No.26 怪人ヒーロー
出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第二十六弾!
今回のお題は「剛腕」「病」「バットエンド」
2/16 お題出される
2/21 やっとこさ漠然と作品が浮かぶ
2/22 が、遊びほうけすぎて締め切りを通り過ぎる(ごめんなさい
2/23 書いてみたらボリュームが有りすぎたので削り落としながら安定の締切ブッチで投稿
締切ブッチのわるいくせがついて来てる感……申し訳ない
世界が逆さまだ。
ギリィ、こと飯山 健司はそう思った。背中はコンクリの壁に埋まり、腹には激痛が走り、喉の奥から血が吹き上がり口の中を満たす。一瞬何が起きたのか分からなかった。だが、吹き飛ばされた自分が空けてきた、誰も居ない廃墟の壁の穴を通ってくる、あの赤いスーツの男を見て気づいた。
ギリィは赤い男へ言う。
「何故だ……まだ500mは向うにお前は居ただろうが……」
赤いスーツの男……ヒイロ・ジャスティスという『正義執行官斡旋所』のセカンドランカーの……つまり2位の男だ。今回、ギリィと呼ばれる『怪人』(正義執行官斡旋所曰く、犯罪的な存在はみな『怪人』と呼ばれる)の今回の殺害対象だった。
ヒイロがギリィに言う。
「悪く思うな。正義の目はどこへでも届くものだ」
「けっ……目が良いこって……」
ギリィの予定では、この誰も居ない廃墟にトラップを仕込み、誘い込んでヒイロを倒すはずだった。だが、気づかれることが早すぎた、そして気づかれた後の突進力もまた想定の遥か外だった。
「大した剛腕だな、ヒーロー……そんな、一般人みてぇな腕して」
ヒイロは、外見とは裏腹に強力な力を持って、逆さまになって壁に打ち付けられているギリィの足を掴み、引き抜いて床に落とした。ギリィは身動き取れず、そのまま崩れ落ちた。
ギリィはヒイロに言った。
「俺を、殺すのか?」
「『悪指数』は20……まだ悪人としてはまだ軽い。……いや、正義は誰も殺さない。それが正義だからだ」
ヒイロは腕時計の様な装置をいじっている。あれは『正義執行官』に配布される『悪指数』を測る装置『悪係数測定器』……つまり、『正義執行官斡旋所』がどれだけ悪人と見ているかを知るための装置だ。『悪指数』が高ければ、その存在を討ち取った者の名も上がる。いわば、討ち取るべき悪人の指標を示す装置だ。もっともそれは、『正義執行官斡旋所』の独善に基づいてだが。
ギリィは立ち上がろうと試みるが、体は苦痛に悲鳴を上げて、力を込めてもただ震えるだけだった。
「……けっ、大層なこって……放っておいても、俺は失敗の咎で、クライアントに殺されるがな」
「無理をするな。少ししたら動けるだろう。そうしたらこれを飲むと良い。正義執行官に配布される回復剤だ。肉体の傷を治すのに役立つはずだ」
そう言って、ギリィの手がギリギリ届かないところに、青いコーラの様な缶を置いた。
そして更に言った。
「それと安心しておけ。そんな邪悪なクライアントなんて、僕が、正義が許しはしない」
そう言って去っていくヒイロ・ジャスティスの後姿を、ギリィは地面に伏しながら見送った。
それからしばらく……約半日ほどが経ったろうか? 痛みから逃げるように、ギリィは気が付けば気絶していた。そしてギリィ、飯山の脳内に一人の子供が浮かび、それと同時に飯山は目が覚めた。
体はまだ痛む。だが、何とか動ける。
なんとか立ち上がり、正義の味方の置き土産を渋々手に取り、震える指でプルタブを起こそうとする。が、うまく力が入らず、仕方なく近場に有った投擲用の鋲で缶に穴を空けてその穴から飲んだ。
約100年前、唐突に表れた超人類『ヒーロー』。彼らは彼らの独善に基づいて正義を振るっていた。彼らはそれぞれ、人間の枠を超えた身体能力や超能力を有していた。
