虐げてくるお義母様に仕返ししようと身辺を粗探ししてみた
今月結婚した私、ロレーナには陰険な義母がいる。
下級貴族である男爵家令嬢だった私は、伯爵家長男エルウッドとの運命とも言える出会いを果たして程なく結婚に至った。
これからの生活に胸を膨らませて伯爵家の屋敷にやって来た私の前に、腕組みをしたお義母様が。
その日から、私の修練の日々が始まった。
お義母様はとにかく厳格で、私は所作の一つ一つを細かくチェックされることに。
「まったく、男爵家でもこの程度のことは教わるでしょ」
これがお義母様の口癖だった。
……なんて嫌味な。私だって下級貴族ながらもそれなりの教育は受けてきている。お義母様が細かすぎるの。ここまでチェックされたら、食事はおろかまともに歩くことすらままならない……。
間違いない、これは完全に嫁いびり。下級な私が気に入らないから厳しくして追い出そうとしているに違いない!
ようやく一日が終わり、ぐったりとソファーに沈む私。家の仕事を片付けて戻ってきたエルウッドが気遣うように。
「ロレーナ、大丈夫か……?」
「……全く大丈夫じゃない。お義母様は悪魔だよ……」
「うーん、私達が結婚する前はあんな母じゃなかったんだが」
「やっぱり! 私のことが気に入らないんだ!」
このまま大人しく追い出されてなるものか……!
こうなったら、お義母様の弱味でも握って私への虐待をやめてもらう他ない!
翌日から私はお義母様の粗探しを開始した。お義母にぴったりはりついて行動の全てを監視、……しようと思ったけど、それは不可能だとふと気付く。
なぜなら、お義母様は監視するように日中ずっと私にぴったりはりついているから。
うぅ、私の粗ばかりが指摘される……。
……いけない、何とか形勢を逆転させる手を考えないと。
そうだ、日中が無理なら日没後、私への指導が終わってからを狙えばいいんじゃない?
というわけで、テーブルマナーの修練が済んだのち、自室に下がるふりをして扉の隙間からお義母様の様子を窺う。
……お義母様、なかなか部屋に戻ろうとしない……。ん? 何かぶつぶつ呟いている?
「はぁ、どうすればあの子にもっと分かりやすく伝えられるかしら。やっぱり私の教え方が悪いのね」
……いつも指導が終わった後もこんなに遅くまで準備をしていたなんて。
それに、どうも私のことが嫌いでやっている感じでもない気がする……。
ここでお義母様の口から気になる発言が。
「もうあまり時間がないわ。このままじゃ最悪の結末を迎えてしまう……。急いで私の全てをあの子に伝えないと」
咄嗟に私は身を隠していた扉を押し開け、一目散にお義母様に駆け寄る。
「お義母様! 最悪の結末とはどういうことですか!」
「あら、ロレーナ、自室に戻ったのでは……? まあいいわ、言葉の通りよ。頑張って私から学ばないとあなたは最悪の結末を迎えるわ」
「い、いったい何が……!」
全く事情が飲みこめないので、とりあえず椅子に座って話を聞くことに。
お義母様は私にお茶を入れてくれた後に大きなため息をついた。
「ロレーナ、あなたは私にとてもよく似ているのよ……」
「と言いますと?」
「私も元は下級貴族、貧乏男爵家の出身なの。そして、エルウッドはあの子の父、私の夫にそっくりだわ」
「それがどうして最悪の結末に? お義母様は今、こうして普通に暮らしておられるではないですか」
私が尋ねると、お義母様は少し遠い目をして「必死に戦ったもの」と言った。
……本当にいったい何が。
お義母様はゆっくりと昔を振り返りはじめた。
エルウッドの父であるお義父様はかつては令嬢達から相当人気があったらしい。そんなお義父様と結婚したお義母様は、周囲の令嬢達からそれはもう大変な集中砲火を浴びる事態に。
令嬢達は下級貴族ながらお義父様を手に入れたお義母様に苛立ち、嫉妬し、本気で潰してやろうとかかってきた。社交の場にて何か少しでもミスをしようものなら徹底的に責め立ててきて、お義母様を貶めようとしてきたのだとか。
「女の世界は怖いとよく言うけれど、令嬢の世界はもっと怖いのよ……」
「ひ、ひえー……」
そんなおぞましい世界で、お義母様はお義父様との結婚を守るために懸命に戦った。これに敗北することはすなわち、社交界での死を意味したから。
