君と女の子は言いあう
少し短めです。
「と、とりあえずさっきのところに戻ろう」
「う、うん」
お互いにとまどいながら、君たちは君の両親のもとに戻ることにした。
君は自分の身体をさわって、痛いところがあるか確認していたけど、どうやら特に痛むところはなかったようだ。
君の身になにが起こったのだろうか。
それを理解できるものはこの場に誰もいなかった。
「お帰りなさい」
優しくほほ笑みながら君たちに語りかけた。
君はその様子を見て、自分も落ち着こうと深呼吸をした。
そして告げた。
「ただいま!」
と。女の子もそれに合わせて、遠慮ぎみに
「た、ただいまです……」
そう続いた。
言った後に、女の子はなぜ言ってしまったのか、とでも言いたげな顔をしたが、すぐに表情を元に戻した。あいかわらず大人っぽい女の子だ。
「お帰り。さて、なにをしていた?」
さっきまで訊くな、なんて君の母親に告げていた君の父親だが、軽い感じでその質問を君にぶつけた。君の母親は少し表情をくずして君の父親を見たが、君の父親は素知らぬ顔でくちぶえを吹いていた。
子供っぽいところが多い父親だ。
「ひみつ!」
女の子が口を開こうとしたが、君は無垢な笑顔で言い切った。この笑顔を見せられたらこれ以上追及するのはむずかしい、そう判断したのか、君の父親はふーん、とだけつぶやいた。
「じゃあ、家に戻りましょうか」
「うん!」
もうご飯は完食されているようだからきっと雑談でもするのだろう。君は女の子の手を引いて家に入っていった。
君たちは食卓から少し離れたところにあるソファーや座布団に座った。君の父親と母親はソファーに、君は座布団に座った。
普通幼い子供が一人座布団に座ることはないのだが、君はなぜかこの場所を好んでいつも座っているのだ。
君はどこかから真新しい座布団を取り出してきて、君のすぐ横に置いた。
「どうぞ!」
君はにこにこと笑顔を浮かべて言った。
「あ、ありがとう……」
女の子はびくびくしながらも、君の用意した座布団に座った。君はその様子を見ると、真剣な表情になった。
「どうしたの?」
気になったのか、女の子が君に訊いた。すると君は得意げな顔をして言った。
「まだあきらめないよ!」
えっ、女の子がつぶやくのを気にせずに君は詠唱を紡ぎはじめた。君の父親と母親に聞こえない程度の小さい声で。
「われ、もとめるは、なきあねのそせい。たいかはぼくのいの――」
「だ、だめ!」
女の子は君が対価を指定しようとしたとき、君の腕をとり止めた。
「お姉ちゃんはそんなことを求めてない、そうさっき言ったよね? 男の子の命をかけて救ってもらっても困るだけだと思う。だからもう……やめよう?」
「でも……」
「これはもうあきらめるとかそういう問題じゃないんだよ? 今の男の子の行動はお姉ちゃんを侮辱しているようなものだよ」
「ぶ、ぶじょく? ……おねえちゃんをばかになんかしてないもん! ぼくはおねえちゃんをたすけたいんだ!」
やめてよ……
「もうお姉ちゃんは満足してるよきっと。終わったことに余計な手出しをして、嫌な結果になってしまったら……後悔するのは君だけじゃない。お姉ちゃんだって、君のお父さんだってお母さんだって。みんなが嫌な思いをするんだよ!?」
もう……いいから。
「みんなを助けるのが男の子のちからなんでしょ? ならそんなことをしていちゃだめだよ!! それだとみんなを全く助けられてないよ! うそつき!」
「うっ……。う、うそつきじゃないもん! ぼくは……おねえちゃんもたすけてみんなをたすけるんだ!」
私はもう……いないから……。
「お姉ちゃんはもう、助かっているから!」
「たすかってないよ! だって……もうぼくのちかくにいないもん!!」
お姉ちゃんは……近くに、いるよ……?
「君の近くで見守ってくれているよ! きっと……それなのに……君は最低だよっ!!」
「……でも……でもっ!! みんなおねえちゃんをおぼえていないよ!! おねえちゃんはいないとだめなんだよ!」
お姉ちゃんは……お姉ちゃんは……
「お姉ちゃんのこと……君のお父さんとお母さんは覚えていたよ……?」
「……っ。でも……ぼくはあったことないもん!」
「お姉ちゃんはどこかにいるよ」
「おねえちゃんはもうどこにもいない!」
「――ここにいるよ」
えっ?
私の声が……伝わった?
もうそろそろ完結です。