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木偶の坊と呼ばれた少女  作者: 朝倉春彦
Chapter2.急成長のマニューバー
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6.似た者同士 -1-

「同じクラスだね」

「えぇ、そうみたい。今年も1年、よろしく」


 高校の入学式を終えた後の休憩時間。同じクラスになった昌香の席を訪ねて声をかけると、彼女は育ちの良い返答を返しつつ…分かりやすく顔を顰めて見せた。気味悪がられている…というよりは、少々お怒りの様子…どういうことだろうか。


「そんな顔しないでよ。今日から調査開始って思ってたのに」

「そう、なら、その旨伝えて欲しかったわ。この間から音沙汰無しってのは酷くない?」

「あぁ…それは」


 話を聞いて…彼女が何に怒っていたかを理解したワタシは、目を泳がせて口ごもる。確かに…この間、伊勢屋書店の奥地で上司を交えて話をしてから5日間、ワタシは何も動かず昌香と連絡すらしていなかった。


「その手の報・連・相!ちゃんとしてくれない?メッセ送っても既読すら付かないし」

「あー…ワタシ、その手のアプリというか、機械には疎くて…」

「じゃぁ何?今日まで何か別の事やってたの?」

「教科書とかその辺を揃えたり…部屋の掃除とか…」


 そう答えると、昌香は「はぁ〜」と深い溜息を付いて、周囲を見まわす。彼女につられて周囲を見やれば、ワタシ達はそれなりに注目を浴びているらしかった。


「一旦出ましょ」「うん」


 どうも、このクラスは出身中学がバラバラなクラスらしい。ワタシ達は静かな教室を出て廊下を歩き…人通りの少ない場所までやってくると、昌香はワタシの姿をジッと見やって首を傾げる。


「今日はサイドテールなのね」

「え?うん」

「去年も毎日バラバラだった気がするけど、髪弄りが趣味なの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけども…気分で」

「そう」


 ワタシよりも頭一つ分背が高い昌香は、ワタシの姿を再度上から下まで見て数回頷くと、壁に寄りかかったワタシの隣にやってきて、彼女もまた、トンと壁に背を付けた。


「で…三子屠。色々と説明してほしいんだけど。皆まで言わなくても伝わるでしょ?」

「そうだね。しなきゃなーって思ってた。色々と断片しか話してないものね」

「えぇ」

「でも、流石にここで話すのは無理だよ?場所的にも、時間的にも」

「そうね。だから、今日、この後時間ある?どこか落ち着ける場所で話しましょ」


 真面目なトーンで話す昌香。ワタシは彼女の言葉に頷くと、制服の胸ポケットに入れたメモ帳を取り出す。


「なら、ワタシの家で良い?」

「良いけど…どうしたのさ、メモ帳なんて取り出して。予定があったりしたの?」

「いや、別に無いけど…ほら、誰かを家に招くの、初めてだからメモしたくって」

「……そう」


 ワタシの行動に苦笑いを浮かべる昌香。彼女は腕につけたスマートウォッチをチラリと見ると「まだ時間あるね」と言って、ワタシの顔をじっと見つめてきた。


「去年の貴女しか知らないけど…幼馴染とか仲のイイ子とか、そういうの居ないの?」

「全然。昔からの知り合いは、1人も居ないかな」

「…霊媒師とやらって、親もそうだったりする?」

「いや、親はもういないよ」

「あ…ごめんなさい」

「イイって。物心つく前から居ないんだから」


 廊下の壁に寄りかかって、誰かと駄弁るというのは初めての経験だ。ワタシは少しばかり高揚感を感じつつも、それを表に出しすぎないようにしながら、昌香との会話を楽しんでいた。


「ワタシ達の学校からこの高校に来たのって、どれくらい居るんだっけ?」

「さぁ?そんなに居ないと思う。ウチの学区からは遠いし不便だし…頭良い方じゃないし」

「三子屠は何でここにしたのよ」

「誰も知り合いが居ないであろう所を選んだだけ。そういう昌香はどうなのさ?」

「同じよ。流石にここまで遠ければ誰も居ないと思ったの」

「それは意外だ。友達多かったじゃない」


 ワタシが、そうやって何の考えもなしに言うと、彼女の表情は僅かに歪む。少しの間の後、昌香は「自意識過剰なだけだと思うけどね」と前置きしてから、こう続けた。


「利用されてると思ったの。何があったって訳じゃないけどね…こう…友達かな?って」

「あぁ…」


 彼女の人の良さは重々承知だ。ワタシは、あまり多くを語らず…大分オブラートに包まれて言われた事を受けて、ワタシは感嘆の言葉を吐き出した。昌香の親、三鷹正義は、この街…いや、県内でも名の通った企業を創業した、そこそこ名のある人なのだ。ワタシの様な平民には分からぬ苦労もあるのだろう。


「アタシ達…案外、似た者同士かもね」

「かもね」


 昌香の言葉に同意するワタシ。2人して、入学早々にセンチメンタルな気分になって、壁によりかかったまま「ふぅ〜」とため息を吐き出す。すると、昌香の体から、ぬーっと出てきた亜希子が呆れた様子でワタシ達2人を見比べ、口を開いた。


「最近の子って、こんなに擦れてるのね…」


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