君の誕生
そう、これは今を生きている君は知らないであろう、未来の話だ。
君はお母さんのおなかの中ですくすくと成長して、産まれた。君を産んだ母親は君が元気に泣く様子を見て、辛そうではあったけど、幸せそうにしていた。
お母さんが君を産むために集まっていた人たちは、元気な男の子です、これだけ元気な子は初めて見たなあ、いい使い手になるかもしれないな、なんてことを言っていたよ。
しばらく元気に泣いていた君は、お父さんの大きい手でに抱っこされた。何を思ったか知らないが、君は急に泣き出してしまいそうになった。慌てたお父さんが頭をなでると、君はすぐに笑い出したよ。頭をなでられるのが好きなようだね、君は。
それから君は、いいお父さんとお母さんに、可愛がられて育った。けど君は強い子なようで、あまり甘えようとしなかった。頭をなでられるのには弱いみたいで、頭をなでられると、幸せそうに笑っていた。
そんな君にも、この世界での試練が襲い掛かったんだ。それが――
「よーしみんな。友達やお父さん、お母さんを助けたいひとはいるかな? いたら手を上げて大きな返事をしてねー!」
優しそうな顔をした大きい男の人が君やその周りにいる子供たちに訊いた。君はほかの子より大きな声ではーい! と叫んだ。
君が大きな声で叫ぶと、ほかの子も君に負けないくらい大きな声で返事をした。君と子供たちの返事を聴いた男の人は優しい笑顔で笑っていた。
ほかの子たちは男の人の笑顔につられて笑っていた。でも君は少し考えるような顔をして男の人を見つめていた。その時の君の瞳はいつもの君じゃないみたいだった。何を考えていたんだろうね。
「助けたい人がたくさんいて、いいねー! じゃあ、その人たちを助けるためのちからが欲しい人は手を挙げてー!」
はーい! 先ほどより大きい返事をした子供たちは男の人が次に話すことはなにか、待っているようだよ。でも、君は先ほどよりも顔を下に向けてなにかをつぶやいていた。さっきと全く違う君の様子にほかの子たちは不思議そうにしている。君はふと、周囲を見渡した。
君の目に映るのはたくさんの子供たちだろう。それも、君と同じくらいの年をしたね。でも、君はきっと見つけただろう。背の小さい君よりももっと小さい女の子がうずくまっている姿を。
君は女の子のところに行こうと、走ろうとした。でも、優しい顔をした男の人が君の手をつかんだ。男の人はなにかを言おうとした。
けど、君は男の人の手を振り払って女の子のところに行った。
「どうしたの?」
君は体育座りで座っている女の子の顔を下からのぞき込んで訊いた。急に君の顔が近くに来て、びっくりしている女の子に、君はもう一度声をかけた。
「なにかいやなことでもあったの?」
首をかしげて言う君を見た女の子は、何度かまばたきを繰り返して、口を開いた。でも、その口から聞こえるのは女の子の呼吸の音だけ。しばらく待っていた君だったけど、まだなにも言えなそうな女の子に、笑顔で言った。
「こまったらぼくがぜんぶたすけてあげるから、なんでもいっていいんだよ!」
君のけなげな言葉に女の子は少しだけ、笑顔を見せた。
「じゃ、じゃあ……みんなに助けるためのすごいちからをあげちゃうぞー!」
君と女の子のじゃまをする、君にとってはそう感じただろう。男の人の声が再び聞こえた。君と女の子を見つめていた子供たちはちょっとだけ、とまどったけど、男の人の優しい声に子供たちはおー! と元気なかけ声を出した。
君と女の子は男の人の方を向かないで、おたがいを見つめあっていた。
「……ありがとう」
女の子は君にしか聞こえないであろう小さい声でお礼を言った。君は女の子の様子を確認すると、笑顔で答えた。
「どういたしまして!」
君はお母さんから教えられた通りに、お礼を返した。君と女の子はにこにことした笑顔で、色々なことを話した。
でも、男の人が【すごいちから】についての説明を終えると、君たちを呼んだ。
「ちょっと君たちが試しにやってくれるかな?」
優しそうな声だったけど、君は男の人に怖い印象を抱いていたから、思わずからだを丸めてしまいそうになった。
でも、隣にいる女の子を見ると、女の子の手を握って、男の人のもとに行った。
「じゃあ、この丸い水晶玉に触ってもらえるかな?」
男の人は君と女の子の手を強引に引き離すと、君を水晶玉のところに引っ張っていった。君はおそるおそる水晶玉に触った。
パリンッ。
気持ちのいい音を響かせて水晶玉は割れた。
「……え?」
君は水晶玉に触れた手をじっと見つめた。でも、その手はいつもとなにもかわらない、小さく白い手だった。一体自分に何があったのか、君の頭はその疑問でいっぱいだっただろうね。
とまどっている君の手をとった男の人は、さっきとはちがう態度で興奮していた。君は顔をぽかん、とさせると、その場に立ち尽くした。
こんらんしている君に、男の人は言った。
「き、君は十年に一度とも言われる天才だよ! あああっっ! ま、まさかこの俺の代でつ、ついに神童が出たっ!! さ、さあ! 俺とともに行こう!」
さっきと全く違う男の人に、君は顔を固くした。
きっと怖いのだ。君は、この男の人が。さっきまでの優しそうな笑みが消えた、狂暴そうな男の人が。
【すごいちから】を持った君を憑りつかれたように見る男の人を、君は一瞬だけ見た。
君はすぐに目をそらすと、今度は女の子の方を見た。
女の子はさっきの君のようにぽかん、としていた。力の抜けたその顔はどこか面白く、君は周りのことを忘れて笑った。
静かなふんいきを感じさせるこの場は、君の笑い声で一気にうるさくなった。
女の子は、顔を少し赤くさせて、君を見て言った。
「すごい……ね」
少しだけ笑顔を浮かべた女の子を確認した君は満足そうにうなずいた。
そして狂気を感じさせる男の人が持っていた、新しい水晶玉をうばい、君は女の子に手渡した。
「どうなってもぼくがまもるから!」
なにかを感じた君は、女の子を安心させるようにそんな言葉を語った。君のけなげな言葉に女の子は悲しそうな笑みを浮かべたけど、ゆっくり水晶玉に触れた。
と思うと――
バチッ!
女の子の手は水晶玉に、はじかれた。




