表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/29

第3話「セドリックの解放」


王城の幽閉室に、解放の朝が訪れた。


セドリック=ローゼンは、3ヶ月間過ごした質素な部屋を最後に見回していた。机の上には、研究し尽くした古代文献が整然と積み重ねられ、日記帳には封印術の理論と実践方法がびっしりと記録されている。


「セドリック様、お時間です」


看守のヘンリーが扉を開けた。この3ヶ月間、彼は単なる監視役以上の存在だった。


「ヘンリー、世話になった」


「いえいえ、こちらこそ」


ヘンリーは苦笑いを浮かべた。


「まさか幽閉された方から、人生の教訓を教わるとは思いませんでした」


セドリックは古代文献を革の鞄に収め、日記帳を胸ポケットに入れた。リナからもらった護符は、3ヶ月間一度も外すことなく首から下げている。


「これからどちらへ?」


「未開発地区に赴任することになっている」


「それは大変な任務ですね」


ヘンリーが心配そうに言った。


「魔物も多いし、開発も遅れていると聞きます」


「だからこそ、やりがいがある」


セドリックの瞳に、新たな決意の光が宿っていた。


---


王城の執務室で、第一王子アルベルトが待っていた。


25歳になった兄は、3ヶ月前と比べて王としての風格を身に着けているように見えた。だが、表情には疲労の色も濃い。


「セドリック殿、3ヶ月間お疲れ様でした」


「ありがとうございます、アルベルト殿下」


セドリックは深く一礼した。


「研究の成果はいかがでしたか」


「封印術の理論を完全に習得できました」


セドリックは胸ポケットから日記帳を取り出した。


「実践段階への移行も可能です」


アルベルトは興味深そうに日記を眺めた。


「古代の技術とは、興味深いものですね」


「はい。ただし、使用には慎重さが必要です」


「と申しますと?」


「封印術は、使用者の存在感を代償とします。多用すれば、やがて誰からも忘れられる運命が待っています」


アルベルトの表情が厳しくなった。


「それほど危険な力を、なぜ習得したのですか」


「守りたいものがあるからです」


セドリックは迷うことなく答えた。


「リナ様を守るためなら、孤独になることも厭いません」


アルベルトは長い間沈黙していたが、やがて小さくため息をついた。


「分かりました。では、未開発地区への人事異動についてお話しします」


机の上に地図が広げられた。


「こちらが、あなたの管轄区域です」


地図には、王国の南東部にある未開発地区が詳細に描かれている。


「人口は約2万人、主要都市はエルドリッジ。農業と鉱業が主要産業ですが、魔物の問題で開発が遅れています」


「承知いたしました」


「管理者として、地域の発展と治安維持が主な任務です」


アルベルトは別の書類を手に取った。


「それから、これは非公式の情報ですが…」


彼は周囲を見回してから小声で続けた。


「その地域に、優秀な薬師がいるという報告があります」


セドリックの心臓が跳ね上がった。


「薬師、ですか」


「詳しいことは分かりませんが、地元の評判は上々だそうです」


アルベルトの瞳に、意味深な光が宿った。彼は確信していないまでも、その薬師が誰なのか推測しているようだった。


「調査してみる価値はあるでしょう」


「はい、承知いたしました」


面談が終わると、セドリックは王城の廊下を歩いていた。すると、向こうから第一皇女イザベラが現れた。


「セドリック殿、お疲れ様でした」


「イザベラ殿下、古代文献の件では大変お世話になりました」


「いえ、当然のことです」


イザベラは周囲を確認してから、小さな革袋を差し出した。


「これは、未開発地区に関する詳しい情報です」


セドリックが袋を開けると、中には地図と報告書が入っていた。


「特に、薬師に関する情報も含まれています」


「ありがとうございます」


「それから…」


イザベラは更に声を潜めた。


「フェリックスが手配した護衛も、その地域にいるはずです」


セドリックは全てを理解した。王族たちは、リナの居場所を把握し、密かに支援を続けているのだ。


「皆様のご配慮、痛み入ります」


「家族ですから」


イザベラは微笑んだ。


「政治と感情は別です」


---


王城を出る前に、セドリックは父ヴァイオレット侯爵と短時間だけ面会した。


「セドリック、3ヶ月間よく耐えた」


父の声には、以前のような冷たさはなかった。


「未開発地区での任務、頑張ってくれ」


「はい、父上」


「それから…」


ヴァイオレットは机の引き出しから手紙を取り出した。


「これは個人的な手紙だ。任務とは関係ない」


手紙の宛先には「リナ様」と書かれていた。


「もし、偶然にでも会う機会があれば、お渡しください」


セドリックは深く頭を下げた。


「承知いたしました」


「家門の名誉も大切だが、息子の幸せも大切だ。そのことを、3ヶ月間考えていた」


父の言葉に、セドリックは胸が熱くなった。


「ありがとうございます、父上」


---


王城を出て馬車に乗ったセドリックは、胸ポケットの護符に触れた。3ヶ月ぶりに感じる自由な空気が心地良い。


「必ず迎えに行く」


小さく呟いた誓いの言葉は、風に乗って遠くまで届いていくかのようだった。


馬車は未開発地区に向かって進んでいく。車窓から見える景色が、徐々に田園風景に変わっていく。


3ヶ月間の研究により、セドリックは封印術を完全に習得した。リナを守るための力を得たのだ。そして今、愛する人との再会に向けて、新たな人生が始まろうとしている。


未開発地区での任務は困難を極めるだろう。だが、リナがそこにいるかもしれないという希望があれば、どのような苦労も乗り越えられる。


「待っていてください、リナ様」


馬車の揺れに身を任せながら、セドリックは決意を新たにした。記憶を継ぐ者と、存在を封じる者。二人の運命が、再び交わろうとしていた。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