9.霧の街 -1-
「いいって言ったのに…」
「散歩が日課だから。それに、令嬢を1人街に放り出すのはちょっと…」
「それ、アタシより小っちゃな女の子が言う事じゃないでしょ。亜希子さんも居るんだし」
「ふふ…だから、退屈しのぎってね」
「舞い上がってるのね」
「言わないでよ。隠してたのに」
昌香の家…この間、彼女との奇妙な関係が始まった郊外の屋敷までやって来た。
「それじゃ、続きは明日」
「そうしましょ。それじゃ…またね」
「えぇ、また明日」
今はもう17時…あと少しで闇に染まる時間帯。ワタシは屋敷の門前で昌香と別れると帰路に付く。来た道を戻るだけ…なのだが、その道は、この街特有の霧によって見えなくなっていた。海霧…街の一方は太平洋で、まぁ、色々あって霧に包まれやすいのだが、こうも視界が効かなくなる程に霧が深いのは珍しい。
(亜希子さんじゃ、役不足だしね…この程度で力を使われても困るもの)
ワタシは数十メートル程度の視界の中を歩き始めると、最初の信号を渡った所で、ふと足を止めた。
「ねぇ…悪霊さん?」
そして、背後を振り返って一言。霧に向かって話しかけると、霧の向こうから【何か】が現れる。実体を持たぬそれは、周囲に纏わりつく霧がフワリと動くことで…人型のシルエットを持っていると分かったが、それ以上のことは【彼】が声を発さない限り分からない。
「… … … …」
そんな【彼】から発されたのは、電波の悪いラジオが鳴らす様な汚い雑音…それがワタシの耳に届くと、ワタシは僅かに歯を食いしばった。
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流れてきた思念。言葉ですらない、【彼】が人だった頃の最期の思い。その念は【重み】へと変わり…ワタシや、ワタシの周囲にある物は、ズッシリと何か重たいものを載せられたかの様に動けなくなる。ワタシは足一つ動かせず…さっきまで軽く風に舞っていた落ち葉や砂は、ピタリと動かない。
(随分と後悔がある様で…)
【彼】が何者か知らないが…強い憎しみに支配された悪霊は、ワタシの周囲の【時】を止めんとする程の圧を持ってワタシの動きを封じ込めると、ユラリユラリと近づいてきた。
(霊に呼応できるなら、何だって良いって感じ。あぁ、昌香は恰好の獲物だったか)
木偶の坊。霊を祓わぬ存在…そんなワタシを襲ったのは偶々だろうが、【彼】は運がいい。ワタシはワタシの目前に迫る【死】をジッと見つめながら、体が動かせぬ中で何とも呑気な事を考えつつ、ジッと【彼】がワタシに触れてくるのを待ち構える。
(昌香に行かず、ワタシを追って来たのは…亜希子さんのお陰かな)
どうも、ワタシは霊に舐められる性質があるらしい。知り合いに言わせれば「幼く…そして、弱く見える」との事だが…
(【可愛い薔薇】には毒がある。それを知らない奴がどうなるか)
目の前までやって来た悪霊。【彼】は実体を持たない体を動かして、ついにその手をワタシの額に伸ばしてきた。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
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…?
流れ込む思念。ワタシに流し込まれた、濁流の様に流れ込んできた思念は、ワタシをこれっぽっちも飲み込まず…やがて一気に凍り付き…ピキッと何かが割れたような音を立てて、一気に崩れ落ちていく。
「相手が悪かった。そう思いなさい…新人君?怖い【霊媒師】の話は、幽霊になって、1時間以内には学ぶ事だと思うのだけどもね?」
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