表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

第14話「セドリックの処分」

王城の謁見の間に、重い足音が響いた。


セドリック=ローゼンは、王妃派の貴族たちに囲まれながら、堂々とした歩調で中央に進み出た。昨夜の父との決別により、彼の決意は既に固まっている。どのような処分が待っていようとも、後悔はなかった。


グレゴール=バルトハウス侯爵が、薄い笑みを浮かべながら立ち上がった。


「セドリック=ローゼン殿」


「はい」


セドリックは真っ直ぐ前を見据えて答えた。


「昨日の第三皇女追放に関して、あなたにも確認しておくことがある」


グレゴールの声には、獲物を追い詰めた狩人のような響きがあった。


謁見の間の一角には、王族たちの姿もあった。第一王子アルベルトは重い沈黙を保ち、複雑な表情で事態を見守っている。第一皇女イザベラは、冷静な表情ながらも瞳の奥に憤りを秘めていた。


「婚約破棄に異議はないか」


グレゴールの質問に、セドリックは一瞬だけ間を置いた。


「異議があります」


謁見の間にざわめきが起こった。貴族たちは予想外の回答に動揺している。


「ほう」


グレゴールの瞳に興味深そうな光が宿った。


「どのような異議か」


「リナ様を愛しております」


セドリックの声は、謁見の間の隅々まで響いた。


「愛だと?」


別の貴族が嘲笑するような口調で言った。


「追放された皇女への愛など、何の意味もない」


「いえ」


セドリックが振り返った。


「愛に政治的な意味など必要ありません」


「騎士として、そのような個人的感情を優先するのか」


グレゴールが詰問した。


「騎士だからこそです」


セドリックが胸を張って答えた。


「騎士道とは、大切なものを守ることです。私にとって、それはリナ様なのです」


その時、イザベラが立ち上がった。


「セドリック殿の発言は理解できます」


第一皇女の知的で冷静な声が響いた。


「愛する者への忠誠は、騎士道の根幹をなすものです」


「イザベラ殿下」


グレゴールが制するような声を出したが、イザベラは動じなかった。


「政治的都合で個人の感情を踏みにじることが、果たして正義と言えるでしょうか」


アルベルトは何も言わなかったが、妹の発言を制止することもしなかった。重い沈黙で見守る彼の態度は、暗黙の支援とも取れるものだった。


グレゴールは苛立ちを隠そうともしなかった。計算通りに進むはずの処分が、予想外の展開を見せている。


「では、処分を言い渡す」


彼は冷酷な声で宣告した。


「セドリック=ローゼン、お前は幽閉とする」


「承知いたしました」


セドリックは静かに受け入れた。


「期間は?」


「無期限だ」


グレゴールの答えに、今度は明らかなどよめきが起こった。無期限の幽閉は、事実上の永久追放に等しい処分だった。


「それは重すぎる処分ではないでしょうか」


イザベラが冷静に抗議した。


「個人の感情を表明したことが、無期限幽閉に値する罪とは思えません」


「王室の秩序を乱した罪です」


グレゴールが言い返した。


「ですが、セドリック殿は何ら違法な行為はしておりません」


「王室の決定に従わないこと自体が問題なのです」


二人の言い争いを、セドリックは静かに聞いていた。イザベラ殿下の理知的な庇護に感謝しつつも、自分の選択に後悔はなかった。


「イザベラ殿下」


セドリックが口を開いた。


「お気持ちは深く感謝いたしますが、私は自分の選択に責任を持ちます」


彼は深く一礼した。


「どのような処分であろうと、受け入れます」


その毅然とした態度に、謁見の間の空気が変わった。貴族たちの中にも、セドリックの誠実さに感銘を受ける者がいた。一部の騎士たちは、明らかに敬意の表情を浮かべている。


「立派だ」


小さく呟いたのは、年配の騎士長だった。


「真の騎士とは、ああいう者を言うのだ」


グレゴールは、事態が自分の思惑と違う方向に進んでいることに気づいていた。セドリックを貶めるつもりが、逆に彼の株を上げる結果となっている。


「処分は決定した」


彼は強引に話を終わらせようとした。


「すぐに幽閉の準備を」


「待て」


今度はアルベルトが口を開いた。第一王子の重い声が、謁見の間を支配する。


「グレゴール侯爵、処分が重すぎるのではないか」


「しかし、殿下」


「セドリック殿の気持ちは理解できる。私とて、兄弟を思う気持ちは同じだ」


アルベルトの言葉に、グレゴールは言葉を失った。王位継承者である第一王子が、セドリックを庇護する発言をしたのだ。


「では、期間を限定しよう」


アルベルトが提案した。


「3ヶ月の幽閉とする」


「殿下、それでは…」


「これが私の判断だ」


アルベルトの威厳ある声が、グレゴールの抗議を封じた。


セドリックは深く頭を下げた。


「ありがとうございます、アルベルト殿下」


処分の宣告が終わると、セドリックは静かに謁見の間を後にした。護衛に付き添われながらも、その歩調に乱れはない。


廊下でイザベラが追いついてきた。


「すみません、セドリック」


「いえ、十分です」


セドリックが振り返った。


「殿下のお気持ちだけで十分です」


「3ヶ月後、必ず迎えに行かせます。それまで耐えて下さい」


「ありがとうございます」


二人は短く言葉を交わすと、それぞれの道を歩んでいった。


幽閉室に向かう廊下で、セドリックは胸ポケットの護符に触れた。リナからもらった、最後の贈り物。その温かさが、これから始まる孤独な時間を支えてくれるだろう。


「必ず、迎えに行きます」


小さく呟いた誓いの言葉は、石造りの廊下に静かに響いていった。愛のために戦った騎士の誇りと共に。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