家出少女は未来人で、俺の娘で、JKで、そしてほたてだった。
夜、1階リビングに知らない女がいた。
「私は未来からきたあなたの娘。家出してきたから、しばらくここに住む。そんなわけで、よろしく」
同じ18ぐらいであろうそいつはえらい美少女で、ポカンとする俺にそう言い放った。
この不審者はどうやら頭がおかしいらしい。
図々しくも部屋を占領された俺は為す術なく立つことしかできなかった。
でも、まさか。ホントだとは思わないじゃん。
ガチで未来から来てたなんてさ。
「なにもんだ、貴様」
深夜、何やらうるさい音が1階から聞こえたので階段を降りていくと、時代の10
歩先をいっているようなメカメカしいキャリーケースの横に、あぐらをかいて座っている知らない女と目が合った。
歳は俺と同じぐらい、17、18あたりといったところだろうか。とんでもねぇ美人だった。モデルみたいに整った顔つきに、無駄な肉のない体型。何食って育てばそんなんになれるんだよと思わず心の中で呟いた。
女はケースから生活用品を取り出していたところだったようで、床には服とか化粧品とかが散らばっている。清潔整然としていた我が家自慢の1階リビングは見るも無惨な汚部屋となり、俺は頭を抱えた。
けど、問題はそこじゃない。
誰や、こいつ。
全く覚えのない顔だ。知り合いとかじゃない。怖すぎだろ。
知らない女が家にいる。
というかどこから入ってきたんだ?玄関も窓もちゃんと鍵は閉めたはずなんだけど。
女は俺と目が合うと、頬を少し緩めて、まるで親しい相手に向けるような表情をして手を振った。
「やっほ、パパ」
パパ?
わけがわからずポカンとする。
女は立ち上がると、ビート板よりは傾斜のある胸部を張り、背筋を伸ばした。ガラス細工のような瞳をまっすぐこちらに向け、
「私の名前はほたて。あなたの娘です。未来から来ました」
深海のような妖艶さと落ち着きのある声色で、そう自己紹介した。
俺、無言。
「しばらくここに住むことにしたから、よろしくパパ」
平然とした顔で女は告げた。
しばらく、沈黙。
言いたいことを言い尽くしたのか、女はキリッとした顔をしたまま、それ以上は何も喋らなかった。
なるほど。
どうやらこいつはただの不審者ではなく精神異常者だったらしい。これ以上の接触は危険だ。早急な対処が求められる。
俺は素早くポケットからスマホを取り出し、公的機関に救助要請をするため、110に指を伸ばした。
「ちょ、待て待て待て待て」
うわあ、女が飛びついてきた。
「待たねぇよ。邪魔をするな不審者」
「不審者じゃないし、未来人だし。お願いだから変なことしないでよ」
「この場で明らかに変なのはお前だ。どうやってこの家に侵入したのかは知らんが、もうお縄だからな」
取っ組み合いの末、握っていたはずのスマホは目の前の不審者の手によって奪われた。見た目はか弱そうなくせに意外とパワー系だった。
しかも奪われた時、板チョコが割れるみたいなパキッて音がした。何してくれてんだよ。
「ホントだって。私、あなたの娘なんだよ。海野原ほたてだよ」
「なにがほたてだ。海底へ帰れ」
「父親なのに娘のことがわからないの?ーーーほら、これパパとの家族写真。ここに写っているのはあなたでしょう?」
「ふざけた加工写真を見せつけるな。しかもなんだこれは。こんな老けたおっさんが俺なわけねぇだろ」
「ぐすっ……………なんで信じてくれないのっ………非道いよぉ、パパぁ…」
泣き出した。
「………」
「せっかく………ここまでやってきたのにいっ…………!!」
「わかった、わかった。ごめん。ホントごめん。俺が悪かった。もう喋らなくていいから落ち着いてくれ。事情は後で署でじっくり話してくれ、な?」
「………………………だるいなこいつ」
「正体表したね」
ほたてと名乗る人型の正体不明生物は面倒くさそうな表情を浮かべて、ため息をついて俺から離れた。離れる際にふわりと匂いがした。なぜか馴染みのある匂いだった。
「見てて」
そう言うと、女はリビングの何もない空に向かって腕を伸ばした。
最初、俺はこの変態が何をしているのかわからなかった。当然、腕の先には別に何もない。腕を上げたポーズをとったまま、女はピクリとも動かなくなった。
