第7話「古代文献の発見」
古代遺跡の入り口で、三人は慎重に内部を覗き込んでいた。
石造りの通路は奥へと続いており、壁面には複雑な魔法陣が刻まれている。空気はひんやりとして、古い魔力の匂いが漂っていた。
「魔物の気配はありませんね」
ヴァルドが剣の柄に手をかけながら確認した。
「この遺跡は、戦闘用ではなく研究用の施設だったようです」
「研究用?」
カリナが尋ねた。
「おそらく、古代の錬金術師たちが使用していた実験室でしょう」
リナが壁の魔法陣を鑑定スキルで調べながら答えた。
「この魔法陣は、記憶の保存と継承に関するものです」
三人は松明を手に、慎重に遺跡の奥へと進んだ。通路の両側には小さな部屋が並んでおり、それぞれに異なる目的があったようだ。
「こちらは薬草の保存室ですね」
リナが一つの部屋を覗いた。古い棚には、風化した薬草の残骸が残っている。
「こちらは文献保管庫のようです」
カリナが別の部屋を指差した。石の書架には、羊皮紙の束がいくつか残されている。
リナは文献保管庫に入り、残された資料を調べ始めた。多くは風化して読めなくなっているが、中には保存状態の良いものもあった。
「『記憶継承の儀式について』」
リナが一つの文献のタイトルを読み上げた。
「これは重要そうですね」
慎重にページをめくると、古代文字で記された詳細な説明が現れた。鑑定スキルにより、文字の意味が頭に流れ込んでくる。
『記憶を継承する者は、段階的に古の知識を受け入れる。だが、その過程で自己の記憶が混濁する危険がある』
「やはり…」
リナは自分が経験している症状と一致することに驚いた。
『混濁を防ぐには、強固な精神的支柱が必要である。信頼できる者の存在が、継承者の人格を保持する鍵となる』
カリナの支えがいかに重要かが、改めて確認された。
さらに読み進めると、より重要な記述が現れた。
『最終的な継承の儀式は、記憶の海にて行われる。そこで継承者は、蓄積された全ての記憶を整理し、次の世代に託すのである』
「譲渡の儀式について、詳しく書かれています」
リナが呟いた瞬間、突然激しい頭痛に襲われた。
「うっ…」
文献を読んでいる間に、大量の記憶の断片が一気に流れ込んできたのだ。古代の錬金術師たちが、実際に継承の儀式を行っている光景。その痛みと苦悩、そして希望。
『継承者よ、恐れるな』
古代の声が響いた。
『汝の道は正しい』
だが、記憶の奔流はあまりにも激しく、リナの意識は混乱し始めた。現在のリナなのか、古代の錬金術師なのか、境界が分からなくなっていく。
「お嬢様!」
カリナが駆け寄り、リナの体を支えた。
「しっかりしてください」
「リンさん、大丈夫ですか」
ヴァルドも心配そうに声をかけた。
リナの瞳は焦点を失い、まるで別の時代を見ているかのようだった。
「私は…エリシアン…古代錬金術の…最後の継承者…」
古代の人物の記憶が、リナの口を通して語られている。
「違います」
カリナが強く言った。
「あなたはリナ=ヴァルメリア様です」
「カリナ…」
「お母様の名前はエレナ様。お父様はハルヴァルド王陛下。愛する方はセドリック様」
カリナが一つずつ、リナの記憶を呼び起こしていく。
「そして、私はあなたの侍女、カリナです」
次第に、リナの瞳に焦点が戻ってきた。
「カリナ…ヴァルドさん…」
「はい、ここにおります」
「ありがとう。また、自分を見失うところでした」
リナは深く息をついた。
「文献の内容が、あまりにも鮮明で…まるで自分が体験したことのように感じられました」
「それが、記憶継承の副作用なのですね」
ヴァルドが理解を示した。
「だからこそ、信頼できる仲間が必要なのです」
リナは立ち上がり、文献を大切にしまった。
「この文献は、私の旅にとって重要な手がかりになります」
「記憶の海への道筋も分かりました」
ヴァルドが地図を指差した。
「準備ができたら、いつでもご案内します」
三人は遺跡を出た。夕日が森を赤く染め、新たな決意の時を告げている。
記憶を継ぐ者としての運命は重いが、支えてくれる仲間がいる限り、道を見失うことはない。そして、最終的な目標も明確になった。
記憶の海での継承の儀式。それこそが、リナの旅の真の終着点なのだった。
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