『ヒーロー』はそれまで何でも無かった者など、一般人、老若男女問わず唐突に目覚め、様々な問題を起こした。それ故に『ヒーロー』は政府が管理し、能力を自己の為に使う悪しき『ヒーロー』……すなわち『怪人』の鎮圧に『ヒーロー』を差し向けたのだ。
そこには各個人の葛藤が有ったと言うが……それは今回の話ではない。
この『ヒーロー』の何が問題であったか……それは『ヒーロー』の遺伝子、『ヒーロー遺伝子』が遺伝するという事だった。能力がそのままイコールで遺伝することは無く、また能力に目覚めるのは個人時差や環境差が有ったが、それでも世界中に爆発的に、且つ一部地域に偏る形で『ヒーロー』は増えていった。『ヒーロー』や『怪人』が普通に存在するのが、現在の普通なのである。
『ヒーロー』と『怪人』、その違いはない。ただそれぞれが「己の使いたいように力を振るう」という、ある種の問題が両者の差のように見えた。現実は『正義執行官』になっているかどうかの差という、かなり現実的には最悪な物だ。
結局のところ、個人の差によって『ヒーロー』だろうと悪人なのだ。『怪人』だろうと善人なのだ。
怪人ギリィ、飯山健司もまた、善人なる怪人に分類される存在だった。いや、そこまで善人ではない。ただ、いたずらに能力を振るう事が無い、というだけで、以来とれば誰かを襲うような傭兵を生業とするような奴ではあった。根は非常に善人なのだが、それでも彼にはやるべきことが有った。
それは、彼の甥、飯山 透真の事だった。透真は病気を患っていた。生まれながらの病気で、体は弱く、何度となく入退院を繰り返してきた。甥の両親、妹夫婦には彼を擁護するだけの経済力も無く、父親、つまり妹の夫は雲隠れをした。母親、妹は女手一つで育てようとするも無理があり、兄である健司を頼った。元は仕事を選ばなかったギリィだが、透真の事を知ってからは仕事を選ぶようになった。より稼げる仕事を、そして、子供に被害を及ぼさない仕事を。
なんとか無理をして平然を装いながら、妹親子の住む家を目指す。貰った回復剤の効果か、肉体は『ヒーロー遺伝子』の力も有ってかなりの回復を見せていた。とはいえ、体のあちこちは痛み、ゆっくり歩くより仕方ない状態だった。
夕闇が街を包み込み、街並みの上だけが赤く色づいていた。人気は無く、商店街などはシャッターも下りた店が多く、一層寂しげであった。その中を、ただ一人歩いて帰る。クライアントがあの家族に手を出していない事だけを祈って……
健司は妹親子の家を訪れ、いつもとの違いに気づいた。ごく僅かな差だった。健司自身もいったいどこが違うのか分からない。
セピアの明るい照明、飴色の綺麗な床、白く塗られた壁紙、ガラス抜きされた木目の綺麗なドア……いつもと変わらず見える玄関先。ただ一点、そう、甥っ子、透真が駆けてこない。10に満たない子供ならば、普通は外で遊んでいたり、あるいは学校帰りで寝ているか、一般的な子供で言えば、わざわざ出迎えてくることなど無いだろうが……透真は違っていた。叔父である健司を父親のごとく慕い、いつも元気に出迎えるのが彼の特徴とも言えた。
そうだ、甥の姿がない。……静かすぎる。
健司は急いでリビングへのドアを開けた。コートをそのままにリビングに飛び込んだ健司が見たのは……机、食卓の上に置かれた一枚の紙きれ。そこに書きなぐられた言葉は「約束」とだけ……
健司にはその意味が解った。きっと妹が見ても分からないだろうその意味は、決して良い意味の物ではないと、居るはずの甥が居ないことが示していた。
健司は悩んだ。どうすべきか悩んだ末、メモを握り潰して悪態をつき、クライアントとの待ち合わせの「約束」の場所へ移動を開始した。
健司は“仕事用の車”で、目的地へあと数十mのところまで来ていた。そして、目的地の様子を遠巻きに確認し、ある事態が起きて居ることを確認した。
「あれは……たしか」
