8.似た者同士 -3-
「実験…?」
説明を終えてチラッと外を見やれば、窓の外は霧に包まれていて何も見えない。そんな高校生活初日の午後。ワタシの説明の最後の一言を受けて目を細めた昌香は、最も気になったであろう一言をオウム返しにして、僅かに首を傾げて見せた。
「そう。実験…霊感の無い人間を採用できないか?っていうね」
「ちょっと、アタシ、あんな気味の悪い所で働く気…無いんだけど」
「だから、実験なの。昌香を縛ろうって気はサラサラ無い」
予想通りの昌香の反応。ワタシは僅かな笑顔と、顔の横に上げた両手で気持ちを前面に押し出した。昌香は腑に落ちてなさそうな顔を浮かべつつ、攻めかけた口を閉じてワタシの目をジッと見つめ、先を促す。
「霊感の無い人が霊を感じられるのは、その霊に狙われた時だけ。この間みたいにね」
「…そうね」
「で、大抵は【霊媒師】が来てどうにかして…また霊感の無い人に戻るんだけど、そうはならなかった。ワタシは昌香と亜希子さんを助ける選択肢を取ったの」
「貴女が木偶の坊とか言われてるせいでしょ」
「そう。ワタシは霊だからって祓わないからね」
「…何か信念でもあるのかしら?」
「…誰かが殺人を犯しても、即刻死刑にはならないでしょ?」
逸れかけた話をサクッと終わりにすると、ワタシはセーラー服の胸ポケットから、お札を1枚取り出し、彼女に見せつけた。
「話を元に戻すけど。霊に狙われた人を助けるついでに、こうしてお札で霊を縛って…守護霊に変えてやる」
「おかげさまで、プライバシーが少し無くなったけれどね」
「お札がある以上、昌香の言いなりなんだから、言い聞かせればいいだけだよ」
「……そうだけど」
「で…そういう対応をした人は、ちょっとだけ【こっち側】に足を踏み入れる事になる」
「そうね。アタシはいつの間にかそうなってた」
「それでね?上司が思いついちゃったの。昌香みたいな人を使えないか?って」
チマチマと吐かれる毒をスルーしつつ、ワタシは一連の話をし終えて昌香の顔をジッと見返すと、彼女は何とも言えない不快感を示す。目じりを下げて、顔色を青くして…何処となく、いや、ハッキリと「気味が悪い」と言いたげな顔だ。
「悪いけど。今回の亜希子さんの件は…昌香に取り憑いてるって意味でも、事件的な意味でも昌香に関わっちゃいそうだから、否が応でも協力してもらう事になるよ」
気味悪げな、何とも言えない表情を浮かべる昌香にそういうと、彼女は細めた目を更に細くして…目を閉じて「はぁ〜」と深いため息を吐いた。
「わかったわ。色々とね…だけど、1つ確認させて」
「何?」
「三子屠は、信用できる人なのかってこと」
「難しい質問だけど。この間のことを言いふらしてないだけじゃ…ダメかな?」
「……十分だけどさ」
「不満気だね。じゃぁ…それなら、こんなのはどうだろう?」
「?」
「スマホでさ、【東亜航空321便墜落事故】って調べてみてよ」
昌香はワタシに言われた通りスマホのブラウザで調べ物を始める。彼女とワタシが対等になるための情報…彼女はすぐに情報に行き当たり、そして、目を点にしてスマホからワタシの方に顔を向けた。
「生存者3人…三階堂三子屠(3歳)…って出てきたんだけど」
「プライバシーなんてあったものじゃないよね。ワタシは、その墜落事故の生き残りだよ。親も、妹も兄も、祖父母も全員その事故で死んだ。言わば天涯孤独の身。そこから…まぁ、色々とあって、中1からこのアパートで一人暮らしをしてる」
淡々と身の上話をしてやると、昌香の表情は途端に憐れんだものに変わっていく。気まずさが滲み出ている顔で部屋の中を見回すと、カタカタと、僅かに体を震わせながらワタシの顔をジッと見つめてきた。
「可愛そうなんて思わないでよ?もう10年以上前の話で、なんなら物心つく前の話なんだから」
「……そ、そう。でも…その…」
「このボロアパート暮らしもワタシの趣味兼実用って所でね。生憎、生命保険だったか何かで、ワタシは割と裕福な方だと思うの。生きていくには困ってない」
ワタシは表情一つ変えず、昌香にキッパリと言い切ると、窓の外を見て目を見開いた。
「も少し話したかったけど、この辺にしておかないと…霧が深いまま夜になっちゃうな」
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