8 不出来なサキュバス
「ん……? 暗いな……」
「あ! 目が覚めたのね」
誰だ? この声はヘデラでもアンスでもない。
「昏睡〇〇プは私の趣味じゃないからね」
なんかすごいことが聞こえたが……。
「じゃ、さっそく。いただきまーす」
「待ってくれ! お願い!」
「なに。捕まったエサが喋るんじゃない」
「ちょっと状況を整理させてくれ」
「いいよ。頑張って抗いなさい」
こいつ、紫髪のくせに俺を煽りやがって。
確か、あの森でヘデラの後をついて行ってたら眠たくなったよな。
そこから記憶がない。
「もういい? 我慢が出来ないんだけど」
「あなたは誰なんです?」
「言わなきゃいけないの? まーでも、愛し合うってお互いを知るってことだしね。じゃあ教えてあげる」
よし。今の内に打開策を考えるぞ。
「私はサザン。この森に拠点を置くサキュバスだよ」
サキュバス? あのサキュバスか!
「お腹が減ったからお前をさらった」
とりあえず起き上がろう。
あれ? 体が動かない。
「今気が付いたの? お前の体は縛っている」
まじか。どないしよ。
「もういいわ? ズボン、おろすね」
「ちょっと待って、まだ疑問がある」
「も~。早くして」
「この森にサキュバスがいるの?」
「そう。何か疑問でも?」
「最近、男の人が減ってるって聞いたけど……」
「多分、私たちがさらってるからね」
「さらった男の人はどうしてるの? もしかして……息の根を止めてるとか……」
「そんなことしないよ。貴重な栄養源よ」
「じゃあどうしてるの?」
「みんな望んで私たちの巣にいる。まあ、絞りとられるって気持ちいらしいし」
「もしかして……俺もそうなるの?」
「まあそうなるかもね」
どうしよう。男なら一度は妄想したことある快〇堕ちか。
「パンツ。おろすよ」
気持ちいならこのまま任せようかな。
「ハルト~。どこ~。」
「ねえヘデラ。こんな洞窟にはいないと思うけど……」
「うるさい! 私の感が言ってるのよ!」
ヘデラとアンスの声だ!
「ちっ、誰か来たわね。とりあえず移動するわよ。抵抗しないでね」
腕の拘束を解いている。
今がチャンスだ。
「ちょっと抵抗すんじゃない!」
「うるさい! 俺はエサじゃないんだ!」
バタッ!!
「「あ」」
この紫髪のサキュバスが俺に馬乗りになってしまう。
「どいてくれます?」
「そうね……。どくわ……」
気まずい。
「あ。見つけた。なにして……本当に何してるの?」
「あー! またヤってる!」
「ヘデラ! これには訳が!」
「うるさい! 私を置いて二人と浮気するなんて!」
「お前……ひどい奴だな……」
この異世界に来てから勘違いが止まないんだが。
「こうなったら意地でもヤるわ! えーい! 三人でするわよ!」
「ちょっと待ってヘデラ。ハルトを襲ってるの、サキュバスじゃない?」
そこでヘデラは、このサキュバスについてる小さい羽と頭から生えている角、そして少し暴れている尻尾を見る。
「ほんとだ。ハルトは異種でもいいタイプなんだね……」
「もう! 違うって! 説明させてくれ!」
俺は二人に今起こった出来事を話す。
その間、このサキュバスは黙って見ていた。
「なるほどね。この変態がハルトをさらったと……」
「おい! お前! 変態とはなんだ!」
「事実じゃない!」
言い争いをしている間に奥から足音がしてきた。
「あれ~。サザンじゃない。それと一匹のエサと……二人の女!?」
別のサキュバスがやって来た。
すると俺を襲ってきたサキュバスは顔を背ける。
「サザン。散々あんたに教えたわよね。エサの取り方や、行為の仕方。なんでできないのかね~」
「うるさい……」
「あれ~。そんな口きいていいんだっけ? エサもまともに取れないサキュバスなんて価値がないのよ」
なんか修羅場に遭遇してしまった。