ヒイロ・ジャスティスの愛車が、クライアントとの待ち合わせの約束の場所、郊外の港の倉庫に横付けされていた。つまり、ヒイロはクライアントを嗅ぎ付けて、本当に手をうとうとしていたという事らしい。
「なんてバカなんだ……」
健司は知っていた。こういう時、ヒイロのような根っからの『ヒーロー』は今回のクライアントの様な根っからの『怪人』には歯が立たないという事を。となれば……やるしかないだろう。
健司は、車のトランクを開け、更にその底を引きはがし、二重底の中から大きな棺桶型のアタッシュケースを取り出した。健司の、ギリィの仕事道具だ。
ギリィの戦い方は、接近戦タイプの相手には実に有効だった。罠を張り巡らせたところにわざと自分の姿をさらし、堂々と正面から狙撃する。銃弾ごとき避けれる『ヒーロー』や『怪人』は多いが、その後ギリィを殴りに来れば、大量のトラップが二重三重に発動し、普段は避けれる銃弾に嬲り殺される、という、なかなか相手を選ぶ戦闘スタイルだ。だが、それ故に、型にハマればセカンドランカーも倒せる、と思われるほどの実力も併せ持っている。
さて……防戦が得意な怪人ギリィが、いかに攻め込むべきか、そこが問題であるが……
とにかく、ギリィはマスクをかぶり、黒いコートに身をつつみ、黒い山高帽を持って、目的地へ急いだ。
様々な用意を終えて倉庫にたどり着いた時には、すでに日は沈み、月が頭上に上るほど時は過ぎていた。港から一望できる景色は、対岸の工場地帯の灯りで煌びやかに彩られ、彼方にある灯台の光が、定期的にギリィや目的地の倉庫街を照らし出していた。
その暗闇に紛れ、ギリィは倉庫へ近づく。
「おい、なんだ貴様は? 止まれ、この先は貸し切り、取り込み中だ」
如何にもな雑魚が彼の道を遮る。その声にギリィは立ち止まり、手に持っていた山高帽をかぶる。遠方からの灯台の灯りがギリィを照らしだし、そのまま光が過ぎ去る。そして今一度その場所を灯台の灯りが照らしたときには、ギリィを止めた男が首から血を流して死んでいた。怪人ギリィの姿はそこにはない。
倉庫の中では、ギリィの予想した通りの光景が広がっていた。
隅の折で寝かされる透真と、そこから見える位置にはりつけにされ、素顔を晒しながら拷問される『ヒーロー』の姿。そして、その拷問をする『真の悪』……『正義執行官斡旋所』のランキング一位、トップランカー:アユラ・マンユの姿。
クライアントとどういうつながりが有るかは定かではないが……どうみても、ヒイロと敵対し、今回の件の中枢に居るだろう。
アユラはその白く煌びやかな姿を振り乱し、拷問を楽しんでいるように見えた。その姿は『正義』のそれとは程遠く、ヒイロの憎しみの籠った目がその悪質さを語るに十分であることもギリィの目には映っていた。
おそらく、甥の居る檻に仕掛けがあるか何かなのだろう。でなければ、先の剛腕を持ちながら大人しく磔になっている理由が無い。ギリィは目を凝らし、あたりをうかがう。こういう時『悪』の思考が役に立つ。どうすれば『正義』を語る者が手も足も出ないのか、それを考える。……自分なら、どうするか、如何に残虐な発想が浮かぶのか、そしてそれを実行した際の醜悪さを物ともしない、己の倫理などすり減る程の悪の考え方……
思い至るまでに、長い時間はかからなかった。単純な話だ。
甥の、人質の居る檻の下に、落ちれば人質が死ぬような物を置く。酸の風呂、灼熱の炎、毒ガスの穴、なんでもいい。そして、その檻を……『ヒーロー』に吊るさせる。そう、拷問して意識も絶えかねない『正義』の味方に。そうすれば『ヒーロー』は動けない。『ヒーロー』を嬲り殺すことができる。まして、今回はギリィへの報復も兼ねている。甥の命など、アユラには取るに足らない細事だろう……
