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金色の吸血姫Zwei!  作者: 杞憂
Summer Dream
11/14

浄化せし光の護弓

「きぃぃーーんっ!」

 飛んでいく。

 エリーゼから離れた優奈は、タコの気をわざと自分に向けるために、挑発するように空を翔る。

 羽ばたくたびに翼を構成している粒子がキラキラと輝き、蝶の発する燐粉のようだ。

 触手が何度もそれを捕らえようとするが、優奈は全て軽々と避けた。


「すごい……!」

 その様子を見つめていたユリアが思わず口にした。

 美しい舞を披露している優奈の姿に魅入ってしまう。

 そうしている内に、自らを捕らえている触手が大きく揺れた。

「きゃぁっ!」


 何事かとタコを見ると、余っている触手を一箇所に集めている。

 かごで覆うような広範囲攻撃を繰り出すつもりだ。

「優介っ、来るぞっ!!」

 エリーゼが叫ぶ。

 それに優奈がこくりと頷いて、


「分かってるっ、大丈夫だよっ」

 と元気よく返した。

 返事に合わせる様にタコが攻撃を開始した。

 何本もの足で優奈の周りを囲み、一気に襲い掛かってくる。

 優奈はその瞬間に一度大きく羽ばたいて、天空へと舞い上がる。


 そしてそのままどんどんタコの触手が及ばない距離まで遠のき、遂には海上から見えないところまで行ってしまった。

 雲の付近で優奈は深く深呼吸をする。

 そして、左手を自分の前に差し出した。

 翼に密集していた粒子が左手へと集まりだす。


 次第に形を成していくそれは、対吸血鬼戦の時に使用した光弓だ。

「なっつかし~。まだ引けるかな~?」

 出来上がった弓の弦をポンポンと弾き、優奈は嬉しそうに目を細めた。

「そーだ、どうせだったら、なんか必殺技っぽい名前とか付けたらいいんじゃない~? いいかも~」

 誰にともなく独り言を呟く。


「ご先祖様たちの血から出来てるし~。あ、思いついちゃったっ」

 そういいながら、今度は右手に光の矢を精製する。

 その矢を弓に掛け、優奈はタコに狙いをすます。

 呼吸を落ち着けて打ち起こし、会の状態まで持っていく。

「スターライト~……じゃなかったっ。ブラッド~~っ」


 そして、掛け声と共に、

「アローーーーっ!!」

 矢が、放たれた。

 天から雲を裂く勢いで放たれた矢は、風を切る鋭い音を鳴らしながらタコへと直進する。

 音速に近いその矢を避けることは、人質を捕らえている鈍重な巨大タコには出来るはずもなく。


 タコの身体を真っ二つに裂く会心の一撃で、その役目を終えた。

 天から飛来した矢で貫かれたタコは力を失い轟音を立てながら崩れ落ちていく。

 それと同時に捕まっていた三人も解放された。

「このはさんっ!」

 ゲルダが海に落ちたこのはに急いで近寄った。


 衝撃で目を覚ましたのか、このははゆっくりとまぶたを開いた。

「う……あれ、私……?」

「よかったですわっ、無事で……!」

 このはを抱きかかえる形で海に浮かんでいると、後ろからユリアも声をかけてきた。

「ふぅ、とんだ災難だったわね。疲れちゃった」


「本当ですわ、まさかあんな化け物が潜んでいるなんて」

「お~い、無事かの~?」

 三人の元に泳いで寄って来たのはエリーゼだった。

 それぞれお互いの無事を確認しあう。

 そうなると最後に、一人まだ足りないことに気付いた。

 優奈は、優介は、どこに行ってしまったのだろう。

 そんな疑問は、すぐに本人の叫び声で解答を得ることになる。



 ……さてとっ。もうピンチは切り抜けたし、ぼくはそろそろ帰るねっ。

 バイバイ、優介くん! ……またねっ。

「え? あれれ?」

 まどろみから醒めるように意識を取り戻した僕は、まず第一にこれは夢だと思った。

 そう思わざるを得ない状況に、僕は置かれていたのだ。


 僕の下には海が広がっている。

 海の中にいるのではなく、海の遥か上に自分がいたのだ。

