第2話 成人の儀(2)
(作者からのお知らせ)
このお話は、拙作「ごーれむ君の旅路」の外伝です。
作者お気に入りのキャラクター、オルソン君の物語!
内輪ネタや本編のネタばらしもありますので、本編と並行してご笑読ください。
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やたらと硬くクッソ不味い糧食を食べ終わる頃、シスター様が息せき切ってやって来た。
「・・・・・・?」
「・・・・・・!」
「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」
何やら話し込んでいる。何だろ?と思っていると隊長さんが呼ばれていった。
「何か、モメ事ですかね?」
「シスター案件なら、娘が“魔力適性者”だったんじゃね?」
下っ端兵さん達が小声で言い合う。俺は聞き耳を立てる。
(娘が“魔力持ち”って…。)
この村で成人の儀を行う娘はただ1人。
そのただ1人の娘を、俺は知っていた。
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(キルシィも、魔力持ちだったのか…。)
俺は、彼女の姿を思い起こす。小さくてやせっぽちの、貧相な体の娘だ。
彼女は人買いに買われることは無かった。税が納められなくて奴隷商が来るとき、売値買値は子ども一人当たり幾らと決められている。だから、ヤツラは健康で高く売れそうなガキから選んで行く。
貧乏なボルヴォ村の中でも、一際貧しい家の娘だったから、貧相で小さなチビで美女というほどの美貌もなかったから、彼女は村に残れた。いわば売れ残りだ。
(皮肉なもんだ…。)
そんな彼女が、よりによって魔力持ちだった。
でも、おかしい。
(“魔力持ち”だからって、なんでシスター達はモメてるんだ?)
そもそも、この“成人の儀”は俺やキルシィみたいな“魔力持ち”を見つけるための儀式だ。魔力持ちが居ようがいまいが、儀式が済んだらとっとと次の村に出発すればいい。それをしないのは、何故?
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「娘が倒れた。」
隊長さんが簡潔に俺たちに伝える。
成人の儀を受けたキルシィは、そのショックで気絶してしまった、らしい。男と違って成人の儀を受けた娘が倒れるのは珍しくないそうだ。
「今夜はこの村で泊まる。出発は明日の日の出だ。」
隊長さんから告げられた俺たちは、集会場の片隅で寝ることになった。(ちなみに神官様とシスター様は村長の家に泊まるんだそうな。)
「ほれ、お前ンだ。」
下っ端兵さんが渡してくれた厚手のポンチョにくるまり、俺は寝る。
自分ちと変わらないが、薄いゴザを敷いただけの土間で寝るにはそれなりの技術がいる。(気を抜くと凍死するから、シャレになんねぇけど。)
2月間近の底冷えのする中、俺たちは凍えながら眠りにつくのだ。
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次の日。日の出前から俺たちは起きだす。熾火になっているストーブにほんの少し薪を入れて火勢を強くし、ヤカンで湯を沸かしながら暖をとる。
あの、堅くてクソ不味い糧食を食べると、出発準備だ。各自荷物を纏めて馬車に積み込む。(夕べ貰ったポンチョは着たままだ。『コレはお前のだ。失くしたらもうやらんぞ。大事にしろ。』とは下っ端兵さんの有難いアドバイスだ。)
「出立の用意はできているようだな。」
重畳と言いながら神官様がシスターと若い娘を連れてやって来る。俺と同じ、“冬の野良仕事装備の村人”な格好の娘が、キルシィだった。
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ひょこ、ひょこ。キルシィは杖をつきながら、少し内また気味に歩く。キルシィは荷馬車の傍まで来て初めて、俺の顔を見て驚いた表情をする。
「オルソン? あんたもなの?」
「あぁ。」
周りには隊長さんとかいるから、お互い小声で話し合う。
「娘。歩けるか? 苦しいようなら荷馬車に乗っても良いぞ。」
隊長さんがキルシィにそう声を掛ける。実際、歩く姿は頼りないし、顔色だって良くない。(これで隣村まで歩くのはチョット大変じゃね?)
