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木偶の坊と呼ばれた少女  作者: 朝倉春彦
Chapter1.霊媒師、三階堂三子屠
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3.知らない物語 -1-

「どうみえたの?って言われても…」


 昌香はワタシの問いに戸惑った様子を見せる。彼女とて、さっきの怨霊の姿を忘れたわけではないだろうが…目の前に居る見ず知らずの人間と結び付けろと言われても無理な話だ。1対1ならいざ知らず…ワタシを介した3人席で、初見の人間を化け物扱いするなんて彼女には出来ない事だった。


「さっきも見たでしょう?いや、追いかけられてたんじゃないかな」


 暫しの静寂の後。答えを求める視線にそう応えたワタシは、そういって怨霊の体に手を突っ込ませて見せる。


「!!!」


 古いデザインのセーラー服を貫いたワタシの手。さっきまで、昌香の衣類を触っていたとは思えないその光景を見て、昌香の視線は文字通り点になった。この芸当…もう一方の手で振れているお札の効果で出来ているだけで、まぁ、マジックみたいなものなのだが、昌香の認識を正しい方向へ持っていくには十分だろう。


「え?…えぇ…本当に、その…ゆ、ゆうれ…い…なの?」


 そういいながら、昌香の顔は見る見るうちに青くなっていく。怨霊はその様子を見て気まずげな表情を浮かべ、ジロリと恨めし気な視線をワタシに向けた。


「そう、昌香を追いかけてた幽霊。安心して、何もさせないから」


 2人から別種の視線を受けても、ワタシの気持ちは揺るがない。寧ろ、内心で2人の反応を楽しみながら…ワタシは昌香にそう告げつつ怨霊の体内に突っ込ませた手を抜くと、その手をポケットに入れて、ポケットの中からお札を1枚取り出して見せる。


「はい、これ」

「…お札?」

「そう。これを持っておけば…この子は昌香の守護霊になる」


 渡したのはこの怨霊の魂を一部抜き取って術に練りこませたお札。ワタシ特製の逸品を受け取った昌香は、本人の目の前である以上、すぐに放り投げる事はしなかったが、あからさまな嫌悪感を隠さない。


「そんなもの!…急に…渡さないでよ…」

「そうは言ってもね。ワタシも相談相手になれるし…悪い取引じゃ無いと思うのだけど」

「まさか、さっきの事を…」

「違う違う違う。そうじゃない。最近、周囲が少しばかり騒がしいでしょう?」


 ワタシは諸々の情報を総動員して、昌香を丸め込もうと頭を働かせていた。「祓ってよ」とか「祓える人を紹介してよ」なんて言われればそれで終わってしまう話なのだが、なるべくそうならないように…彼女の家を絡めて、最近の出来事を絡めて、怨霊が昌香にとって得であると刷り込むのだ。


「昌香の家も、この近所も…近頃物騒でしょ?事件が余りにも多すぎると思わない?」

「…まぁ」

「ウチの学校でも、危ない目に遭った子は珍しく無い。この辺り…ちょっとどうかしてると思うのだけども、この子が居れば、昌香の身は安全なの」


 少々無理やりが過ぎる気がするが…押し通そう。ワタシは昌香の不安を煽りつつ、その不安の受け口が怨霊になるようにと、下手な営業トークを続けていく。


「幽霊と触れ合える素質がある者は、そう多くない。昌香は運が良いの。更に運がいいとすれば…この子が昌香に引き寄せられた事」


 表情を変えず、ジッと目を見つめて話を続ける。昌香は、最初のうちこそ気味悪げな表情でワタシのことを見つめ返していたが、今では表情を僅かに引きつらせるだけ…ワタシは手ごたえと罪悪感を感じながら、話をまとめに入った。


「残機というと、ちょっと行儀が悪いけれども。この子が守護霊になれば、1回だけ…昌香の、命の危機はチャラになる。だから、持っておいてよ」


 半ば強引に話を閉じて、そして、最後にダメ押しを1つ…


「近頃物騒だけども、全部が全部人の仕業だけじゃないの」


 幽霊の手も借りたいと思える程の状況を…多くの人々は知らない事実を伝えてやる。


「幽霊なんて御伽噺の存在じゃない。すぐそこに居る隣人」


 そういうと、昌香はワタシから目を逸らして、チラリと怨霊の方を見やった。


「……ずっと後ろに居るの?」


 昌香の問いに、怨霊は頬を赤らめつつ首を左右に振る。昌香は引きつったままの表情ながら、コクリと小さく頷いて…そして、ワタシに視線を戻し、こう問いかけてきた。


「何が何だかって感じだけど。受け入れる。だから…教えて?三子屠…貴女、何者…?」


 恐る恐るといった様子の問いかけ。同じクラスで1年間、地味で暗い存在を貫き通したワタシへ注がれる視線は、学校でのそれとは明らかに違う。それを肌で感じながら、ワタシは口角を僅かに上げて、こう答えた。


三階堂(みかいどう )三子屠(みこと)…霊媒師だよ」


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