ギリィは、アタッシュケースから特性のチャフグレネードを取り出した。電子機器にノイズを起こすのがチャフグレネードの特徴だが、このオリジナルのチャフグレネードは、電子系統そのものにバグを起こす。その効果は、この程度の倉庫なら約3分停電に出来るほどだ。……3分。十分な長さだ。ギリィはチャフグレネードのピンを引き抜いた。そして少し待ってから……倉庫の窓ガラスをチャフグレネードの底で割り、中に投げ込んだ。
倉庫内に銀の紙ふぶきに似た物が舞い散る。完全に天井の水銀灯が消え、外から差し込むわずかな光に反射し、キラキラと光る。灯台の灯りが倉庫を薙ぐたびに、幻想的な光景が、無機質に詰め込まれた段ボールやコンテナばかりの倉庫を彩っていた。
その暗闇の中、はっきりと目立つ白い姿のすぐ後ろに、黒い影。
ギリィの能力は、主に二つ。一つは機械の操作。わずかな電流、磁力しか操れないが、これを使って様々な機械を作り出す。オリジナルチャフグレネードも然り。今、アユラの首元に突き付けている小型の飛び出しナイフも然り。そして二つ目の能力は、闇に溶ける能力。暗がりに紛れ込んだギリィを見つけ出すのは、たとえいかなる能力であろうと無理である。その間、あらゆる物理現象を無視し、あらゆる物体の間を通り抜け、万物の法則すら無視する完璧な暗殺者である。
ギリィのナイフはアユラの首元に届き、その柔らかな肌に食い込む。
とった! ギリィが確信する。これで……
「透真を救える、とでも?」
アユラがそう言いながら、不敵な笑みを持ってギリィの腕を抑えた。
ギリィの闇にまぎれる能力、弱点があるとするならば、それは攻撃の瞬間は必ず実態を取らねばならない事。その弱点をあらかじめ知られている相手には、ギリィは恐れるに足らない相手である。元々『ヒーロー』の超人的身体能力を駆使すれば、突如背後から首元に当てられたナイフごとき止めるのは訳ない話だ。
そう、問題は、トップランカー:アユラ・マンユのその能力!
ずばり読心術である。それはたとえ相手の姿が捉えなくても可能であり、むしろこの読心術をレーダーのように半径50mに展開すること。それにより、たとえ語感が機能せずとも相手が“見える”、相手の手の内が“理解できる”、まさに、最強の能力であった。
ギリィは肉体的能力が高い方の『怪人』ではない。だからこその隠密、機械を駆使した暗殺術である。対するアユラは正面切って戦うインファイター……この間合い、この腕を掴まれた状態、それが意味する結果は……
アユラの力で、ギリィは自分の腕の骨が砕かれることが分かった。痛みが走り、自分の口から苦痛にうめく声が漏れる。
「実に残念だったな。惜しい、惜しい、実に惜しい。私の能力で……見えるぞ、お前の心が!ふふふ……惜しい惜しい惜しい惜しい惜しい惜しぃ……とても、とても」
そしてそのまま腕を引きちぎられるのではないかと思った時だった。アユラがギリィをヒイロに対して投げ飛ばしてぶつけた。
「ほほぅ、なるほど、次の手が読めるぞ。なぜ私がヒイロを始末しようとしていたか、解るか? その馬鹿は、思考で戦闘をしないタイプなんだよ。直感で戦う。直感でどう動けばいいか理解して戦うタイプだ。その手合いがすごく困る。……次の手が読めないからね。しかも、昔懐かしい正義漢ときたもんだ。素直に汚職にでも手を染めてれば、私が優遇して目をかけてやったのに……」
ギリィは焦っていた。まさか、アユラの能力がこんなのだとは思っていなかったからだ。確かに超人的な身体能力を持っているとは思っていたが、せいぜい動体視力がすさまじいとかそんなレベルだと思っていたからだ。手の内が透けて見られてしまうのは計算外も甚だしかった。
「それどころか、私の悪事を世に広めようとした。それは良くないぞ『ヒーロー』。そうすると多くの私のスポンサー企業もダメージを受けてしまう。私が投資している大企業も危険だ。だから、そこは『大人の都合』で見て見ぬふりをする。それがマナーなんだよ、坊や」