「大丈夫です。歩けます。」
「では、出発する。」
神官様の号令の下、俺たちはボルヴォ村を後にした。
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気丈にも『大丈夫です。』と応え歩き続けたキルシィだったが、結局2時間持たずに隊長命令で荷馬車に乗せられることとなった。
隊列の中で、俺が歩くのは荷馬車の横。互いに顔見知りだから声を掛けあう。話題が “成人の儀”の結果になっちまうのは自然な流れだった。
「へぇ~、あんた、大が1つに中が2つもあったの?! スゴイじゃない。」
俺だってビックリだ。普通、俺たちみたいな辺境の村人なんかだと、なんにも無いか、中が1コあるかってトコらしい。“魔力持ち”になる条件は『中が3個以上』らしいから、俺が『有望株』と言われるのはあながち間違いじゃない、みたいだ。
「いいなぁ。アタシなんか、“スライサー”だしね。」
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“スライサー”。コレを説明するには、“成人の儀”から説明しなきゃな。
俺たち普人族を含めた人型知的生命体は魔力適性が低いから、あんまり強力な魔法が使えない。この魔物蔓延る世界では、底辺の生き物だ。
だが稀に、魔力適性の高い個体が生まれてくる。弱い普人族を哀れに思った光の女神様が加護を与えてくださるのだ。
この、“魔力適性者”かどうかを判別するのが“成人の儀”なんだな。やり方は簡単。神官様が教会から持って来る“判別器”に小さじ1杯分の血を垂らすだけ、なんだ。指先を切るのがちょっとイヤだけど、それだけだ。
後は、“判別器”の表示を見れば一目瞭然。“中”が3つ以上あれば“魔力適性者”って訳だ。男はこれだけで終わり。
だけど、女はコレだけじゃ済まない。男が“成人の儀”なのに、女が“破瓜の儀”と呼ばれるのは、男より手順が一つ多いからだ。
成人の儀を受ける女の子は、“判別器”で魔力適性者でないと判ったら、“破瓜の儀”で“スライサー”かどうか確かめるんだ。
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“判別器”は日常普通の状態での魔力適性を判別する。だけど、命の危機に直面した時みたいな、“火事場のバカ力”は測れない。実際に、“痛い目”に合せないと判別できないんだ。
適性が低い普人族だからといって全く魔法が使えない訳じゃない。俺の親父や村人も身体強化魔法ぐらいは使う。(倍率は低いから、あんまり強化になってないけれどな。)
だから、たとえ魔力適性が低くても死にそうになったら無意識に魔導防壁を張って抵抗するんだ。男も、女も。
後は、わかるな? “判別器”で魔力適性が低いことが判っていても、破瓜の痛みに聖具を壊してしまう娘が出ることがある。
この、魔力適性が低いくせに火事場のバカ力で魔導防壁を張っちゃう女が“スライサー”って呼ばれるんだ。ナニを切断するかって? 怖くて言えねぇよ。
魔導防壁の展開は本能に根差しているから意識して張らないようにすることは難しい。だから、“スライサー”を嫁に貰うと子供が出来なくなる。
貧しい村にそんなリスクしかない女を置いておく余裕はない。
「アタシ、一生修道院暮らしなのね…。」
キルシィがポツリと呟く。魔力適性のある者の行先は、男は軍兵団、女は修道院。そこに例外は無い。だが、修道院の生活がどんなものか、俺たちは知らない。村から連れ出された“魔力適性者”は誰も戻ってこないからだ。
神官様とシスター様も修道院がどんなところか、詳しく教えてはくれない。(そもそも俺たちなんかが気軽に話せる身分じゃねぇからな。)
「・・・。」
「・・・。」
俺たちは、黙って歩くしかなかった。
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それから、3日かけて7つの村を廻って、4日目の午後、俺たちはコッコランタの町に着いた。
初めて見る、町壁のある町。
「おぉ~~。」(驚嘆)
「スッゴイわね~~。」(驚き)
板塀だけの俺たちの村と違う、石造りの“壁”。5メートルはあろうかというその高さに、俺もキルシィもただ見上げるだけだ。
「ほら、グズグズするな。行くぞ。」
隊長さんに促されて、俺たちは町の門の手前に張られたテントに赴く。屋台風のテントは町役場のもので、ここで町に入るための手続きを行っているらしい。
「神官様、お疲れさまでした。男が1名、女が1名ですね。」
「うむ。代官様にも、よろしくお伝えください。」
割とすんなり手続きは済んで、俺たちは町の中に入っていった。
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街の中心部に向かう途中で、俺たちは2グループに別れた。
片や隊長さんや兵士さん達、そして俺の軍兵団組。
片や神官様、シスター様、そしてキルシィの神殿組。
「神官様、我々はここで失礼します。」
「うむ、道中の護衛ご苦労であった。女神様の加護あらんこと“お”。」
神官様は俺たち軍兵団組に聖印を描いてくれ、俺たちは手を組んで女神様に祈りを捧げた。
「オルソン、元気でね。」
「キルシィもな。」
それが、キルシィを見た最後だった。
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「着いたぞ。ここだ。」
キルシィと別れてしばらく歩くと、とある建物の前で隊長さんが『入れ。』と顎をしゃくった。
1階が土間になっていて、荷馬車はそこで停まる。荷物を下ろすと隊長さんが俺にだけ『ついて来い。』と階段を昇り始めた。自分の荷物を担いでついて行く。
2階の広間っぽいトコに入ると、中には何人か俺みたいな奴が居た。一斉に向けられた視線が怖え。
「夕メシまでここで待機。今夜はココで寝ろ。明日の日の出に出発だ。遅れたら飯ヌキだ。」
わかったか? と聞かれたので全力で頷く。
「ケンカはご法度だ。モメ事起こすんじゃねぇぞ。」
そう言って、隊長さんは出て行った。
(さて、どうするか。)
入口に立ったまま、ざっと部屋全体を見渡す。
(ひぃ、ふぅ、みぃ・・・、5人か。)
皆、自分と同じ“適性者”なのだろう。それなりに距離を取ってボッチで座っている処を見ると、全員が見知らぬ者どうしなのだろう。オルソンを見る目に敵意は無さそうだが、友好的とも言い難い。
(皆毛布をかけている・・・、コレか。)
入口近くに積んである毛布を1枚手に取り、部屋の奥に進む。俺を見ていた全員がビクッ!と反応するが黙ったままだ。
「お邪魔するぜ。」
奥の一番端のヤツから、皆と同じように距離を取って座る。
毛布は薄くてペラペラだったが、ポンチョの上から包まるとそれなりに冷気を防いでくれそうだ。
(どうする? 自己紹介した方がいいのかな?)
少し周りを見ながら考えるが、隊長が俺を紹介しなかったから名乗る必要はないのだろう。俺もコイツ達の名前知らないしな。
他のヤツと同様膝を抱えながら座り、周囲を(さり気なく)警戒しながら俺は夕飯までの時間を潰すのだった。
(つづく)
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