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金色の吸血姫Zwei!  作者: 杞憂
Summer Dream
13/14

あの子の事情

 その後は、皆と合流してスイカ割りを楽しんだりした。

 今度は僕の代わりに優奈が部屋で休んでいる設定になったりもして。

 エリーゼはゲルダさんとユリアに事情を説明してくれて、一応二人とも優奈のことをフォローしてくれるようなので、これでこのはと蛭賀くんにばれる可能性は大分少なくなったと思う。

 そうして楽しいバカンスの一日は着実に過ぎていき、

 やがて満天の星空が輝く、夜がやってきた。


「そろそろいい時間ね、お風呂にしましょうか」

 皆が別荘のリビングに集まって休憩している中で、ユリアが提案した。

「いいですわね。たくさん海で遊んだので、ちょっと潮くさいですから」

「我はもうくたくたなのだ~、眠いぞ……ふぁぁ……」

 エリーゼはあくびを噛み殺している。目蓋もとても重そうだ。

「冷えたままだと身体に悪いよ、お風呂で温まったほうがいいと思うよ、エリーゼ」

「むぅ……優介がそう言うなら……ふみゅ……」

「そうと決まったら、順番を決めましょ。三人ぐらいまでなら一緒に入れる広さはあるわ」


 本格的にこの別荘、うちの家よりも凄いかもしれない。

 まあ僕と蛭賀くんはもうペアみたいなものだから、後は女子組が決めるだけだろうな。

 結果としてはすぐに三組に別れた。

 ユリアとゲルダさん、このはと紗織、エリーゼとラウラさん。まあ順当な結果だと思う。

 僕と蛭賀くんは他の皆が入り終わってから入ることにした。最後だと時間的に少し遅くなってしまうが、ここはレディファーストだ。

 この楽しい入浴タイムが、まさか自分の悪夢の始まりだったなんて、このときの僕には想像の余地もなかった。


 <ユリアとゲルダ>


「ユリア、久々に背中を流してあげましょうか」

「え、いいの? ありがとー姉さまっ。じゃあお願い」

 ゲルダはユリアの後ろに周り、背中を洗うと見せかけてその手をユリアの胸元に滑り込ませた。

「ひゃんっ!? ちょ、姉さまっ、何す……やぁぁ……!」


 突然の姉の強襲に反応が遅れたユリアは、好き放題に触られてしまい、あられもない声を出すしかない。

「あらあら、こっちまで生意気に育ってきましたわね。姉より育つなんて、これは重大な罪ですわ……」

「お、おねえちゃ……やらぁ……はずかし……」

「ふふふふ……お仕置き、これはお仕置きだからノーカンなのですわーー!!」

 もみもみもみもみもみもみ…etc

「らめぇぇぇーーーー!!」


 揉みくちゃにされて息も絶え絶えといった様子のユリア。対してゲルダの方は何だか肌がつやつやしている。大満足といった表情である。

「……くっ、姉さまぁ……、私やめてっていったよねえ……!」

 きっ、と親の敵でも睨みつけるかのようにゲルダを見つめる。

 さすがのゲルダも少々やりすぎてしまったかと少し焦り始めた。

「あ、あの……ユリア……?」

「……お返しじゃぁーーっ! ていっ!」

 ユリアはゲルダに飛び込み盛大に胸を鷲掴みにした。ゲルダから、あうっ、と艶かしい声が漏れる。

「姉さまだって、大きさはあれだけど形は凄く綺麗よ。私はこっちの方が羨ましいな」

「もう、ユリアったら……」

 姉妹の乳繰り合いは、しばらくの間続いたのだった。


 <このはと紗織>


「ねえ、さおりちゃん。さおりちゃんってさ、ゆうすけのこと、好き?」

「いきなりどうしたの? このちゃん」

 突然話を振られて不思議そうに首を傾げている紗織に、このはは続けて言う。

「いや~、ほら、ゆうすけの周りって何だか可愛い子揃いじゃない? もしも私の予想が正しくて、紗織ちゃんがお兄ちゃんに恋しちゃってたら、大変だろうな~なんて……」


 このはの言葉に、紗織は無言で返した。

 浴槽の中で膝を抱え、髪から滴り落ちた雫が広げる波紋を見つめて、ため息を吐く。

「……このちゃんこそ、どうなの? ゆう兄のこと、狙ってたりするの?」

「えぇ? ……うーん。ゆうすけは大切な幼なじみだけど……」

 問い返されるとこのはもまた、考え込んでしまった。

