飲み終わるまで待って下さいよ」

「悠長な。依頼が逃げたらどうするんだ! この世の中はな、俺たちにしか解決できない謎で満ち溢れているんだぞ!」

「あー……よかったら部長もどうですか? 冷たくて美味しいですよ、アイスコーヒー」

「いただきます」


 ――休憩中――


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさん。……よし、それじゃあ行くか」

 なんだかんだでアイスコーヒーを堪能したわたしたちは、ようやく部長の言うところの「聞き込み」をするために席を立った。それぞれの会計を済ませ、冷たいグラスの感触に後ろ髪を引かれながらも日射しの下へ繰り出す。

 何者にも遮られることのない直射日光を浴びていると、冷えたはずの体から再び汗が流れ出し、すぐさまげんなりする。それでなくとも紫外線は乙女の敵だ。もっと多めに日焼け止めを塗っておくべきだった、なんて不毛な考えが脳裏を過ぎる。……多めにしたところで効果が増すのかは知らないけれど。

 というか、聞き込みって……一体誰に何を聞き込むというのだろう。部長に質問しようとも思ったが、昨日電話で呼び出されたときも全く理由を説明されなかったし、たぶん直前になるまでまともな答えなど返ってこないに違いない。

「ところで」

 わたしは諦めて別の話題を差し向ける。

「探偵と言えばハンチング帽じゃないんですか? なんですかその麦わら帽子」

「うるせーな、お前が格好をとやかく言うな。なんで休日まで制服で、しかもハンチング帽被ってんの? 女子高生探偵?」

「助手です」

「助手はハンチング帽被んねぇよ、たぶん」

 失敬な。

 仮にも探偵結社なのだから、形から入って何が悪い。

 そんなこんなと意味のない遣り取りを続けながら、わたしたちは白黒タイルの歩道をゆっくりと歩いていく。部長は「暑ぃ」と自分の作り出した状況に文句を垂れながら、わたしはタイルの黒い部分だけを選んで踏みながら。背丈の差も相まって、傍から見れば兄弟のように見えたことだろう。うん、服のチョイスは正解か。

 と、ビルのショーウインドーの前を通ったところで、それに映った自分の姿に何か違和感を覚えたのか、わんぱく坊主は被っていた麦わら帽をとった。

 途端、それまで押さえつけられていた髪がいつものごとく紛争を始める。髪束のひとつひとつが各々の主張を譲っていない。……形状記憶合金?

「……どうして部長の頭は、頑なにその形を維持するんです?」

「一度覚えたことは決して忘れない、俺の頭脳を反映しているのだよ」

「なるほど、曲者ってことですね。髪の毛も」

「俺のキューティクルにケチつけんのか?」

 部長はさっとわたしのハンチング帽を取り上げる。

 不意を突かれてしまったため、反応することができなかった。

「じゃ、髪を隠すためにもコイツをもらうぞ」

「……あ!? やーめーてー! 返してくださいー!」

 部長が左手で天高く掲げたマイ帽子。取り返そうと何度も必死にジャンプを試みるが、身長差もあって全くと言っていいほど届かない。返せ! それがなかったらわたしのキャラが固まらないじゃないか!

「そんなに帽子が欲しいならホレ、俺の帽子でも被ってろ」

 部長はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべると、わたしの頭に麦わら帽をばさっと被せてきた。帽子のつばに遮られ、一瞬視界が暗くなる。

 んな、

「な、何するんですか、ちょっと!」

 腹を立てながら視界を塞いでいたつばをぐいっと上げると、目の前にあったのがいつもとは違ういたく感嘆したような表情だったので、わたしは何事かと動きを止める。

 部長は溜息にも似た響きで言葉を漏らした。

「おぉ、結構似合ってんじゃねぇか」

「え。あ、そうですか……? なんか照れますね……」

 い、いきなり何を言い出すんだろうこの人は。

 デリカシーがないのがこの人の基本属性じゃなかったっけ? 無意識にわたしを貶すことこそあれ、突然褒めるような性格ではなかったはずだ。でもまぁ、不意打ちで褒められるのは悪くないし、普段そんなこと言わない部長が言うとむしろなんだか嬉しく感じ――

「おう、まるで田舎のもさい女子高生みたいだ」

「返しますっ!」

 麦わら帽を顔面に投げつけると、部長が怯んだ隙にマイ帽子を取り返す。「少しでも喜びかけたわたしが馬鹿でしたよ、このわんぱく坊主っ!」

 歩いているとやがて、駅前のロータリーが見えてきた。

 立ち入り禁止になっているその中央部分は小高い丘のように盛り上がっていて、鯨が地面から頭を出している様子を連想させた。そんなロータリーの周りには四、五階建てのテナントビルが軒を連ねていて、出たり入ったり通りを歩く人々で往来の人口密度が若干増している。……暑さも増してくる。

 疲れる、本当に疲れる。

 ただでさえ熱中症になりかねない気温だというのに。

 その上部長の言動にいちいち突っ込んでいてはこっちの身が持たない。それでも助手の悲しい性、突っ込まずにはいられないのだから疲労はますます増すばかり。まだ聞き込みをしていないというのにこれでは先が思いやられる。

 そんなわたしの心中など知るよしもない部長は、それから数分ほどわたしを引き連れて歩いた末に、割と大きめのビル前でようやく足を止めた。取り返した帽子をしっかりと胸に抱きながら部長に訊ねる。

「……何ですか、ここ」

「スーパーマーケットだ」

「それは知ってます」ビルの看板を見ながら言う。「知ってますけど、スーパーに何の用なんです」

「このスーパーの中には、さらにある店が入っている」

「はぁ」

 そこまで聞けば、もうわたしにも部長の目的が推察できた。別にもったいぶるほどの目的地でもなければ、当たり前の範疇を超える場所でもないじゃないか。

 っていうかわたし、最初に言おうとしたじゃん。

 それでも部長は、得意気に笑ってこう告げた。

「聞いて驚け。……花屋だ」

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