5.友達× 協力者〇
「ごめんくださ~い…」
昌香の誕生日パーティから数日後。中学と高校の狭間の時間となる春休み。ワタシは昌香を呼び出した。
「昌香。ありがとう、来てくれて」
呼び出した場所は、市内の中心部…地上と地下通路の間にポツリと存在している古書店。【伊勢屋書店】という名の書店は、ワタシが所属している霊媒師団体の【隠れ蓑】だ。
「今日はポニーテールなんだね。ところで…ここでバイトしてたりするの?」
古本が床から天井まで積まれた店内。本棚が細く入り組んで配置され…それはもう、幾度となく消防署からお叱りを受けている様な店内の様子を見て圧倒された様子の昌香は、レジ番をしているワタシを見てポカンとした表情を浮かべ、頓珍漢な事を訪ねてくる。ワタシはそれに苦笑いを浮かべながら否定すると、ワタシの背後…暖簾の掛かっている店の奥を指さして見せた。
「違う違う。出迎えだよ。本当の店員は…まぁ、サボり中って所。殆ど客も来ないしね」
「サボりって…」
「良いの。気分で入り口の自動扉のロックを外してる様な所だから。こっちきて」
「うん…」
昌香をこちら側…レジ裏に通すと、暖簾を潜って店の奥へと足を踏み入れた。暖簾の先は薄暗い廊下。入ってすぐ、左右には仕入れた商品を売るまで仕舞っておく為の倉庫部屋の扉が見え…それを越えて更に奥へ進めば、黒く分厚い鉄扉に行きあたる。
「今日来てもらったのは、昌香をある人に紹介するため」
そういって、行き止まりの、分厚い鉄扉に手をかけて昌香を見やると、彼女は目を細めた…ジトっとした目をワタシに向けていた。
「面倒ごとに巻き込まれるのは、ゴメンなんだけど」
「そうは言ってもね。昌香と亜希子に関わる話なの」
昌香はワタシの返答を受けて顔を僅かに顰めたが、それを気にせず扉の方に振り返って手をかけていたノブをグルリと回す。そして、ギィー…と古びた鉄扉特有の嫌な音を発しながら扉を開けると、最奥の【事務所】に居た人物がワタシと昌香に気づいて声を上げた。
「お、来たかァ。そこに座ってくれるかァ?」
ワタシの上司…櫻庭時生。黒いパンツスーツ姿が似合わない程小柄で可憐な見た目に、男勝り過ぎるガサツな性格をした中年女。ワタシは彼女に何の言葉もかけず、上司の色々な部分に圧倒されている昌香の手を引いて、応接セットのソファへと誘ってやる。
「色々と驚いてるでしょうけど、ずっと年上だからね。あそこにいるのは、今年43になる独身女」
「えぇ!?…」
「失礼な奴でしょう?言ってやんな言ってやんなァ。だから友達0なんだよォって!」
「今、1人連れてきたでしょうに」
「それはなァ、三子屠。友達じゃなくて協力者っていうんだぜ」
そういいながら、ワタシと昌香の向かい側にドカ!っと座った上司は、手にしていた分厚いファイルをテーブルの上においてヘラヘラしていた態度を消して、一気に表情を引き締めた。昌香は自然と背筋を伸ばし…ワタシは減らず口を閉じてソファの背もたれに体を預ける。
「さて…三鷹昌香さん。そして、守護霊の四ッ谷亜希子さん。あぁ…亜希子さんは出てこなくていい。見えてっから」
雑な口調は変わらぬまま…上司は口を開き始めた。
「2人には、そこの寂しい女に協力して欲しい。そのために呼ばせてもらった。なぜかは…このファイルを適当に開けば分かるだろう」
2人…昌香と、昌香に憑いている亜希子にそういいながら、机の上に置かれたファイルを開く上司。適当に開かれたページに見えるのは、随分と前に時効となった連続少女失踪事件の捜査資料の一部。昌香はそれを見て首を傾げ…亜希子はそれを見て目を見張った。
「このページにャ…ねぇか。1984年の12月、亜希子さん。アンタは行方不明になってる。当時16歳…その制服は、県立四方山西高校の昔の制服だな?じゃ、木偶の坊の遠い先輩か…でェ…失踪当時のまま…ってことは、失踪後すぐに殺されたとみていいだろうなァ」
上司の言葉に、昌香と亜希子は開いた口から言葉が出てこない。上司は、そんな2人の反応を分かっていたかのように口角を吊り上げると、ファイルを次々に捲って…県警からワタシ達へと調査が引き継がれた後の資料を見せる。
「この手の事件は多すぎてねェ…引き継いで、こっちでチョロっと調べただけでお蔵入りさせてたんだが、こうして亜希子さんが出てきちまったわけだ」
「ま…まるで、亜希子さんが出てきたのが悪いみたいな言い方ですけど…」
「どっちかと言えば悪いのさァ。昌香さん。今、別件でな?…あー、申し訳ないが、お宅の事を調べさせてもらってるのよ。昌香さんの親の会社、近頃死人が嫌に多いじゃないか」
そう言った刹那。昌香の顔がこちらに向けられた。言いたいことというか…まぁ、諸々の気持ちはすぐに理解できたワタシは、両手を広げて首を傾げ、お道化て見せる。
「三子屠!!…貴女まさかあの日も…!!」
「そこの木偶の坊が何をしてたかは知らないけども。偶然が重なった結果、こうして居られるんだ。貸し借り無しにしてくれると助かるなァ…」
声を荒げた昌香を制する上司。彼女はピエロよりも怖い笑みを昌香に向けてそういうと、その表情に圧された昌香にこう言い含めた。
「そして、今から言う頼み事で…君に貸し一つだ。三鷹昌香さん。そこの、友達0の木偶の坊と組んで…亜希子さんの件の方を調べてくれないだろうか?今は人手不足でね、参ってんのサ」
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