ギリィはゆっくりと、アユラにマスクの下で笑いかけた。それを感じ取ったアユラの眉間にしわが寄る。ギリィの考えは、すなわち、ヒイロの代わりに檻を支えることだ。きっとヒイロの力でしか持てないほど重いだろうが……だが、ヒイロでないと勝てない相手を相手取る以上……他に手はないだろう。
すぐにヒイロの方へ、アユラに背を向ける形でギリィは立った。ヒイロにギリィは言う。
「頼むぜ、ヒーロー」
背後に殺気の塊が迫る中、檻を吊るしているロープに手をかける。
「『正義は人を殺さない』んだろ?」
ギリィは背中に鈍痛を感じた。だが、今手を離すわけにいかない。甥の命が自分の手の内にある。その決意を砕くかのように、背中で何かがゴリゴリと音をたてて砕ける感覚がある。自分の骨がアユラの怪力で砕かれていく感覚に意識が飛びそうになりながらも、砕き折られた腕で、檻を吊るすロープに渾身の力を込めた。
その直後、背後で鈍い音のぶつかり合いが始まった。脇目に見れば、ヒイロとアユラが殴り合いを始めていた。暗がりのなか、時折くる灯台の灯りに照らされながら、一進一退の攻防が続く。アユラがヒイロを苦手とする理由がギリィにはなんとなくわかった。アユラは決して戦いの経験値が多いわけではないのだ。その能力を使うことで、如何にも歴戦の猛者のごとき振る舞いが出来るだけだ。対するヒイロは戦いの神に祝福されたかのごとき申し子であった。そのほとんどが勘で行われているというところを考えるに、そのセンスは天性の、まさに戦いの申し子というにふさわしかった。
ギリィはロープを持ち前の機械を使い、磁力と合わせて固定し、限界を感じてその場に崩れ落ちた。腰から下が動く気配を感じない。折れたにもかかわらず力んだ利き腕は切り離したいほどの痛みを訴えていた。マスクの中で自分の荒々しい息づかいを聞きながら、『ヒーロー』同士の殴り合いを見守っていた。そして……万が一の時の為……そう考えて、ギリィは時限式の爆弾を取りだしておいた。
そして、灯台の灯りが過ぎ去った後の暗闇の中、鈍い音共に殴り合いは終わったようだ。その直後、倉庫に灯りが戻る。天井の水銀灯がうなりを上げて灯り、状況をあらわにする。
それは、ヒイロがアユラに首を掴まれている状態だった。ヒイロの首をねじ切らんばかりにアユラは腕に力を込めている。
「まさか、私に勝てるとでも思っていたのか? 残念だったな。ああ、実に惜しかったよ。私の第二の能力が無ければ危なかった」
最悪の光景だった。負けたのだ。ヒイロが。
「冥土の土産に聞かせてやろう。私は勝利を確信したからな。そう、私の第二の能力は、未来予知だ! そもそも、相手の感情が読めるだけでトップランカーで居られると思うか? 電撃を放つ『怪人』相手に、どうやって電撃を良ければいい? 簡単だ。何時、何処で、どんな攻撃が来るか知っていれば、恐れるに足らん!」
アユラはしたり顔で、ヒイロの首を絞めながら言う。
「もっとも、この能力も連続では使えんし、あくまで断片的にしか知ることができない。だが、お前がどういう戦い方をするか、断片的にでも知っておけば、あとは何とかなる。そう……詰んでるんだよ、私と戦おうと言う時点でな!」
ギリィは小型の炸裂弾を取り出し、それを投げた。すぐ手前で破裂し、アユラに鋲を大量に放つはずだった。が、アユラはそれを察知、炸裂弾が破裂する直前、最良のタイミングで倉庫にある近場の荷物をけ飛ばし、飛来物を防いだ。ただ微かに、ヒイロには当たるように仕組みながら。
結局、ギリィが放った炸裂弾は、ヒイロにわずかに当たっただけだった。
アユラが言う。
「で、もう手品は終わりかな? 『怪人・ギリィ』?」
「いや、俺にもいつ発動するか分からんものなら、一つある」
あらかじめ、タイマーを見ずに投げ込んだ爆弾が……!
