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第21話「新たな決意」

クレストヒルの町は、バーレンよりも一回り大きな商業都市だった。


石畳の街路には多くの人々が行き交い、様々な商店が軒を連ねている。リナ、カリナ、ヴァルドの三人は、まずギルド支部を目指して歩いていた。


「立派な町ですね」


ヴァルドが感心したように呟いた。


「未開発地区とは大違いです」


「でも、故郷には故郷の良さがあるのでしょう」


リナが答えると、ヴァルドは嬉しそうに頷いた。


ギルド支部の建物は、バーレンの倍近い規模があった。中に入ると、多くの冒険者たちが活発に活動している様子が見て取れる。


「いらっしゃいませ」


受付に立つ女性は、30代前半の落ち着いた雰囲気を持っていた。胸の名札には「エレン」と書かれている。


「ギルドカードの移管手続きをお願いします」


リナがバーレンで作成されたカードを提示した。


「リンさんですね。薬師Fランク…」


エレンがカードの情報を確認していたが、途中で表情を変えた。


「あら、初日で希少薬草を複数発見された記録がありますね。これは珍しいことです」


「たまたま運が良かっただけです」


リナが謙遜すると、エレンは微笑んだ。


「謙虚でいらっしゃる。では、こちらでも薬師としてのお仕事をお探しでしょうか」


「はい、お願いします」


「実は、ちょうど良い依頼があります」


エレンが掲示板から一枚の依頼書を取ってきた。


「地元の錬金術師ドルフ師から、『特殊薬草の調合補助』という依頼です。報酬は金貨5枚と、かなり高額になっています」


リナが依頼書を読むと、確かに魅力的な内容だった。珍しい薬草を使った上級回復薬の調合で、熟練の技術が要求される。


「ただし」


エレンが付け加えた。


「ドルフ師は少し気難しい方で、腕に自信のある薬師でないと相手にしてくれません」


「挑戦してみます」


リナが答えると、エレンは驚いたような表情を見せた。


「Fランクで、いきなりこの依頼ですか?」


「はい」


「分かりました。では、ドルフ師の工房をご案内します」


---


錬金術師ドルフの工房は、町の職人街にあった。


建物の外観は質素だが、中に入ると高度な錬金設備が整っていた。壁には様々な薬草が保管され、中央には大型の調合台が設置されている。


「で、君がギルドから派遣された薬師か」


ドルフは60代の男性で、白いひげを蓄えた典型的な錬金術師の風貌だった。だが、その瞳には傲慢な光が宿っている。


「リンと申します」


「見たところ、まだ若いな」


ドルフがリナを上から下まで見回した。


「薬師の経験は何年だ」


「正式には、まだ始めたばかりです」


「何だと?」


ドルフの表情が険しくなった。


「素人が上級回復薬の調合に関われると思っているのか」


「でも、知識と技術には自信があります」


リナが静かに答えると、ドルフは鼻で笑った。


「知識だと?では試してみろ」


彼は棚から一つの薬草を取り出した。


「これの名前と効能を答えてみろ」


リナが薬草を見つめると、鑑定スキルが無意識に発動した。瞳が一瞬だけ光り、詳細な情報が頭に流れ込んでくる。


「クリムゾンリーフですね。表面の赤い斑点が特徴で、血液の循環を促進する効果があります。ただし、この個体は保存期間が長すぎて、薬効が30%程度低下しています」


ドルフの表情が変わった。


「…正解だ。では、これはどうだ」


次々と出される薬草を、リナは完璧に識別していく。名前、効能、保存状態、最適な調合方法まで、まるで長年の経験を持つ薬師のような知識を披露した。


「馬鹿な…」


ドルフが愕然としていると、工房の奥で小さな爆発音が響いた。


「しまった!」


彼が慌てて駆けつけると、調合中だった薬品が失敗して煙を上げていた。


「どうして失敗したのか分からん…」


「拝見してもよろしいですか」


リナが近づいて、残った材料と手順を確認した。鑑定スキルにより、失敗の原因が瞬時に把握できる。


「温度が5度高すぎました。それと、月光草を入れるタイミングが早すぎます」


「何だと?」


「正しくは、こうです」


リナは手際よく新しい調合を始めた。的確な温度管理、完璧なタイミング、そして熟練の手技。見る者すべてが息を呑むような技術だった。


30分後、完璧な上級回復薬が完成した。


「信じられん…」


ドルフが薬品を手に取って確認すると、その品質は彼自身の作品を上回っていた。


「君は…一体何者だ」


「ただの薬師です」


リナが答えると、ドルフは深く頭を下げた。


「申し訳なかった。私の不明を恥じる」


工房にいた他の職人たちも、リナの技術に驚嘆している。若い女性がこれほどの技量を持つなど、誰も想像していなかった。


---


ギルドに戻ると、エレンが驚いて迎えた。


「もう戻られたのですか?」


「はい。何とか完成できました」


「ドルフ師の評価書を預かりました」


エレンが羊皮紙を読み上げた。


「『稀代の天才薬師。私の50年の経験を上回る技術を持つ。ぜひ再び協力をお願いしたい』…これは前代未聞の高評価です」


周囲にいた冒険者たちが、リナを見る目を変えていた。もはや単なる新人ではなく、尊敬すべき技術者として認識されている。


「それで、ランクの昇格についてですが」


エレンが続けた。


「通常なら段階的な昇格ですが、これだけの実績なら特別昇格が認められます。FランクからEランクへ、いかがでしょうか」


「お願いします」


新しいギルドカードを受け取ると、「リン・薬師・ランクE」と刻印されていた。


「おめでとうございます、リンさん」


ヴァルドが祝福の言葉をかけてくれた。


「これからは、より高度な依頼を受けられますね」


宿屋に戻った夜、リナは窓辺で星空を見上げていた。


「お嬢様」


カリナが紅茶を持ってきてくれた。


「素晴らしい一日でしたね」


「ええ。でも、これはまだ始まりです」


リナは胸元のセレスティアからもらった護符に触れた。温かな感触が、家族の愛を思い出させる。


「私は、自分の力で何かを証明したい」


そう言った時、遠くで雷鳴が響いた。嵐の前触れかもしれない。


「どのような嵐が来ようとも、私は立ち向かいます」


リナの瞳に、新たな決意の光が宿っていた。王城での保護された生活から、自立した人生への転換。それは確実に成功しつつあった。


記憶を継ぐ者として、真の旅路はこれから始まる。リナにとって第三皇女としての終わったが、同時に新たな物語の始まりでもあった。


---


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