【週刊 葬式バトル】香典泥棒四天王、ついに激突!
説明しよう! 香典泥棒とは、通夜・告別式の受付に積まれた不祝儀袋を、誰にも気取られずに抜き取る武術である。袋は水引で結ばれ、袱紗に包まれ、ご遺族の悲しみに守られている。その何重もの守りをかいくぐる者だけが、「抜き手」を名乗ることを許される。
抜き手の頂点に立つ四人を、人は畏れを込めてこう呼ぶ。香典泥棒四天王、と。
ただし、四人が一堂に会したことは一度もない。全員が「他の三人は素人だ」と思っているからである。
今週、その四天王が、ついに同じ斎場で激突する。
第一の天王・受付の田所。 奥義「香典、お預かりします」。
田所は盗まない。喪服を着て、受付に座る。それだけだ。すると弔問客は、向こうから不祝儀袋を差し出してくる。田所は深々と頭を下げて受け取り、芳名帳を開いて記帳を促す。本物の受付係が戻ってくる頃には、田所も、その日集まった香典も、消えている。盗まれたことは、すぐにバレる。だが田所は、もういない。
「香典泥棒の世界に、盗むという言葉はございません」と田所は言う。「皆様、進んでお預けくださる。わたくしはただ、お預かりするだけでございます」
第二の天王・鑑定の女。 奥義「重み読み」。
女は、受付に積まれた袋の山に、指を一度滑らせる。それだけで、どれが一番重いかわかる。新札か旧札か、肖像は伏せてあるか、一万か、五万か。彼女は全部は盗らない。最も重い一枚だけを抜いて、去る。
「袋を全部さらうのは三流のすることだ」と女は言う。「今日の最高額は、左の山の上から三番目。五万円、旧札、肖像は伏せてある。よく出来た香典だ。ほかは見逃す。欲は、抜き手を鈍らせる」
第三の天王・すり替えの清次。 奥義「袱紗返し」。
清次は痕跡を残さない。弔問客が袱紗をひらき、袋を差し出す、その一瞬。本物を抜き、あらかじめこしらえた空の偽袋を、すっと受付の盆に置く。受付は気づかない。記帳には偽の名が残る。盗まれたという事実そのものが、この世から消える。
「跡を残すのは下手くそのやることでさあ」と清次は言う。「盗まれたことに、誰も、永遠に気づかねえ。それが粋ってもんでしょう」
第四の天王・初代。
四天王の頂点に立つ男。だが、その顔を見た者はいない。三十年前、香典泥棒の流派を一人で興し、すべての奥義を編み出した「初代」。すでに引退したとも、とうに死んだとも噂される、幻の抜き手である。
その初代の名が、今週、思わぬ形で三人の前に現れる。
その日、市内の斎場に、田所が来た。鑑定の女が来た。すり替えの清次が来た。三人とも、何も知らずに同じ式へ向かった。極上の香典が集まる、という噂だけを頼りに。
受付に座った田所は、列の奥に女を見つけた。女は、袋を持つ田所の指先の動きを見て、その正体を悟った。清次は、盆に伸ばしかけた手を止め、二人の視線が自分に向いていることに気づいた。
斎場の空気が張りつめた。三人が同時に動こうとした、そのとき受付に置かれた芳名帳のいちばん上に達筆でしるされた喪主の欄が空白であることに田所が気づき女がその隣の故人の名を読み清次が同じ名を読みあげようとして声をのみ三人の指先が同時に止まり女の手から袋が落ち清次のこしらえた偽袋が床に転がり田所の下げた頭が上がらなくなった——
故人の名は、初代だった。
これは、四天王の頂点に立つ男の、葬式だったのである。
受付には、香典がうずたかく積まれていた。喪主の欄は、空白。弔問客は、三人のほかに、誰もいない。
三人は、無言で受付に歩み寄った。長年の宿敵の葬式である。盗むのに、これ以上の好機はない。
だが、いちばん上の袋を手に取って、三人は気づいた。袋には宛名が書いてあった。一枚は「受付の田所殿」。一枚は「鑑定の女殿」。一枚は「すり替えの清次殿」。本名ではない。三人の、抜き手としての名だった。
中には香典と、初代の筆で、短い一文があった。
「お前たちの親の葬式で、わしは一度も香典を出さなかった。これは、その精算だ」
初代は、三人の親の葬式に、すべて来ていた。香典を出すためではない。その葬式で香典を盗んでいた子供——いずれ四天王となる三人——の腕を、見るためだった。三人を、見込んでいたのだ。
田所が、ふと我に返り、自分宛ての袋の重みを、指で確かめた。
「五万円。新札ですね」
「旧札だ」と女が言った。「肖像も伏せてある。指が鈍ったね、あんた」
清次は、その隙に、田所と女の袋を、袱紗で包んで抜いていた。
香典泥棒四天王の戦いは、まだ終わらない。
——次号、初代の遺言状をめぐる、第二次激突!




