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好きなもの?金、権力、名声だ! 序盤リタイア悪役令嬢、本編より悪役令嬢。

作者: 行先 篝

「マリアドール•フラングレー!貴様との婚約を破棄するっ!!!」


前世、小説で腐る程同じセリフを見てきた、公爵令嬢、マリアドール•フラングレーはその言葉を聞き、小刻みに震えながら俯いた。


「お前はここにいる、リリーベル•オルドナンツ子爵令嬢が私の寵愛を受けていることに嫉妬し、いじめを繰り返していた!証拠は揃っている!!君は最低限のルールも守れないのか!!」


卒業パーティーのさなか、ど真ん中で高らかにありもしない冤罪を歌い上げるのはこの国の第一王子、フェルドラント•フランゴールド。


「そうですっ。怖かったあ……」


ぷるぷると震える少女。彼女こそがリリーベルとやら。この茶番劇のヒロインである。


ハレの日であるこの卒業パーティーをぶち壊されたマリアドールは、はたから見ても様子がおかしかった。


(マリアドール様が何も言わない……!?)

(そんなことあり得るの!?!?)


((((だって彼女は、『狂犬令嬢』だぞ!!))))



「……いい……そ……か」


「あ?はっきりと申せ!!」


「言いたいことはそれだけですか?私がそのピンク頭を殴って蹴って、教科書破いて挙げ句暴漢に襲わせようとした―――で、合ってます?」


艷やかで眩しい金髪を後ろに手で梳き流す。


急に突っかかられてビビったのだろう。フェルドラントはどもりながら頷く。


「アーッハッハッハッハッハァ!!、聞いたか!?なぁおい、賭けは私の勝ちだ!」


突如、おしとやかに口に当てていた扇をへし折り、床に投げ捨てる。その扇は、次期王太子の婚約者に王妃から毎年贈られるものである。

今ぶっ壊された扇の価値がわかる高位貴族の令嬢、令息たちの顔は真っ青を通り越して真っ白だ。


「お、おい!」


「何言ってんのよ!?」


断罪しようと思っていた相手が急に高笑いして、あまつさえ王妃殿下から頂いた最高級品の扇をへし折り、床に叩きつけたのだから、フェルドラントとリリーベルは何が起こったのか全く分からないようだ。


「おい聞いてんだろうよぉ、とっとと顔出せやぁ!!」


「まったく……なんて行儀がなってないのかしら。」


渋い顔で何もない空間から溶けるようにでてきたのは国王陛下と王妃、その人である。


父母の登場にビビり散らかすフェルドラント、急に国王陛下と王妃殿下がいらして慌てふためくクラスメイト、やっとでてきやがったとばかりの不遜な態度を崩さないマリアドール、放心状態のリリーベル。

その場はあっという間に混沌と化した……が。


  バキィっっ!!!


床に叩きつけられていた扇をもう一度マリアドールが踏みつけた音により、会場は瞬く間に静寂を取り戻した。


「はぁ……兄上も何でこんな子を残したのか……」

「本当に礼儀のなっていない子ね。恥ずかしいわ」



「王子妃としての礼儀を仕込んだのはテメェだし、恥ずかしいのはここの低能下等生物(フェルドラント)だろうよぉ。」


ニヤリ笑うマリアドールには、国王と王妃に悪口ともとれる悪態を突かれたとは思えない自信があった。



時は遡り10年前。


「……いやです」


マリアドールは第一王子、フェルドラントとの婚約を全力で拒否っていた。

しかし、国王陛下と王妃は必死になってマリアドールをフェルドラントに縛り付けようとする。

それもそのはず、現国王陛下の兄が婿入した歴史ある公爵家の一人娘のマリアドール•フラングレーは、王家の証である輝かしい金髪を持って生まれたのだから。

側妃の子が黒髪だったので一安心だと胸をなで下ろした矢先の出来事であった。


その上、マリアドールの金髪は王妃の子、フェルドラントよりも色濃く、太陽を閉じ込めたような美しさだった。対してフェルドラントの髪は金髪ではあるものの、くすみがかっており、良く言えば小麦畑悪く言えば煤けた金といったところ。



国王は焦った。何故ならとりわけ優秀でもないのに、次男である彼が王位に就けたのは彼の金髪が兄より濃かったがゆえなのだから。

それを十二分に理解し、必死になって婚約の王命を下した国王と王妃にマリアドールはこういった。


『……わかりました。しかし、条件があります。フェルドラント殿下がわたくしに婚約破棄を言いつけた場合わたくしのお願いを、一つ何でも聞いてください。』


婚約破棄など、そんな大ごとそうそう起こることではないと笑って契約書に判を押したあの日から、マリアドールにはわかっていた。


(絶対に婚約破棄するわ。だって、この乙女ゲーム知ってるもの。)


マリアドールが欲しいのは愛でも恋でもまして麗しい顔面の婚約者でもない。


(恋愛ごときで腹がふくれるかよ!!)