 これは間違いない、夢だ。そもそも、人間が鳥のように空を飛べるはずが……

「あれ、この背中にある違和感はなんだろう」

 まるで翼が本当にそこにあって、バッサバッサと羽ばたいているような感覚があった。


 しかしそんな感覚を意識した直後に、その違和感は溶けるように無くなってしまった。

「…………」

 そしてその違和感がなくなってすぐに、僕は何とも言えぬ、落下の際の浮遊感を感じ始めた。

 同時に周りの景色が上昇しだし、海がどんどん近くなっていく。

 僕はその瞬間に、全てを理解した。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁアアアアああ落ちるぅぅぅぅぅぅうううううう~~~~~~っ!!」

 盛大に叫んでも、自分ではどうすることも出来ない。

 さっきあったように感じた翼なんてもちろん背中に生えてるはずもなく、僕は絶望的状況に涙する。

「優介ぇーっ!?」

「ゆ、優奈さーんっ!!」


 海中で集まっているエリーゼやユリアたちが僕に向かって叫ぶ。

 絶体絶命だと思った、そんな時だった。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー優奈ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 突如聞こえた蛭賀くんの雄叫びに、そちらに目をやると。

 猛スピードで僕の落下点まで泳いできて、そのままの勢いで華麗にジャンプして。


 空中で僕を見事キャッチした。……あとにその衝撃と重力に耐え切れず海に盛大に落ちた。

 二人そろって海中から一気に顔を出して呼吸をする。

「ぎゃぼふ……!!」

「ぶはぁっ! ……いやぁ~、優奈ちゃん、無事だったか?」

「……げほっごほっ! はぁ……はぁ……は、はい……無事です……けほっ!」


 むせ返る僕の背中を、蛭賀くんが優しく撫でてくれる。

「おいおい、無理すんな。……悪いな、実はトイレに行っててよ。気付いたらもっと早くに皆を助けにこれてたんだが……」

 蛭賀くんは自分が早くに助けにこれなかったのを悔やんでいるようだ。

 でもそれは彼が悪いわけではない。今回は完全に不測の事態だし、誰もあんな化け物が潜んでいるなんて思いもしないだろう。


「……蛭賀くんは、なにも悪くないです。気に病まないで」

「お、優しいな~。俺ますます……そういえばさ、なんで空から降ってきたわけ?」

「へ? いや、その……な、なんででしょう……あはは……」

 蛭賀くんはここに来るまで泳ぐのに必死であまり状況を確認していなかったようだ。

 多分僕がやったであろう、空を飛んだり矢を放ったりというおぼろげな記憶は、見てはいないらしい。


 よかったと思う反面、どう真実(?)を誤魔化すか考えあぐねていると、

「タコに放り投げられたとかだろ、きっと。本当、あのタコはマジで許せねぇぜっ!」

「あ、うん。そうだね……」

 勝手に推測して勝手に納得してくれた。ありがたい。

 そんなこんなで僕たちはエリーゼたちと合流し、海岸へと戻った。


 タコに捕まっていた三人は少し疲れたようだが無事だった。

 かなりのスピードで落下していたにもかかわらず、僕と蛭賀くんもなんと大した怪我もなく、奇跡的に無傷だった。蛭賀くんのほうは腕とかが折れててもおかしくなさそうだったが、平気そうな顔をしていた。

 僕は改めて、皆が元気でよかったと心から思ったのだった。


 ……それにしても、あの時聞こえた声の主。

 いつの間にか無意識のうちに行動していたこと。

 最後に彼女(・・)が言った、「またね」という一言。

 全ての疑問が僕の心の内に残ったまま、僕たちはラウラさんの元へと帰還した。


先日初の評価Pを頂きました。ありがとうございます、より精進して続きを書いていきたいと思います。

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