14.新生活 -1-
「へぇ…そんな事があったんだ」
「うん。もし、今日中に行方不明の届けが出なかったら上司が出すってさ」
翌日の昼休み。パッと弁当を食べ終えたワタシは、昌香と共に中庭のベンチで話し込んでいた。本題に入る前に、まずは昨日の話から。昌香は親が関わっているかもしれない殺人事件の話に眉を潜めたが、それでも取り乱さず冷静にワタシの話に耳を傾けてくれていた。
「で、ここからが本題。ワタシ達が調べるのは2つ。1つは四ッ谷亜希子さんの事件。もう1つは…昌香の親の会社に対する疑惑」
「そう言ってたわね」
「事件の方は、正直手詰まり状態。40年前の連続失踪事件だからね、生きてる人間の記憶なんてアテにならないでしょ?」
「確かに」
「だから、手を付けるのは後者の方…悪いけれど、昌香の親の事を調べるしかないし…これは勘でしかないんだけど、そっちを調べれば、亜希子さんの件も見えてくると思ってる」
そういうと、昌香の表情は更に険しいものになり…彼女は僅かに身を縮める。無理もない反応…ワタシはそれを茶化さずに、だが、同情するような表情も出さずに…あくまでも中立の立場を崩さず、淡々と話を進めていく。
「さて、疑惑の方は単純。昌香の親か…親がやってる会社の上層部が手を汚してるかもしれないっていうだけのこと。もっと言えば…大昔から、手を汚しながら会社を大きくしてきたんじゃないかってね。妬み嫉みみたいな調査動機だけど、実際色々な人が死んでるからね。で、ワタシ達の調べで挙がった【被疑者】はここに書いてる」
ポケットから取り出した【捜査資料】のコピーを渡して曰く…
「取っ掛かりになるのは全部で5人。まず1人目は三鷹正義。61歳で、昌香のお父様……」
「……続けて?」
「理由は【ミタカグループ】の会長職にいるからというのが1つ。そしてもう1つは…」
「押しが強いから…?」
「…昔、まだパワハラなんて言葉が無い時代の振る舞いは語り草らしいね」
「えぇ…娘のアタシがいうのもだけど、まぁ…所謂ヤンキーでね。その手の話も、交友関係も全部知ってる」
昌香の言葉に頷いてみせたワタシは、もう一つ…胸ポケットに入れていた四つ折りの用紙を広げると、それも昌香に渡してこう続けた。
「そんな育ちの悪い自分が嫌いだから、娘は上品に育てたい…なんてインタビューもあったっけ。大分昔の雑誌の切り抜きだけど」
渡したのは、件のインタビューが書かれた切り抜きのコピー。昌香はそれを見てサラリと読み流すと、曖昧な苦笑いをこちらに向ける。
「結果は失敗だろうけど。ほら、アタシ、口調に滲み出てるでしょ?」
「……どう答えれば良いかわからないけど。ちゃんとお嬢様してたと思うけどね」
「あら、意外…」
「そういうところだよ。さて、続けるけども。1人目の、昌香の父親は怪しまれるには十分でしょう?気性の激しさに、会社拡大の野心…人を手にかける動機は十分に揃ってる」
「そうね。犯人にピッタリ」
昌香の軽口を聞いて口角を吊り上げたワタシは、その空気が崩れないうちに話を進めた。
「…2人目は、大廻麻沙美。年は50代半ば」
「資料を見る限り、彼女も被害者の様だけど」
「そうだね、旦那を交通事故で亡くしてる。犯人は見つからぬまま時効を迎えた」
「それだけ聞けば、なんで名前が挙がるか分からないのだけども…」
「死の前後で扱いが違うからだね。ほら、旦那さんが死ぬ前は、関連会社のパートだった」
「あぁ…死んだあとは本社の正社員で…今は役員…と」
「動機というか、流れを考えればアリでしょ?」
そういって昌香の顔を見やれば、彼女は笑っていいのかもわからないといった感じの苦笑いを返してくる。
「で、残りの3人は、みんな関連会社の社長さんでね」
横道に話を逸らさず先へ進めると、昌香は再び資料に目を落とし…そして「あぁ」と合点がいった様な反応を見せた。
「挙がったのは、みんな、お父さんの昔からの仲間だから…?」
「そう。会社立ち上げ期からいたメンバーで、今は子会社の役員をしているから。1人目…兵野英雄は【ジェイド・コンサルティング】の社長。2人目、羽場孝信は【羽場運輸】の代表取締役。そして3人目、宮古瑛吉は…」
「【ユニコーン】の専務。根本さん…だっけ?その人が勤めてた会社でしょ」
「そう」
「これが唯の殺人事件なら…誰か1人が犯人なんでしょうけど…」
昌香は【被疑者】5人の情報を読んだうえで…その中に書かれた人物の中に実の父親が居るのを分かったうえで、絞り出すようにこう言った。
「怪しいっていうより、この5人を取っ掛かりにして…【どこまで】が罪人かをあぶり出したい…そう思う方が自然よね」
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