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金色の吸血姫Zwei!  作者: 杞憂
Summer Dream
8/14

猛る潜水艦です

3/7挿絵追加

10/29一部改稿・挿絵撤去

「へえ、じゃあ優奈ちゃんも俺らと同じ高校生なのか~。どこ住んでるの、近く?」

 僕(女の子ver)と蛭賀くんは海岸を歩きながら他愛もない雑談をしていた。

 蛭賀くんは僕の口からでまかせを完全に信じ込んでいるようだ。

 それにしても、自分が呼吸をするようにすらすらと嘘をつけることに驚いた。

 もしかして、僕には語りの才能があるのか?


「いや、とっても遠いよ。電車で二三時間はかかるかな、田舎なの」

「ほぉー、まあ俺らのとこも田舎っちゃ田舎だよ。あ、そういえばさ、なんで最初からいなかったの? なんか都合があったとか?」

 そこを突かれると困った。実際どうやって来たかとか気になるだろう。

 少し頭の中で考えて、僕はなるだけ笑顔で答える。


「……えっと、それはね。実は、僕……じゃなかった、私は、皆を驚かすためのサプライズゲストだったの。優介、くんが考えたんだけど」

「サプライズ……?」

 あ、あれ? 蛭賀くんが訝しげにこちらを見つめている。

 ちょっと無理があったか……?


「確かに、俺もかなり驚かされたよ! 優介にこんな可愛い親戚がいるなんて知らなかったからな~」

「あ、あはは……ありが、とう……?」

 面と向かって可愛いといわれると何だか気恥ずかしいのだけど……

 意識してか知らずか、なにも考えていないことは事実だろう。

 でもとりあえず、何とか僕が優介だということはばれずに済みそうだ。


 それだけでも安心だな。

「さ、優奈ちゃん! 行こうぜっ」

「う、うん」

 僕は手を引かれるままに彼の後についていった。 



「遅いわよ! 全く、下僕のくせにいつまで待たせるのっ!」

「私、もうカラカラですわ~~……」

「悪い悪い、色々あってよ」

 海の真ん中でぷかぷかと浮き輪に揺れているのは、ユリアとゲルダさんの二人だった。

 そういえばこのははどこ行ったんだろう、さっきから見てないな。


「ほいよ、受け取れっ!」

 蛭賀くんはそう言って二人にラムネを放り投げる。

 少し慌てた二人だったが、見事にキャッチして見せた。

「ちょ、危ないでしょっ!」

「あらあら、ユリアはこの程度もロクにキャッチ出来ないのですか?」


 ゲルダさんが挑発的な態度でユリアを煽る。

 単純なユリアはそれだけでむっとしてしまった。

「そんなことないもん、お姉ちゃんの意地悪!」

「うふふふ……ありがとうございますね、蛭賀さん」

 うん、さすが姉の貫禄だろう。ユリアは全然歯が立たないようだ。


 二人の様子を遠目に眺めていると、ふと気付いたようにゲルダさんがこちらを向いた。

「あら、蛭賀さん。そちらのお方は?」

「あ、ああ。この子は優介の親戚の優奈ちゃんだ。サプライズで来たらしいぜ」

 蛭賀くんがそう説明してくれて、僕はおずおずと二人の前に出る。

 なんか視線がちくちくと痛いけど、気にしないでおこう。


「ゆ、優奈です、お世話になりますっ」

 二人は僕を見て黙ってしまった。

 ど、どうしたんだろう。何かまずったかな……

「親戚、ですの?」

「あなたが? でも……」


 二人は僕をじろじろと疑いの眼で見つめてくる。

 僕はその視線に耐えられなくて、思わず目を逸らした。

「あ、あの……い、今だけお願い……」

 多分、二人にはばれかけてる。なんで分かるかは分からないけど、この目はそういう目だ!

 だから、僕は二人にだけ、蛭賀くんには聞こえないようにそう囁いた。


 それを聞いて二人ともなんとなく事情を把握してくれたのか、すぐに頷いてくれた。

「そう。よろしくね、優奈さん」

「歓迎いたしますわ。仲良くいたしましょう?」

 あ、ありがとう二人とも! 何だか強い助っ人を得た気分だよ。

 一先ず挨拶を交わし終えた僕たちは再び自由行動に移った。


 あんまり蛭賀くんと一緒にいると正体がばれてしまいそうだから、彼から逃げようと思ったのだけど……

「優奈ちゃん~! 一緒に遊ぼうぜ~っ!」

 どうやら、蛭賀くんから逃げるのはかなり難しいようだ。

 海の中で逃げようとすると抵抗のせいでスピードが出ないのに、蛭賀くんはまるで魚のようにすいすいと近づいてくる。


 しかも時々わざとなのか、しきりに海中でボディタッチをしてくるのだ。

 まさか気付いてないとでも思っているのだろうか。

「あ、あの。私ちょっと調子悪くって、だから先に上がってるね……」

 少し弱った振りをして陸に逃げようとする、も。

「なに、調子が悪いだって!? いかん、これは速やかに別荘に運んで看病しなければっ! ぐふふ……」


 ちょ、今この人ぐふふっつったよ? 病人に向ける態度じゃないでしょ、それ!

