君は談笑する
新年初更新です。
期間内の完結を目指します。
「い、家!?」
女の子は驚きの声を上げた。
「ぼくのともだちだもん。いっしょにあそぼう!」
君は友達を作るのが上手い。それは、君を知っている人ならみんなが知っていることだ。気付いたら友達になっているのだ。
ともだちは家に呼んで遊ぶ。それが君のテンプレートだった。
女の子は戸惑いながらも、うなずき、君の家に駆けた。
「ただいまー!」
君は家のドアを開けた。
「あら、早かったわね。……その女の子はどうしたの?」
君の母親の問いに、君は答えた。
「ともだち! ごはんたべる!」
君は別に言葉を伝えるのが苦手なわけではない。ただ、君の両親にはこの言葉だけで意味が伝わるとわかっているのだ。
「おー、ついにお前も女の子を連れてくるようになったか……感慨深いものだな」
感慨深い、その言葉の意味は君にとってわからなかっただろう。でも、君の父親がからかっていることには気付いたみたいだ。
君は鈍感ではないようだね。……将来が楽しみだよ。
「うー。ともだちだもん!」
君はほっぺたをぷくっと膨らませて、言い張った。女の子はあたふたしていたけど、この状況を読んだみたいで、ていねいに言った。
「よろしくお願いしま……す?」
読めてない、読めてないよ女の子。思わずそう声をかけてしまいたくなるようなセリフを女の子は言った。その言葉に君の母親はいつもよりも嬉しそうににこにことしており、君の父親はな、なに!? と慌てた様子を見せた。
君はまだ恋愛というような感情を知らない。だから、女の子が言った言葉にも大きい反応は返さなかった。
「いっしょにごはんたべる!」
この言葉はさらなるおいうちになっていたのだが、君は知らないから気にならない。
君の両親は最終的に嬉しそうにしていた。そして、ごはんを作りはじめた。
君の母親が調理をしている間、君の父親は訊いた。
「今日はどうだったんだ、我が息子よ」
君は嬉しそうに答えた。
「【みんなを助けることができるちから】をつかえるようになった! えへへ。すごいだろー!」
「おー。それはすごいなー……って、えっ!?」
君の父親は表情を変え、驚いた。普段は落ち着いている君の父親は驚いた様子を見せないので、君にとっては新鮮な経験かもしれない。
君は知らない。【みんなを助けることができるちから】がどれだけ珍しいかを。
そのことを察したのか、君の父親は静かに言った。
「いいか、それはお父さんとお母さん以外の人には言ってはダメだぞ? もうそのことを知っているのは誰かな?」
切り替えが早い、君の父親はね。さっきとは違う真剣な顔で言われた君は、うーんと思い出し始めた。
そして、女の子を指差した。
「ふむ……君は大丈夫そうだな」
君の父親は女の子の目を見つめて言った。
女の子は、凛とした面持ちで、視線を固定した。君の父親はその様子を見てため息をついた。
「最近の子は大人びいているねえ」
でも、君の父親は笑顔だった。そして、あることを君と女の子には聞こえない声でつぶやいていた。……息子の姉さんも大人だったなあ、と。……姉さん。
「もうすぐごはんできるわよー!」
君の母親が台所から声をかける。その声をきっかけとして、君と女の子、君の父親は動き出した。
「し、失礼します」
女の子がそう言って、机に腰掛けた。その様子を見ると、君の父親と母親は懐かしいな、などとつぶやきながらほほ笑んでいた。
「じゃあ、いただきます」
君の母親の言葉に君は元気に言った。
「いただきます!」
それに続いて君の父親が続いて
「いただきます」
最後に女の子が周りの様子をうかがいながら
「……いただきます」
食事が始まった。
かちゃかちゃと食器の音がするが、君がそれより大きい声で話しているので、特に気にならない。君は、【みんなを助けることができるちから】が使えるようになったこと、今日の感想、女の子と仲良くなったことを話した。
君が楽しげに語る様子を見て、君の父親と母親はほほ笑ましそうに聞いていた。
女の子はうつむきながらも、おいしそうに料理を食べていた。でも、食べているうちにおなかがすいてきたのか、顔を上げ、ばくばくと食べ続けた。
異様ともいえる速度に、自然と君たちの視線は女の子に注がれた。
あっという間に完食した女の子が恥ずかしそうにしていると、君の母親がちょっと待っててね、と言って再び台所に姿を消した。
「いっぱい食べるんだね!」
君の無邪気な言葉に、少し翳を見せた女の子に気付いた君の父親は声をかけた。
「君はその家にいて幸せかい? その様子だとまともに食べていなそうだけど、どうする? うちにでも来るか?」
びくっと身体を震わせた女の子に、不思議そうに国をかしげる君。あいかわらず君の父親はすごいな。翳を見せただけの女の子を見て、その女の子の事情をも知ってしまうのだから。
恐ろしい洞察力。それが君の父親の特徴だ。その選択眼を君は少しは受け継いでいるみたいで、君が仲良くなる人は皆、いい人ばかりだ。
「……いえ。ただ、辛いことから逃げてばかりでも駄目なので。血のつながりくらいは自分で書き決したいと思います」
大人だ。言葉づかいから、強い決意。選択する力を女の子は持っていた。
「その年でその意思を持つか。君は強い子だな……」
どこか悲しそうに。その反面どこか嬉しそうに君の父親は言葉を告げた。
君は、よくわからなかったようだけど、女の子が辛い目にあっている、ということは理解できたようだ。
「だいじょうぶ? いやなことがあったらぼくがぜんぶたすけるから!」
君の純情を目の当たりにした女の子と君の父親は、胸を押さえて、反応した。
「もうだめだ、心が穢れてしまっている」
「あ、ありがとう」
さっきと同じで、不思議そうに首をかしげた君。すると、7君の母親がなにかをかかえて戻ってきた。
「はい。これ、食べていいわよ」
差し出された食べ物を見て、女の子は唾を飲んだ。
女の子は君の母親を見つめた。
君の母親は優しげにほほ笑んだ。
「……ありがとうございます。いただきます」
うっすらと涙をうかべて、女の子は口をあけた。
君と君の父親も食事を再開し、途切れていた話もつながった。
机を囲んで談笑する君たちだったが、ふと、君の母親が思い出したように言った。
「あなたはどんなちからに目覚めたのかしら?」