何か大きな病を患っているのか、何やらブツブツと訳の分からない言葉を口にしている。完全に奇行種だ。意味が分からない。
うし、この間にお巡りさんを召喚や。
と、スマホを操作しようとした次の瞬間、部屋の中に閃光がほとばしった。ぎゃあという俺の情けない声。どこかの飛行帝国の王のように両手で目を覆う。
目潰し攻撃を食らった俺は、女から距離をとるため、よろよろと後ろへと下がった。
しかし、下がれなかった。
壁があったわけじゃない。
家具にぶつかったわけでもない。
正確には、前に吸い寄せられて下がるに下がれなかった。
状況がわからず、ゆっくりと閉じていたまぶたを上げる。視界の情報が一気に流れ込んだ。
目を疑った。
女の前には、巨大な蒼い渦が、俺を見下ろすように浮かんでいた。
それが何かよくわからなかった。
穴?トンネル?のような、なんかが空中に浮いている。
未知との遭遇だ。
なにこれ。
家の中なのにバカみたいに風が吹き荒れてるし、なんかまわりにプラズマみたいなのもバチバチ音を鳴らしている。穴?の向こう側は暗くて何も見えない。ちゃんと立っていないと俺が穴?に吸い込まれてしまいそうだ。
なんというか、いろいろと頭が痛い。
「これが未来の技術で開発された時空間を移動するためのゲート。これで私はこの時代に来たってわけ。わかった?」
淡々とした口調でSF展開を始める謎の少女を前に俺は口をマンホールのようにするしかなかった。
「………はぁ」
「もう閉じていい?」
「………はぁ」
「パパ?」
「………はぁ」
「ボットになっちゃった」
やれやれ顔で女は力強く腕を振ると、蒼い渦は徐々に小さくなってやがて消えた。
いや、ちょっ…………えぇ………?
唖然呆然と突っ立っている間に、少女は家中をズカズカ歩き回り、生活用品やら何やらをありとあらゆる部屋に配置していった。
三十分くらいたっただろうか。少女はまた俺の前に現れた。
「何をしにこちらに来たのでしょうか」
パワハラ上司に日々媚びへつらう安月給平社員のような態度で、思っていたことを聞いてみる。
こいつが強盗とかの類ではないことはわかった。それを遙かに超えるレベルの異常さだったが。
少女は特に感情を表に出すことなく、さらっと答えを口にした。
「家出」
今何かものすごいことを聞いた気がしたんだが。
「家出してきた」
女は眉をハの字にする俺に再度言った。いや、再度言われても何らリアクションは変わらんのだが。
そんな、「あ、今日友達ん家でソシャゲの徹夜周回するから泊まってくるね」みたいなテンションで言われても。
不審者、未来人、実の娘、家出少女と現時点でのこいつの情報量がおかしいことになっている。
「ま、そんな感じで、しばらくはここに住むことにしたから、いろいろとよろしく。まだ準備とかあるから、私、自分の部屋に戻るね」
自分の部屋、というわけのわからない単語を言ったSF少女は、キャリーケースをうんしょと持って階段を上がっていき、そのまま平然と我がコレクションルームへと入っていった。部屋の中の様子を見てみると、テーブルやベッドといったものが設置されており、我が愛しのフィギュア、アニメグッズは全て小汚い段ボールの中に入れられ、部屋の隅の方にぽつんと置かれていた。殺人衝動が沸き立った瞬間である。
「パパは部屋から出てって」と軽いビンタを食らった悲しき俺は、魂が抜けた足取りで自分の部屋へと戻り、そのままベッドの中へと潜っていった。
混乱していた頭も少しは落ち着きを取り戻す。
目を閉じてふうーっと深呼吸をする。
疲れてるんだな。
俺はそう思うことにした。
ここまでの一連の流れ、果たして現実の出来事としてありえるのだろうか。
ノーだ。
俺だって生きるのに毎日必死なのだ。たまには疲れでこういう訳のわからん幻ぐらい見るさ。
今から寝て起きれば全て元通りになってるだろ。
だいたい、なにが時をかける家出少女だ。ほたて?誰だそいつは。食えないなら知らん。
明日は高校3年生1学期の始業式だ。きちんと寝て体を休めておこうそうしよう。
はっはっは。
そんな思いを抱き、俺は緩やかなる睡魔に身を委ね、眠りにつくのだった。
初投稿です。
一応短い物語にするつもりです。
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