 明らかに性欲魔人と化している蛭賀くんとこれいじょう一緒にいたらまじで貞操の危機かもしれない。

 さすがの僕も、あっちの操より早くこっちの操を捨てるなんて勘弁なので。

「そ、そんなに酷くないんで……大丈夫だからーっ!」

 僕は全力で岸に向かって泳ぐ。息継ぎもすっ飛ばす決死の覚悟で。


 息も切れ切れ、これだけ飛ばせばもう振り切っただろうと、後ろを向く。

 ふぅ、僕の後ろには誰もいない。ただ広大な海が広がっているだけだ。

 僕は安心して前を向いた。

「大丈夫か? 優奈ちゃん」

「ひゃっ!?」


 僕の前、目の前に振り切ったはずの蛭賀くんがいた。な、瞬間移動っ!?

「体調が悪いのに急にとばすから、びっくりしたぜ」

「い、いつの間にっ!?」

 ど、どうなってるの、かなり本気で逃げたはずなのに!

 僕はその出来事に動揺して、あまりのショックに自分が今どういう状態になってるか分かってなかった。


 そして律儀にも、その事実を目の前の蛭賀くんが教えてくれた。

「優奈ちゃん、これ落し物だよ。可憐なその蕾を愛でるのも俺としては最高なんだけど、やっぱり女の子は恥らう姿にこそ美があるからな!」

 蛭賀くんはそう言って、どこかで見たことのある黒い水着を手に持っていた。

「は……?」


 一瞬こいつ何言ってんだろう? と首を傾げてしまう僕だったが、蛭賀くんがちょいちょいと下を指差したため、下を見てみた。

 そこにそびえたるは、なだらかな双丘の頂に咲く二輪の花……簡単に言うと、僕全裸でした。

「ひゃぁぁぁあぁぁっ!」

 え、ちょ、え!? なんで、何故に水着がなくなっておられるのですか!?


 動揺と羞恥で頭がいっぱいになり、僕は酷く狼狽してしまう。

 もしかして、全力で泳ぎすぎて脱げちゃったのか?

 一先ず空いている手で胸を隠した。

 蛭賀くんが持っていたのは、僕の着ていた水着だったのか。

「み、見つけてくれたんだ……あはは……ありがと……」

 女の子になっているからこそ、裸を見られてしまったのが凄く恥ずかしくて、僕はふるふると震えながら蛭賀くんから水着を受け取った。

 後ろを向いて急いで水着を着なおす。幸い水中だったため下半身までははっきりと見られてはいない。まあ、ほとんどアウトだろうけど。

「ああ……ここが天国か……」

「!?」

 不意に蛭賀くんの呟きが聞こえたと思ったら、今度はバシャンッと海に何かが倒れた音がし、慌てて振り返ってみると、蛭賀くんが鼻血を流しながら仰向けに浮かんでいた。辺りを着々と文字通り血の海に染めている。

 さっきまで元気だったのに、何事!?

「さすがの俺にも、強すぎる刺激だったようだ……もう限界……ぐっどらっく……」

「蛭賀くーーーーんっ!?」

 変態紳士、ここに散る。


 蛭賀くんが倒れて数分後、僕は彼を陸まで引っ張り上げ、今は砂浜で介抱していた。

「…………ん」

 ちょうど、蛭賀くんの意識も戻ったようだ。

 ゆっくりと開いた目が真上にいる僕の顔を捉え、寝ぼけているかのようにボーっとしている。

「あれ、俺いったい……優奈ちゃん、か?」

「うん、おはよう。びっくりしたんだよ? 急に倒れるから」

「……あぁ、そっか。俺……って、え、なに!? もしかして今俺、膝枕されてるっ!?」

「そうだけど……駄目だった?」

「い、いや、ダメっていうか……その……」

 蛭賀くんの顔は見る見る内に赤く茹で上がっていく。

 こんな反応するの、初めて見た。

 砂浜の上だと痛くなるかもしれないと思っての膝枕だったが、迷惑だったのだろうか。貝殻やら石やらがゴロゴロ転がっている砂浜に放っぽり出していた方がよかったというのか。

 そんな僕の無言のプレッシャーを受け、蛭賀くんはおずおずと答える。

「や、柔らかい……です」

「ん、よろしい」

 何だか胸の奥がほわんと温かくなってきたように感じて、気付いたら僕は蛭賀くんの頭を優しく撫でていた。子供みたいだ、母性ってこんな感じなんだろうか。

「あ、その……ごめんな、優奈ちゃん。元々体調悪かったのは君の方なのに」

 急に謝られて、意表をつかれてしまった。そういえば、そういうことにしていたんだっけ、すっかり忘れてた。

「私はもう大丈夫だし、蛭賀くんは水着を見つけてくれた恩人だもん。これくらい当然だよ、ありがとねっ」

「……はは、照れちまうぜ」

 そうして、少しの間だけ、僕は蛭賀くんに膝を貸してあげたのだった。



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