6.似た者同士 -1-
「同じクラスだね」
「えぇ、そうみたい。今年も1年、よろしく」
高校の入学式を終えた後の休憩時間。同じクラスになった昌香の席を訪ねて声をかけると、彼女は育ちの良い返答を返しつつ…分かりやすく顔を顰めて見せた。気味悪がられている…というよりは、少々お怒りの様子…どういうことだろうか。
「そんな顔しないでよ。今日から調査開始って思ってたのに」
「そう、なら、その旨伝えて欲しかったわ。この間から音沙汰無しってのは酷くない?」
「あぁ…それは」
話を聞いて…彼女が何に怒っていたかを理解したワタシは、目を泳がせて口ごもる。確かに…この間、伊勢屋書店の奥地で上司を交えて話をしてから5日間、ワタシは何も動かず昌香と連絡すらしていなかった。
「その手の報・連・相!ちゃんとしてくれない?メッセ送っても既読すら付かないし」
「あー…ワタシ、その手のアプリというか、機械には疎くて…」
「じゃぁ何?今日まで何か別の事やってたの?」
「教科書とかその辺を揃えたり…部屋の掃除とか…」
そう答えると、昌香は「はぁ〜」と深い溜息を付いて、周囲を見まわす。彼女につられて周囲を見やれば、ワタシ達はそれなりに注目を浴びているらしかった。
「一旦出ましょ」「うん」
どうも、このクラスは出身中学がバラバラなクラスらしい。ワタシ達は静かな教室を出て廊下を歩き…人通りの少ない場所までやってくると、昌香はワタシの姿をジッと見やって首を傾げる。
「今日はサイドテールなのね」
「え?うん」
「去年も毎日バラバラだった気がするけど、髪弄りが趣味なの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけども…気分で」
「そう」
ワタシよりも頭一つ分背が高い昌香は、ワタシの姿を再度上から下まで見て数回頷くと、壁に寄りかかったワタシの隣にやってきて、彼女もまた、トンと壁に背を付けた。
「で…三子屠。色々と説明してほしいんだけど。皆まで言わなくても伝わるでしょ?」
「そうだね。しなきゃなーって思ってた。色々と断片しか話してないものね」
「えぇ」
「でも、流石にここで話すのは無理だよ?場所的にも、時間的にも」
「そうね。だから、今日、この後時間ある?どこか落ち着ける場所で話しましょ」
真面目なトーンで話す昌香。ワタシは彼女の言葉に頷くと、制服の胸ポケットに入れたメモ帳を取り出す。
「なら、ワタシの家で良い?」
「良いけど…どうしたのさ、メモ帳なんて取り出して。予定があったりしたの?」
「いや、別に無いけど…ほら、誰かを家に招くの、初めてだからメモしたくって」
「……そう」
ワタシの行動に苦笑いを浮かべる昌香。彼女は腕につけたスマートウォッチをチラリと見ると「まだ時間あるね」と言って、ワタシの顔をじっと見つめてきた。
「去年の貴女しか知らないけど…幼馴染とか仲のイイ子とか、そういうの居ないの?」
「全然。昔からの知り合いは、1人も居ないかな」
「…霊媒師とやらって、親もそうだったりする?」
「いや、親はもういないよ」
「あ…ごめんなさい」
「イイって。物心つく前から居ないんだから」
廊下の壁に寄りかかって、誰かと駄弁るというのは初めての経験だ。ワタシは少しばかり高揚感を感じつつも、それを表に出しすぎないようにしながら、昌香との会話を楽しんでいた。
「ワタシ達の学校からこの高校に来たのって、どれくらい居るんだっけ?」
「さぁ?そんなに居ないと思う。ウチの学区からは遠いし不便だし…頭良い方じゃないし」
「三子屠は何でここにしたのよ」
「誰も知り合いが居ないであろう所を選んだだけ。そういう昌香はどうなのさ?」
「同じよ。流石にここまで遠ければ誰も居ないと思ったの」
「それは意外だ。友達多かったじゃない」
ワタシが、そうやって何の考えもなしに言うと、彼女の表情は僅かに歪む。少しの間の後、昌香は「自意識過剰なだけだと思うけどね」と前置きしてから、こう続けた。
「利用されてると思ったの。何があったって訳じゃないけどね…こう…友達かな?って」
「あぁ…」
彼女の人の良さは重々承知だ。ワタシは、あまり多くを語らず…大分オブラートに包まれて言われた事を受けて、ワタシは感嘆の言葉を吐き出した。昌香の親、三鷹正義は、この街…いや、県内でも名の通った企業を創業した、そこそこ名のある人なのだ。ワタシの様な平民には分からぬ苦労もあるのだろう。
「アタシ達…案外、似た者同士かもね」
「かもね」
昌香の言葉に同意するワタシ。2人して、入学早々にセンチメンタルな気分になって、壁によりかかったまま「ふぅ〜」とため息を吐き出す。すると、昌香の体から、ぬーっと出てきた亜希子が呆れた様子でワタシ達2人を見比べ、口を開いた。
「最近の子って、こんなに擦れてるのね…」
お読み頂きありがとうございます!
「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。
よろしくお願いします_(._.)_