君は家に帰る
短めです。更新が遅れてすみません。
君の異変に、近くにいた女の子は真っ先に君を見た。そして君が頭を押さえているのに気付くと、君に駆け寄って叫んだ。
「どうしたの!?」
大丈夫、というようなわかりきった事実を尋ねるより、はるかに効率的な質問だっただろう。女の子は見た目に比べて頭の回転が速いのだろう。
でも今の君にそんなことを気にする余裕はなかった。君の声を聞いた人はみんな不幸になってしまう、そう言われても信じられるほどの叫び声を君は上げていた。
「だ、大丈夫か!?」
本当なら気休めになるはずの言葉が、君に降りかかった。無駄と言えば無駄だろう、でもその言葉がかけられるのは当たり前であり、疑問を持つ人は当然いなかった。
君は、女の子に背中をなでられるけど、叫び声は全く収まっていなかった。
「ち、治療師を呼んでくるから少し待っていてくれ! みんなたちは……えっと。……静かにしていてね!」
男の人はあせった声で言い残して、どこかに走って行ってしまった。しばらくの間、君は謎の頭痛に苦しむことになった。
未来の発展した医療技術でも、【すごいちから】についての治療方法は確立されていない。だから、こういうような集まりでは、専門の治療師が必要なのだが、今回はたまたまいなかったようだ。
まあ、普通君のように異常をうったえる子がいる方が珍しいしね。
数分が経った。もうすぐ男の人が帰ってくる、そんなことを感じさせる空気が流れる。すると、ほとんどの間続いていた君の悲鳴が断続的になり始めた。
そして時間をかけて声も小さくなっていき、男の人が治療師をつれて帰ってきたころには、いつも通り立てるようになっていた。
「大丈夫……?」
ふしぎそうに訊く男の人に君は、はっきりと言った。
「もうだいじょうぶ!」
意味がわからない、とでも言いたげな年配の治療師は男の人を軽くにらみつけた。
男の人は、あわてて弁解しようとしたけど、できなかったようだ。
それにしても君はどうしたのだろう。痛みをうったえたと思ったら、しばらくしたら笑顔でだいじょうぶ、と言うなんて。
時間が経った。
男の人は、年配の治療師に頭を下げて、帰ってもらったあと、もう一度君に訊いた。
「もうだいじょうぶ、なのかい?」
その問いに、君は元気よく答えた。
「うん!」
けど、そのあとに続いた言葉が衝撃的であった。
「だってぼくは【みんなを助けることができるちから】をつかえるようになったもん!」
男の人は、その目を怪しく輝かせた。
女の子は口を開いたまま、固まってしまった。
子供たちは、不思議そうな顔で君たちを見つめている。
【みんなを助けることができるちから】幼い子供がヒーローを夢見て創ったような、軽々(かるがる)しい名前だけど、このちからはこの時代、実在するのだ。
このちからを持った子は、助けたい、と願いさえすれば、その人を助けられるのだ。例え、どれだけ厳しい状況でも。
チート、つまり反則的な能力だよね。【人を助けられない】人や、普通のちからを持っている人からすれば、うらやましく思うちからだ。
【みんなを助けることができるちから】を持った人は、良くも悪くも変わる。善くなるか、悪くなるかは、本人とその周囲の人次第だろう。
まあ、君はきっと大丈夫だろう。だって、君には仲間がいるからね。
男の人は、軽い咳払いをして、話し始めた。
「じゃあ次は、【すごいちから】の使い方について説明するから、みんな、向こうにいるお姉さんのところまで行ってくれるかなー?」
はーい! むじゃきな子供たちの声が響いた。子供たちが続々(ぞくぞく)と向こうに見えるお姉さんのところまで走っていくのを確認した男の人は、君と女の子に言った。
「一週間待ってくれるかな。だから今日は、帰りなさい」
上の人と相談するから、その言葉は君と女の子の耳には入らなかっただろう。君ははい、と大きな声で返事をして、女の子の手を握った。
「え、え?」
わけのわからぬまま、君についてくる女の子は訊いた。
「ど、どこに行くの?」
君は健気に答えた。
「ぼくのいえ!」