どうにか勝利を収めたお義母様だったが、息子であるエルウッドの成長を見守るにつれて不安を覚えるように。お義父様と同じように日々容姿端麗となり、令嬢達から騒がれ出していた。
そして、確信する。エルウッドの結婚相手には、絶対に自分同様の過酷な運命が待ち受けていると。もしそれが下級貴族ならなおさら。
「だから、私は誓ったのよ。義理の娘になるその子は、戦場に出る前に私が培った全てを注いで鍛えてあげようと」
「……ではお義母様は、私のために?」
「令嬢達はどんな手を使ってでもあなたを潰そうと死に物狂いでかかってくるわ。わずかな隙も見せては駄目」
そうか、お義母様は猛り狂う令嬢達から私を守るために毎日……。
「…………、分かりました。お義母様についていきます!」
「いい返事よ! よし、明日から礼儀作法だけじゃなく、体も鍛えていきましょう! 令嬢達はいざとなったら実力行使に出てくるわ!」
「ついていきます!」
「決戦は二週間後の夜会。ロレーナ、その日までに完璧なあなたになりなさい!」
こうして、私とお義母様の猛特訓が開始された。
――二週間後。
……あの日から、私は変わっただろうか。いや、誰かに答えてもらうまでもなく、答は私自身が一番よく分かっている。
私は完璧な私になった。
令嬢達がどれほど卑劣な手を使ってこようが対処してみせる。
夜会の会場に入る扉の前にて、私の醸し出す空気から何かを感じ取ったのか、付き添いで来てくれたお義母様が微笑んだ。
「いいわよ、全身から自信が溢れている。もう小物令嬢ならあなたと目を合わせただけで気絶するほどだわ。さあ、行きなさい、ロレーナ。全てを跳ね退けるのよ!」
「はい! お義母様!」
と準備が整ったところで、隣のエルウッドに向けて手を差し出した。
「ではエルウッド、参りましょう」
「あ、ああ。何と言うか……、すごいな」
誰のせいでこんな苦労をしていると思っているの!
……いや、でも待って。確かに私もかなりお義母様に乗せられていた感じは否めない。完璧な私って何……?
うーん、冷静に考えてみれば色々とおかしい点が。そもそも、私は結婚前から夜会に出ていたけど、お義母様の言うような猛獣みたいな令嬢はいなかったし。
首を傾げていると、扉の隙間から会場を覗いていたお義母様が何やら慌てているのに気付く。
「大変よ! 中が真っ暗だわ! 気をつけて、ロレーナ! 令嬢達は暗闇に紛れて一斉に攻撃してくるつもりかもしれないわ!」
「いえ、お義母様、これはたぶん……」
と私はお義母様の制止を振りきって扉を開け放った。
「「「結婚おめでとう、ロレーナ!」」」
会場の明かりがつき、待ち構えていた令嬢達が一斉に手の中の花びらをパァと撒いた。ああ、やっぱりサプライズだ。皆、ありがとう。
状況が理解できずに呆然とするお義母様に説明することに。
「お義母様、皆、私の友人です」
「そ、そう、沢山いるのね……」
「それにお義母様の仰るような荒々しい令嬢は、今はあまりいないかと。申し上げにくいのですが、その、おそらく……、……時代が違います」
「…………、……え?」
途端に顔を赤くしたお義母様がススーと静かに後退していく。そして、消え去りそうな声で。
「……ロレーナ、何か……、ごめんなさいね……」
「いえ、猛特訓とか割と楽しかったので、気にしないでください……」
――とまあ、色々な勘違いが交錯した末に、私とお義母様は結構仲良くなった。
たぶんお義母様の時代はスケバン令嬢とかいたと思います。
また、異世界恋愛の連載も書いていますので、よろしければお読みください。
『転生幼女、教団はじめました。』
ざっくりしたあらすじ
[聖女として異世界の王国に転生した幼女ルーシャ。敵対派閥からは暗殺者を差し向けられたり、味方からは兵器として利用されそうになったりと散々なので、出奔して自由に生きていくことに。ついでに救い出した神官達が勝手にルーシャを崇める教団を作ったことで賑やかな日常を送る。一方、聖女を失った王国は滅びの道を歩むのだった。]
また、イラストレーター様によるキャラデザも小説の下に貼ってあります。
この下にリンクを設置しました。よろしければいらしてください。