「蛭賀さんは?」

「っはいぃっ!? なんでここで太一の名前が出てくるのよっ!」

 いきなりの名前に飛ぶように驚くこのはに、紗織は何かを確信しニヤリと笑った。


「わー、図星なんだぁ、正直意外」

「ち、違うってば! あいつはそんなんじゃ……」

「照れなくてもいいよ、このちゃん。蛭賀さんのことになると反応違いすぎ」

「私は……あーもう。さおりちゃんのいじわる、てやてや!」

「あっ、やったなー!」

 照れ隠しなのか水鉄砲で紗織に攻撃しだすこのは。きゃっきゃっとはしゃぐ二人は恋に焦がれる女の子の前にまだお子様なのだった。


 <エリーゼとラウラ>

 

「そういえばラウラよ、一つ聞きたいことがあったのだが」

「何でしょうか、姫?」

 ラウラはエリーゼのさらりと美しく伸びた金髪を手で丁寧に洗っている最中だ。

 しなやかに流れる絹の手触りは、ラウラが日々手入れをすることでその状態を保っている。

 流しますよ、と言ってラウラはエリーゼの頭にゆっくりとお湯をかけ流す。

 水を帯びたことでその神秘的な髪はより一層の神々しさをあらわにした。


「ふぅ……優介のことだ。昼間、一体どうやって吸血姫に変えたのだ? 我の血を与えないと覚醒はしないと思っていたのだが」

「ああ、そのことですか。隠していたわけではありませんが、姫には報告が遅れてしまいましたね。申し訳ございません」

「良い、……それで?」

 ラウラはリーゼンフェルト家の屋敷で会議を行ったときのことを話し出す。

 本当は優介が吸血姫に変身できるようになった事実を、ラウラは秘密にするつもりだった。

 吸血鬼による狩りが横行する中、新たな問題を放り込んで事態を混乱させないためにだ。

「あまり他言すべき問題でもないですからね、少年のプライバシー的な意味でも」

「まあその通りだの」 


 しかし運悪く他家の吸血姫に話を滑らせばれてしまい、二つの家での共有の秘密にすると言う協定を結んでしまった。この他家と言うのがアルペンハイム家という古参の吸血姫の家系で、文明、特に科学分野において卓越した功績を持つ名家だった。そしてアルペンハイム家によって優介の吸血姫化現象の解明を極秘裏に進められ、その過程でとあるサンプル薬が完成した。

 これは同じくこの家が製造した吸血鬼化を一時的に防ぐワクチンとは逆の効果を持つ薬で、優介の特異体質にのみ反応しエリーゼの血液なしでも彼を吸血姫化できるようにする、といったものらしい。


「なるほど、我の知らぬ間に何だかややこしいことになっておったのだな……では、優介がああなったのは、その薬のせいということか」

「そうです、つい先日に試薬が出来たとのことだったので、私も使ったのは初めてです」

 しかし昼間に使用したものはあくまでサンプルであり、完全に覚醒した場合よりも力が弱く、効果時間も数時間と短いという欠点があるらしい。

 それにしても、とエリーゼが挟む。

「そんな大切なことは、必ず我に先に伝えよ。優介も関係するのだし、アルペンハイム家が関わってくるとなると、こちらとしても付き合いというものがあるのだからな」

「はい、以後気をつけます、姫」

 ラウラは片膝をついて忠誠を誓う。


「頭を上げよ、我は怒っておるわけではない。……ただ、寂しいであろう。一人で考え、我らに相談してくれないのは、もうやめてほしいのだ」

「姫、真面目なときにごめんなさい……凄く可愛いです」

「……ラウラ。おぬし、しばらくマヨネーズ抜きな」

「えっ!? そ、それだけはご勘弁をっ!!」

 必死にすがりつくラウラを尻目に、エリーゼはつんとそっぽを向いてしまうのだった。


 <蛭賀と優介>


「……さて、優介。遂にこの時が来たな」

「な、なんでそんなに気合入ってるのかな」

 蛭賀くんは脱衣所に入る前に一つ深呼吸をした。まるでこれから決戦に向かう戦士のようだ。

「なにって、決まってんだろう。俺らの前に、ここには誰が入った(・・・・・・・・・)?」 

「誰って、先に入った皆……って、まさか!?」

 そう、当たり前だが僕たちの前に女子一同が先に湯を浴びている。その後の脱衣所に入るということは、そこには必ずとあるものが残されている可能性があるということ。それ即ち……


