2.禁断の恋心 -2-
「は…?お、オマエ…イマ…なんて…」
「恋心も、憎悪も、ワタシに任せてみないって言ったの」
お札の効果で実体化出来ない程に力が弱まった怨霊にそう告げる。ワタシの、その言葉を最後に、ダイニングルームは静寂に包まれた。
「……」
戸惑い顔を見せるだけで答えを返さない怨霊。彼女の肩にかけていた手を離し、チラリと後ろを見やれば…昌香は気を失ってしまっている。壁際に崩れ落ちるような姿勢になってしまった彼女は、さっきまでの恐怖心は何処へやらと言った吐息で、ぐっすり眠ってしまっていた。
「勿論。貴女の考えていた通りのお付き合いはさせないけれどね。そうしたら、ワタシじゃない…本物の霊媒師がスっ飛んでくるでしょうし」
お札に力を削がれ、ユラユラと漂う霊魂と化した怨霊。辛うじて残っている目口鼻で表情を作って答えて曰く「…分かった」との事。ワタシはその返答を聞いて、ニコッと笑って、パチン!と指を弾き…ようやくお札の効果を滅してやる。
「契約成立ってね」
「…な、なんなのよ…アンタ…」
お札の効果が切れれば、霊魂はすぐに人の形を取り戻した。さっきと違うのはワタシへの視線。さっきまでの、ワタシを侮った様な態度はどこにも無い。ワタシはその姿を見て目を細めると、彼女の首元に刻み込まれた【刺青】を指さした。
「え?首…うぇ?!?!…何これ!!??アンタ、アタシに何を…!?」
「戯れさ」
「せいぜい首のコレがなんなのか説明なさいよ!!!」
暗がりの中といえど、ガラスに反射して自らの首に刻まれた刺青が見えたはずだ。彼女はワタシに食ってかかるように怒鳴りつけるが、ワタシはそれに何も答えず、涼しい顔でいなすだけ。
「ん…な、何…?…もぅ…」
説明なんてしなくてもすぐに思い知るのだから。
「……」
ワタシの掠れるような小声ではなく、怨霊の怒鳴り声によって反応を見せたのは、昌香だった。彼女は眠たげな声を上げて目を覚ますと…
「え?え?…なん…あ…えぇ…嘘…だよ…ね?」
ぐっしょりと濡れた自らの下半身と、床に気づいて…そして、ワタシ達【2人】の視線に気づいて顔を真っ赤に染め上げる。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
刹那。ワタシ達の鼓膜は、昌香のキンキンに甲高い叫び声によって暫しの痛みを負う羽目になるのだった。
・
・
「流石は大豪邸。あれだけ叫んでも人一人起きてこないとはね」
「うっさい!…もぉ~…今日のこと!絶対に秘密だからね!!」
「喋らないよ。そういう趣味は無いから」
数分後。諸々を片付けて、ワタシ達は脱衣所で駄弁っていた。
「…で、その子なんだけど」
「あぁ、見覚え無い?」
「全然。というか…うん、成り行きで手伝ってもらってたけど、不審者…じゃない?」
「だとしたら、今頃ワタシ達は刺されてる。どこから説明したらいいかな…」
「……」「……」
この場にいるのはワタシと昌香…そして、【時代外れのセーラー服】に身を包んだ謎の少女の3人。自らの失態に我を忘れていた昌香は、落ち着いた事でようやく【人の姿】をした怨霊の存在に気づく。
「さっきも見てるはずなんだけどもね」
この2人の事を知ってるのはワタシだけ。ワタシは昌香の恐怖心を掻き立てない様、彼女の顔色を伺いながら、ゆっくりと口を開いた。
「昌香には、どう見えてたのかな?ワタシには、この格好のままの姿に見えてたのだけどもね」
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