4.知らない物語 -2-
「霊媒…師?」
昌香の顔は、何とも言えない表情になった。信じたくないし、怪しさ満点だけど…身に起きた事や、目の前の怨霊の事を見れば、信じるほかない。そんなどっちつかずの感情を精一杯に凝縮した、良い表情。ワタシは、自己紹介したときによく見る表情を見てクスッと笑うと、怨霊の方に目を向ける。
「そう。令和の今となっては、幽霊なんて信じてる人は殆ど居ないだろうけど。今でもこういうのが居る。だから、ワタシみたいな変な人が居るの」
ワタシはそういって腰かけていた椅子から立ち上がると、ポケットに手を伸ばして…そしてハッとした顔を浮かべた。
「あー、名刺、荷物の中だ」
「名刺持ってるんだ」
「怪しい団体だけど、一応ね。ワタシの様に、何もせず霊と触れ合える存在は希少でさ、未成年だっていうのに働かされてるわけ」
「…そうなんだ」
「幽霊絡みの事件に協力したり…霊障に悩む人を助けたりしててね。まぁ…そこそこ忙しいかな」
「なら、助けてくれたのも仕事の一つなんだね」
「まぁね。昌香の周囲にこんな霊が居るなんて知らなかったし。今日は、ただのクラスメイトとして来ただけだから」
「そ、そう…」
昌香がワタシを見る目は、間違いなくこの間までのそれと違う。彼女はチラチラと、大人しくしている怨霊の姿を見つつ、ワタシの目をじっと見つめて、この場がどう収まるのだろうか?と頭を動かしている様だ。興味がないとも、飽きたとも違う…このまま自分はどうなるのだろう?いつになったらここから動けるのだろう?という様子。
「ねぇ、三子屠。もし、助けに来てくれなかったら…アタシはどうなってたの?」
「さぁ…?それは、本人に聞いてみればいい。そのお札を持ってる限り、嘘はつけないはずだから」
昌香からの質問に答えず、答えを怨霊に投げ渡した。彼女は少々紅潮した顔をワタシに向けると、ギギギ…とでも擬音が付きそうな動きで昌香の方に顔を向ける。
「あぁ、それは部屋に戻ってからにして。いつまでも話してる訳にもいかないし…そろそろお開きにしよう」
続きは2人でやればいい。昌香の気持ちを(合ってるかは知らないが)汲み取ったワタシは、そう言って扉の方へ体を向けると、ふと怨霊の方に顔を向けて…そして最後にこう尋ねた。
「名前聞いてなかった。名前と生年月日…覚えているなら教えてくれる?」
「…四ッ谷亜希子。生前の事で覚えてるのは、もう、それだけ」
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「ふー…」
唐突な仕事を終え、宛がわれた客室へと戻ってきたワタシは、ベッドに寝転がって長い溜息をつくと、ベッド脇に放り投げたままだったスマホに手を伸ばす。
「……」
メッセージアプリを開いて、【上司】を見つけ…通話ボタンをタップ。スマホを耳に当てて目を閉じて待つと、13コール目で繋がった。
「三子屠ォ、なんだァ?こんな時間に…今、何時だと思ってる!?」
「おはようの時間でしょ?4時なら、そういっても、おかしくはない」
「お前なァ…ちったァ…クソ。まぁ、いい…で?」
明らかに不満たらたらな上司は、ワタシの返答に呆れた声を上げる。だが、電話を切ろうとせずにワタシの言葉を促した。
「ちょっと人助けをしててね。その報告」
「ほぅ…クラスメイトの誕生日パーティとやらに呼ばれたんじゃなかったっけかァ?」
「そのクラスメイトが襲われたの。霊の名は四ッ谷亜希子。年までは覚えてなかった」
「四ッ谷亜希子…フン…で、どうケリをつけたんだ?」
「守護霊にさせた。どうも彼女、クラスメイトに恋したみたいだったから」
「……」
事の次第を簡潔に言うと、電話の向こう側に居る上司は暫し沈黙する。
「ふざけてないからね?お札に拒絶反応を示さなかったし、いいでしょ?」
「あぁ…レアケースだったな。じゃ、その、クラスメイト…三鷹のお嬢はお守り付きか」
「そうなった。ワタシ達にとっては…運がよかったんじゃない?」
「そうだなァ。最近、悪いこと続きだったから…これくらい利益はねぇと」
そういって、上司の薄笑いが聞こえてくる。明らかに悪役がする類の笑い…かくいうワタシも、彼女と似た質の笑い顔を顔に貼り付けているわけだが…とにかく、今夜昌香に起きた出来事が、ワタシ達が今抱えている案件にとって幸運な出来事だった。
「クラスメイトってだけだったけど、接点ができちゃったね」
「良かったじゃねぇの。お前、友達居なかったろ」
「人間の友達ね」
余計な一言を受けてそれとなく反論するワタシ。それに対して、上司が先ほどとは違う種類の笑い声を放つと、それは一瞬で鳴りやんで…さっきよりも一段暗いトーンの声が耳に響き渡った。
「ま、友人は大事にしないとな。大事に…利用させてもらうとしよう」
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