「優介、それはいわば三角形のイデアだ。俺たちは今、真の三角形を拝むことになるだろう……!」

「……あ、あはは(ドン引き)」

 まあ、蛭賀くんの目当てはパンツですよね。なに格好つけて難しそうなこと言ってるのだろう。要約したら「パンツ見たい」で収まるじゃないか。

「おっと、優介。お前何か勘違いしてるだろ、しかも俺にもの凄く不利益な想像を」

 蛭賀くんがちっちっ、と人差し指を振りながら僕の顔を覗き込んでくる。……ばれたか。

「俺はな、そんな卑怯なことはしない! 例え見たくても、どっっんなにチャンスだったとしても、他の娘も傷つけてしまうような行為はしない。俺が狙うのは、本命の娘だけだ」

 キリッという擬音まで聞こえてきそうな無駄に格好いい顔で僕に宣言する蛭賀くん。というか、本命の娘のなら見ていいんだ、なんかそれおかしくない?

 そもそも、何故そんな話を僕に振るんだろうか。さっさとお風呂に入りたいのだけど。


「実はな、優介だけには言おうと思うんだが……俺の本命は、優奈ちゃんなんだ!」

 ドクン。

 突然心臓が一際強く鼓動を打つ。それと同時に一瞬前後不覚に陥り、足元がふらついた。

「いやぁ~、参ったよ。まだ知り合ったばっかなのに、なんかずっと一緒にいたような気がしてくるしさ、運命的なものを感じたぜ」

「……へぇ」

「しかもさ、倒れた俺を看病してくれて、そのときなんて膝枕だったんだぜ!? 惚れてまうやろーってのは、ちょっと古いか。まあとにかく、凄く優しくていい娘なんだよ。さすがは優介の親戚だな!」

「……蛭賀くん、先に入ってて。すぐにぼくも入るから」

「お? お、おう。はは、何か悪いな、俺ばっか喋ってたわ」

「…………」

 蛭賀を先に脱衣所に押し込めた後、優介は普段は絶対に見せないような艶やかな顔で笑っていた。

 へ~、蛭賀くんの本命は、ぼくなんだぁ。面白いことになってきたなぁ。

 ぼくはもう、消えちゃうのにね。これも、失恋のうちに入るのかな。


 服を脱ぎ終え先に風呂場へと入っていた蛭賀は、カラカラと開いた浴室の扉の方へと目を向けた。

「おう優介、遅かった……な……?」

 そこに立っていたのは、優介ではなかった。

 漆器のような深みのある色の長髪、日に焼けることを知らない白い素肌を隠すものはなく、滑らかで柔らかな線を一層際立たせる、黒と白のコントラスト。

 女性らしいふくよかな身体をその細部まで惜しげもなく披露しているその人物は、先程まで蛭賀が愛を語っていた優奈自身であった。

 蛭賀はあまりの衝撃に顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。言葉がすぐに思い浮かばない。


「……えへへ、きちゃったっ」

 少し照れた様子で優奈が言う。小悪魔じみた笑顔だ。

「な、ななな、なんでっ、ゆ、優奈ちゃんが、ここにぃっ!!」

 酷くてんぱっている。昼間にも優奈の裸(上半身)を拝んだはずだが、今は状況が少し違う。あの時は海の中でまだハプニングへの耐性があったが、今は完全な無防備状態、不意打ちにも程がある奇襲攻撃だったのだ。

「蛭賀くんって、ぼくのこと好きなんでしょ?」

「ど、どうしてそれをっ! てか、今は頼むから出てってくれぇっ!」

「え~、いいじゃん。せっかく最後にこうやってサービスしに来てあげたんだから」

「さ、サービス!?」


 蛭賀が一瞬油断した隙をついて、優奈は蛭賀の胸に抱きついた。その豊満な胸を蛭賀に押し付けて、焦る反応を楽しんでいる。

「ほれほれ~、どお? ぼくの柔らかなおっぱいは~」

「や、やめてくれっ! 鼻血が、鼻血がぁぁぁぁあべばばばばば」

 洪水のように鼻血を噴出させ、これ以上茹で上がることは不可能といったところまで真っ赤に染まった蛭賀を見下ろして、優奈はにひひ、と笑った。

「あー、楽し~っ。…………ふふ、いたずらダイ成功ってね」

 しゃがんで反応のなくなった蛭賀の頬を指でつんつんしながら、優奈は寂しげな笑顔を浮かべた。

 その頬に唇を近付け、軽くキスをした。

「……さようなら、蛭賀くん」


 ――――そして、優介くん。



久々の更新となります。七話の最後少し改変しました。

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