君は助けるための準備を始める
シリアス回です。
三点リーダーをあえて多用しています。
「【人を助けられない】ちから……いや、ちからを持っていないとも言えるかもしれないですね……」
その言葉に、君の母親は女の子の地雷をふんだことを理解すると同時に、おどろいていた。
君の父親も、衝撃的な発言を聞いて、驚愕していた。
君は、なにやら大変なことが起こりそうだと理解して、一言放った。
「だいじょうぶ! ぼくがまもるから……!」
君にしてはめずらしく必死に言い放った。
しかし、君の心配はいらなかった。突然、君の父親と君の母親が泣き出したのだ。めったになくことのない母親に加え、感情を抑えるのが長所の父親さえも。
こんなことになるとは全く思っていなかった女の子は、取り乱しながらも、ど、どうしたのですか? まどと気遣っていた。
君も、だいじょうぶ、などと声をかけ、しばらく君の父親と母親が落ち着くのを待った。
なにかにすがるような悲しさ、いた、ちがう。その様子はうまく言葉で表現できなかった。
しばらく時間が経ち、落ち着くと、君の父親はポツリ、ポツリと昔のことを語り始めた。
「このことを話すか迷ったんだけどな……君も同じみたいだから話をさせてもらう。少し長い話になるから……準備して聞いてくれ」
君の父親の神妙な様子に、君はうなずいた。君の父親は、君も、と言ったところで女の子を軽く指さしていた。つまり、これからの話は女の子にかかわる話だと予測できた。
女の子は、ゆっくりとうなずいた。君の父親は深呼吸をすると、息を静かにはいた。呼吸を整え、そして話し始めた。
「まず、この過程には姉がいたんだ。我が息子のな」
えっ、君は小さく驚いた。姉……君の姉か……
「だが今はもう……」
君の父親が首を左右に軽く振った。その動作が示すもの、つまり……君の姉の死だ。
女の子は、口を押さえた。そして自分の存在を消してしまうようにうつむいた。
「姉は優秀だった。我が息子も十分に優れているけどな!」
「えへへ……」
君は嬉しそうにはにかんだ。
「冷静沈着。頭脳明晰。運動はあまり得意ではなかったな。ただ、神童とも言われていて、ついたあだ名は博士だ。……どうだ、すごいだろう?」
「うん!」
絵に描いたような天才児。一時期はギフテッドとも言われたけど、しばらくしてちがうことがわかった。
なぜって?
それは簡単だ。だって――
「君の姉は【人を助けられない】から」
運命の神に嫌われた存在。それが君の姉だった。
「……ぎ、ぎふてっと? それってなーに?」
女の子の顔に緊張が宿ったが、君の素直な質問に緊張の糸をといた。
「あはは。まだ難しかったかな? ……ギフテッドっていうのはね、ものすごく頭のいいひとのことなんだ」
さっきとちがって穏やかな顔で告げた君の父親はいつもと同じだった。でも、すぐに話を再開した。
「ギフテッドというのはな、神あるいは天から与えられた資質。つまり神様からのプレゼントという意味なんだ。だから、神様に愛されていないとギフテッドにはなれないんだ。でも、【人を助けられない】というのは神様が決めるんだ。運命のいたずらってやつだな」
「えーと……ぼくのあねはかみさまがきらいなの?」
……
「お姉ちゃんって呼んであげな? えっとね、それはすこーし違ってね、かみさまがお姉ちゃんのことを嫌いだったんだ」
お姉ちゃん、かあ。いい響きだね……
「……かみさまってひと、ひどい!」
「あはははは……。確かにね」
「……話の途中にすみませんが、男の子の姉は本当に【人を助けられない】のですか?」
「ああ。君も姉のことはお姉ちゃんと呼んでやってくれ。……お姉ちゃんには本当にちからがなかった。頭がまわる子でいくつもの困難を乗り越えていたけどね」
「……失礼ですが……お、お姉ちゃんの最期は……?」
「……息子をかばってあやしげな組織に殺された。……死体は見るも無残なくらい切り刻まれていて、目を覆ってしまいそうだった……。お姉ちゃんは最期、笑っていたな。弟を助けられてよかった……と」
「お……ねえちゃん……?」
思わず涙が出てしまいそうだった。もう涙なんてないのに。
「お姉ちゃんはね……小さいころから苦労して過ごしてきたの……たくさんけがをして、ね。……やっと報われる……みんながそう思っていたのに! なんで……なんでお姉ちゃんが……」
お母さんはさっきより激しく泣いていた。嗚咽をもらし、手は目を隠して。
「お姉ちゃんは助からなかった。それが【人を助けられない】者の運命なのかもしれないな。……君は優しい。だから【人を助けられない】者の末路を聞いた君は息子からじゃ慣れようとするだろう。……それをやめてくれないか? きっとどんな悲しい運命も息子が助けてくれるから」
「私は……私は……」
女の子は人生をわけると言っても過言ではない、究極の二択を目にむせび泣いていた。でも女の子は強い。
だからこそ、この選択はしたくなかったのだろう。
「男の子に……君に、ついていきます……!」
「んー? よくわかんないけど……ぜんぶぼくがたすけるから!」
「……ありがとう」
女の子は君には聞こえないくらいの声で礼を述べた。
「息子よ……お前はすべてを【助ける】か?」
「うん!」
「息子はすごいな……。きっと今のお前がいたのならお姉ちゃんも助かったんだろうな……」
遠い目をして君のお父さんは告げた。
君は言った。
「今からぼくが【助ける】!」
ギフテッドについてはウィキがあるのでそちらを見てくださると色々と得します。
この小説では独自の解釈とともに、諸説あるなかの一つを採用しています。
リンクって貼っていいのかな?
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