アユラの顔が恐怖にゆがむ。そして、必死にその光景を未来予知しようとするその背後で、爆弾が爆発した。
「結局、ランダムな攻撃、撃った側も予測していなかった攻撃に弱いんだろう? なら、これぐらいしか手が無くてな。悪いな『ヒーロー』
悪態をつきながら、そして痛みに悶えながら立ち上がろうとするアユラをヒイロが抑え込みながら言った。
「まったくだ。正義の味方なら、仲間は巻き込まない」
「ああ、だが、俺は正義じゃない……その諸悪の根源を、俺によこせ!」
ヒイロは少し迷った後、焼けただれた背中をした『正義執行官』トップランカーを後ろでねじ伏せ乍ら立ち上がらせた。
ギリィは、片足を引きずりながら、飛び出し式ナイフをもって、暴れるアユラの首を裂いた。
「すまんな、正義の味方に悪を看過させるような真似をさせて」
「さあな。……こういうのを見ないのが『大人のマナー』なんだろう?」
が、そこで二人はある異変に気付いた。
檻の中の人質、飯山透真……その異変に。
彼は檻の中で起き上り、そして、銀に光る目でギリィを見た。ギリィの体が宙に放り出され、壁に打ち付けられる。唐突に目覚めた透真の『ヒーロー遺伝子』の能力が、ギリィを吹き飛ばしたのだ。彼の眼には、アユラがヒイロを庇ったように見えただろう。
ヒイロが咄嗟にそれを止めようとする。
「言うな! さあ、かかってこい! 『ヒーロー』!!」
それに呼応するかのように、透真が言う。
「ヒイロ! 倒して! 悪い怪人をやっつけてよ!!」
体中ボロボロになりながら、怪人ギリィは正義の味方ヒイロに、立ち向かう。何も知らない人質の、未来の正義の味方の為に……そして倒れた最強の正義の味方アユラ・マンユの為に、今その悪を撃つ。
ヒイロの腕時計型の『悪係数測定器』が電子音で告げる。
「『怪人・ギリィ』悪指数、1080。極刑対象と認定しました。応援を要請致します。『正義執行官』ランキング・ファースト、ヒイロ・ジャスティスの戦いを応援したします」
ヒイロはやるせない怒りで吼えた。そして、静かに戦う姿勢を作った。
そこに、ギリィは得意のナイフで切りかかる……
そして、光に似たその拳で、正義が執行された。
飯山健司は思った。
最高に胸糞の悪い、正しいエンディングだ。
この後どうなったか?
いや、想像に難しくないでしょう。
ヒイロが倒さなくても、応援に来た連中が倒すでしょうし、
そもそも重症すぎるのに叔父さん頑張りすぎ
その後、透真がヒイロに弟子入りしてヒーローになったり
また別のキャラが透真と競合する形で『正義執行官斡旋所』と戦うのはまた別のお話。
ちなみにヒイロの第二能力は有りません。正しくはまだありません。
ほら、主人公ってピンチになった時、新しい能力に目覚めるでしょう?
というメタい理由から第二能力はまだ持っていません。
その後目覚めていたとしても、それは『正義執行官』として、でしょうね……
あ
ちなみに今回のお話、少なからず某アニメの影響を受けております。
でも毒はワタクシの作品にしては、影響を受けた作品の割に、かなり少ないような?w
ここまでお読みいただきありがとうございました