マリアドール•フラングレー。前世、孤児院出身の大企業の叩き上げ。

猛勉強し奨学金を貰いながら有名国立大を卒業。大学でつくった人脈を駆使しなんとか入れた大企業でお茶くみの仕事からスタート。がむしゃらに働き、ついに社長に目をかけられ、部長にまでなったというのに。


(……ゼロからのスタート!?)


初めは驚愕したものだが、考え直せば悪くない。だって初めのポテンシャルがバカ高いのだから。

王と王妃に無理難題を隠した契約書にサインさせ、やりたくもない王子妃教育で体がバッキバキになりつつも少しずつ少しずつ進めていた計画が、今まさに実を結ぼうとしている。



「国王陛下、王妃殿下……わたくし、この国が欲しいですわ。ねぇ、くださるでしょう?」


先程と打って変わって令嬢が親にモノをねだるようにコテンと首を傾ける


先程まで悪態をついていた二人は今やただの小さな老人と老婆の様に見えた。


(何があそこまで2人を大きく見せていたのかしら。責任?自負?それとも、優越感……?)


にっこりと笑って2人を見下すマリアドールは『狂犬令嬢』どころか『女帝』である。


「きっとお二人よりうまくできると思いますの!他国に舐められてバカ高い関税をかけられることも、戦争をちらつかされながらアホみたいな金額の品々を買わされることも、それによって国のあちこちにスラム街が増えることも……なくしてみせますわ。」


「な、何を言っているんだ!!」

「そうよっ、国がどう回っているかも知らない女の身でっ。」

「私が王子だ!!私の国だ!!」

 

口々に喚く王族にすぅっと熱が冷えていく。


カッカッとハイヒールを鳴らし、国王陛下の目の前で踏み鳴らす。

そのカンッという小気味良い音と共に立ち上がったのは、ギャラリーに紛れていた第二王子、ヴィリアルドだ。


ヴィリアルドはマリアドールの前にたち、一礼。その後くるりと振り返りギャラリーを見渡すと高らかに宣言した。

「この契約書により、この国はこれよりマリアドール•フラングレー様のものである!!」


まるで付き人のような彼の姿に驚くまもなく、ぞろぞろと入ってきたのは、この国の4大公爵の当主たちであった。


「マリアドールちゃんなら大丈夫よ。少なくとも今のよりは断然ね」


「まぁ、こいつの娘だ。何かありゃ、俺たちが手伝ってやるよぉ。」


「私の教え子ですからね。貴方が誰よりも優秀なこと、分かってますよ。」


「流石、俺の娘だ!!!!」


4人の公爵の指輪からそれぞれ淡い光が放たれる。

それと同時に、国王がつけていたシンプルだが少しバランスの悪い王冠が光になって散り、一層強い光がマリアドールの頭上に集まる。


光が弾けると、目の前にいた男の頭に輝いていた王冠とは比べ物にならないほど美しくまばゆいティアラがマリアドールの頭上で輝いていた。


「さぁ、元王族たちよ。最低限のルールは守ってもらいましょうか。」


なだれ込んできた衛兵たちがかつて王族だったモノをひっとらえていく。


新しい女王は4人の公爵達と勝ち誇った笑みを顔に浮かべ、その場を解散とし、颯爽と去っていった。






「………その後、新しい女王様は、崩れかけていた国をまとめ上げ、元第2王子と結婚して、幸せになりました。めでたしめでたし。」


「ママ、このお話本当ー?」


母親は愛しい我が子の頬を弄びながら、笑っていう。


「本当よ。そういうご令嬢がいたの。」


「途中までかわいそうだったけど、ほんとにしわわせになれたのかな?」


タイミング良く部屋に入ってきた夫が母と子を見て苦笑した。タイを外し、ジャケットを脱ぐと2人に軽いキスを落とした。

母親はくすりと笑い、釣られるように娘もくすくすと笑い出す。どうやら、父に同行していた兄も帰ってきたようで兄も妹にキスをする。


「またその話を読んでいたんですか?」


「僕もそのお話好きです!メリーも好きかい?」


メリーと呼ばれた少女は微笑み、くるっと母親に向き直る


「ママ!しわわせ?」


舌っ足らずな娘を抱きしめ、にっこり笑ってマリアドールは言った。



「ええ、幸せよ。だってこんなに素敵な家族と素敵な国があるもの!」


「じゃぁメリーこのお話好き!めでたしめでたしだもん!」

最初、苛烈な感じのヒロインにしようとしてましたが、最後は時を経て丸くなったヒロインが描きたくなりました。

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