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0.プロローグ

 闇に包まれた館。明かり一つ付いていない館の中で、少女の荒い吐息が時計の針の音とシンクロしていた。ハァハァ…と肩を揺らし、少々膨らみかけてきた胸を上下に動かして、精一杯に空気を取り込もうともがくその動きと、館の中に長年鎮座している古時計の針の動きが見事なまでに合致している。


 振り子が右に動けば、少女の肩がスーッと上がり…

 振り子が左に動けば、少女の肩がスーッと下がる。


 だだっ広い館のダイニングルームにて、全身から冷や汗を流し、恐怖に震え、荒い呼吸を繰り返しているのは、この館の主である三鷹正義の孫、三鷹昌香だ。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 つい数時間前までは、館に招かれた者達によって賑やかだったダイニングルーム。それが今では、嘘のように暗く…静かで、何もない。整然と並べられたダイニングテーブルと椅子…古い振り子時計があるだけの部屋の中で、昌香は自らの身に起きた事を懸命に理解しようとしているように見えた。


(彼女の身に起きたのは、なんてことない色恋沙汰)


(だけど、その恋は…彼女にとって受け入れ難いもの)


(受け入れ難くても…その恋は、きっと、彼女を飲み込むのでしょうね…)


 1人の少女が荒い呼吸を何とか諫めようとしている様をキャットウォークの隅から…遠くから眺めているワタシは、彼女の身に降りかかった災難を哀れに感じつつも、何も手を打ってやれない事に気を揉んでいた。


(ここで部外者たるワタシが巻き込まれれば、クローズドサークルが出来上がってしまう)


(外はまだ穏やか。ともなれば、【彼女】はまだ…心穏やかな状態であるはず)


(そのまま…なんとか、それを維持して…切り抜けることにしよう)


(【あるがまま…】それが、ワタシのモットー。どんなに足掻いても、なるようにしかならないんだもの…)


 ダイニングルームよりも暗いキャットウォークの隅で、外の様子を見つつ…下に見える少女の姿を眺めるワタシは、何も動かないで、昌香の身に起きるであろう出来事をジッと見つめている。ワタシの勘が正しければ…もう、【彼女】はすぐそこにまでやってきているだろう。そして、【彼女】がダイニングルームにやってきて、昌香に接触したのなら…もう、昌香は逃れられない。


「!!!」


 自らの無能さ…無力さを呪っていると、昌香が全身を震わせてダイニングルームの壁に張り付いた。バタン!と壁に当たった音が鳴り響き…昌香の視線の先を追ってみれば、1人の少女の姿が見える。


「な、なん…なのよ?…わ、アタシを追って来たのは…アンタなの!?」


 春から高校生な昌香から見ても少し年下に見える小さな少女。この空間において、妙に【明るく】見える彼女は、昌香の問を受けてクスクスと楽し気な笑い声を上げた。


「ふふふ…そうね。私よ?お花を摘みに起きた昌香様を追いかけていたのは…この私!」


 ビリビリと、変なノイズが乗った声。様子といい、声といい、まさに人外。スカートの長い、古びたセーラー服に身を包み、時代遅れな…派手目なパーマがかけられた華奢な少女は、ガタガタと体を震わせながら、不気味な笑い声と共に昌香の方へ近づいていく。


「こ、こないで!」

「いやよ。だって…気に入っちゃったんですもの」


 どういう因縁があって、この館に住み着いた怨霊が昌香にお熱なのかは知らないが…


(場を収めるだけでいい。それが【木偶の坊】の仕事だ)


 そろそろ私の出番だろう。私は暗がりの中で立ち上がると、ヒョイとキャットウォークを飛び越えて…昌香と怨霊の間に着地した。


「ひゃ…!!」「んん~?」


 ドン!という着地音。暗いダイニングルームに鳴り響いた、大きな音は、一瞬のうちに針の音と呼吸音を消し去って…そして、2人の視線はワタシ1人に注がれる。


「あ、アンタは…」

「お前は…」


 暗がりの中、突如として降ってきたワタシに驚いた2人は、ワタシの事をジッと凝視して目を剥いた。


「三階堂三子屠!!!」

「で、木偶の坊!!!」


 昌香はワタシの名前を…怨霊の方がワタシの通り名を叫んだところで、ワタシの頬が僅かに緩む。さぁ、ちょっとばかり…仕事の時間といこうじゃないか。


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