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~ぬくもり~
そもそも、嘉織に愛情などなかった。産まれた子も乳母がみているし、子を可愛いと思うこそすれ、母としての愛情とは何か解らなかった。
それは嘉織に父親しかいない事とは別の話である。
「恋だってそうだわ」
年頃の乙女ゆえ、嘉織だって身を焦がすような恋をしてみたいものだ。
だが、自ら殿方に言い寄ったことなど無いし、寧ろしたくない……と言うのが嘉織という乙女の自尊心なわけで。
その割に言い寄られると、流されてしまう……困った乙女だ。
夫にも『らぶ』に【近い】『らいく』の感情を持っているらしい。
だが、口からでるのはため息と
「誰かあの“青髭”から助け出してくれないかしら…」
……絵空事である。
彼女が恋をするのは、何時も決まって過去の人物や書の中の人ばかりだ。
西の英雄に恋破れれば、つぎは東の国の歌人に恋をする。
ある意味で“身を焦がすような”恋はしているのかもしれない。
「紙束は抱きしめてくれないのよね…」
嘉織は手元の歌集をつめたく見つめた。