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木偶の坊と呼ばれた少女  作者: 朝倉春彦
Chapter2.急成長のマニューバー
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10.霧の街 -2-

「あ…あぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 強い思念が崩れてしまえば、そこに残るのは悪霊の正体だけ。ワタシの目には、全身痣だらけの、とっぽい男に見えるそれは、何一つ被害を被っていないワタシの姿を見て恐怖におののいている様だった。


「運がいいんだか悪いんだか。貴方にとっての不運は、喧嘩を吹っ掛けた相手が【霊媒師】だったこと…そして幸運は、ワタシが【木偶の坊】であること!!!」


 そういって、セーラー服のポケットからお札を取り出したワタシは、その札を目の前の死体男に向けると、男は何かに弾かれたかの如く、脱兎の様に駆け出した。


「アハハハハハハ!!!!追い掛けっこなら得意分野なんだ!!!!」


 スイッチの入ったワタシは、周囲の目すら気にせず男を追いかける。どうせこの霧の中…奇声を発してかける女子高生がいたとしても、それが誰だかなんて分かるまい。


「さァ、遊ぼうかァ!!」


 ワタシは馬鹿正直に、生きていた時の様に歩道をかける男の後を追っていく。


「死にたてホヤホヤだなぁ!?人だった時の常識が残ってる!!幽霊はもっと自由なんだ!!ホラホラホラ!!何が出来るか、試してみなよ!!」


 逃げる背中に煽りを一つ。男はこちらを振り返り…お札をかざして走るワタシの姿を見て再度悲鳴を上げると、意を決して車道へと飛び出した。


「その程度!?」


 霧に包まれた街。車道を行き交う車がいないわけではないが、たかが知れている。ワタシも男の後を追って、ガードレールを飛び越えると、車に【透けて】先を逃げる男を追い掛けた。


「っと…」


 クラクションの嵐。時折聞こえる怒声を背中に浴びながら、ワタシは男を追い掛けていく。彼は霊とも思えぬ程に情けない悲鳴を上げながら車道を渡りきると、何処ともわからぬ住宅街の方へ入っていった。ワタシもその後を追っていくが…男は適当な民家の中へと駆け込み姿をくらます。


(まだまだ【慣れてない】なぁ…死後数日なら、結構良い【証人】になれそうだ)


 流石にワタシまで中に入るわけには行かないが…ワタシはヒョイとブロック塀の上に飛び乗ると、そこから、男の駆け込んだ民家の屋根に上がって足を止めた。


「さてさて?…どこから出てくるかなぁ…?」


 ゾクゾクする胸の内を曝け出して、屋根の上を行ったり来たりしながら男の姿を探していると…不意に、男が屋根の上に姿を見せる。


「……」「……」


 目が合うと、時が止まった。


「居たぁ!!!」

「ひぃぃぃぃぃ!!!!!」


 ドン!と屋根を蹴とばし駆け出すワタシ。男は絶叫しながら屋根から飛び出す。


「その程度!!!!!!!」


 フワリと宙に浮いた男。【常識が人のままなせいで】重力に逆らえず落ちていく男。ワタシはそんな彼の背中めがけて思いっきり屋根を蹴とばし、宙を舞った。


「まだ【人だと信じている】んなら!!」


 男の首元をガシッと掴み、耳元で叫んでやる。


「こうなるのさぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 そう叫んで、くるりと男の表面をこちらに回して…そのまま、男を下にして数瞬後。住宅街の道路のど真ん中に派手な破裂音が響き渡った。


「……………………………………………………………………………………」


 ワタシは無傷。下敷きになった男は、幽霊の癖に背中から大量の血と肉片をまき散らして白目を剥いている。別に、そうなっているだけでダメージ等無いはずだが…【常識が人のまま】だから、こうなるのだ。


「ちょっと、お話をお聞かせ願えますかね?悪霊さん?」


 男の白目が元に戻った時。ワタシは男の顔に自らの顔を近づけてそう言うと、男は震えた声で「は、はぃ…」と言って再び白目を剥くのだった。


お読み頂きありがとうございます!

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