「それにサザン。女にはバレずにってこと忘れたんじゃないよね。女がいると私たちの催眠魔法が分散されて、エサを完全に堕とせないってこと」
「……」
「なにか言ったらどう?」
アンスが俺に近づき小声で話す。
「今がチャンスよ。さっさと逃げましょ」
それを聞き俺は逃げる準備をする。
ゆっくりと音を立てずに……。
「サザンが出来損ないってのはみんな知ってんのよ。ザコはザコなりに頑張るもんだと思ってたら違ったのね」
「あああ! もう嫌! こんな所にいたくない!」
「叫ぶ暇があるなら、エサの一匹でも捕まえてちょうだい」
「あんまり言い過ぎでは……」
「は? エサのあんたなんか関係ないんじゃない」
「ハルト。あんま構ってると逃げ遅れるよ」
「そうよハルト。帰って私としましょ」
「言い訳の一つもできないなんて、本当にあんたはいらないわ」
するとこのサキュバスは立ち上がる。
「分かった。いらないんだったらもう出てく」
「そうしなさい。あんたなんて一族の恥よ」
涙を拭いながら逃げるように去って行った。
「ほんとに出て行った」
俺らも出ていこうとする。
「せっかく捕まえたエサだけど、あいつが捕まえたってだけでブランドは落ちるからね。あんたたち、もう出てっていいわよ」
「じゃあ……失礼します……」
帰路に立つ。
「なんか、魔物にもヒエラルキーってあるんだな」
「そうね。人間界だけかと思ったよ」
「それより、ハルトが無事でよかったわ」
これ以上の会話はしなかった。
足音が響き、あの場所から会話が聞こえるほどの静寂で帰っていく。
「もうすぐ洞窟の出口よ」
明かりが見えてきた。
「やっと出られた。さ。帰ってギルドに報告ね」
「なあ。あそこの木に座り込んでるのって……」
「さっきの変態サキュバスだ」
「なんか、声が掛けづらいな」
「まあいいわ。帰りましょ」
俺たちはこのサキュバスを無視し、町に帰ろうとする。
「ちょっと待ってよ……。ねえ……、無視しないで……」
話しかけてきた。
すると二人はニヤけながら俺の耳に顔を近づけた。
「ハルト。いけ!」
「そうよ。童貞を卒業したいんでしょ。なら女の子に慣れとかなくちゃ」
この二人が俺の背中を押してくる。
少し戸惑うも、勇気を出してサキュバスに近づき、声をかける。
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃないでしょ……」
「なんか、ごめん。あんなところ見ちゃって……」
「謝らないで」
泣いている女の子を慰めるのは相当な力がいる。
「私が悪いのよ……出来損ないだから……」
どうしたものか。
「そんなことないよ」
「そんな言葉なんか欲しくない!」
まじでどうしよう。
後ろを振り返る。
あいつら笑ってないか?
「私ってもういらないよね……」
「俺はそうは思わないよ」
「なんでよ……」
「君が襲おうとしたとき、俺、少し興奮しちゃって……。実を言うと顔や体を見た時、この人なら初めてを捧げられるなって思ったの。そのくらい君には魅力はあるよ」
「ほんとに……?」
「うわ! 外見褒めはダメでしょ!」
「これだから童貞は。私が教えなくちゃね」
「うるさい! お前らは口を出すな!」
すると服が引っ張られる感触になる。
「ねえ。ついていってもいい?」
「え……大丈夫なの? 仲間になにか一言でも……」
「いい! あんなこと言ったのに戻る顔なんてあるわけないでしょ!」
「確かにそうだな……」
「ついていくね……」
俺はこのサキュバスとともに二人のところへと戻る。
「お! 成功じゃん!」
「うるさい。それより、このサキュバスの……」
「サキュバスじゃない。サザン……。 私の名前……」
「ごほん。 サザンの泊まるところって、家に空いてる?」
「まあ。居間の机をどかせば……」
「よし。じゃあ連れて帰るぞ」
「ねえ、ハルト。本命は私よね?」
「どうかな」
「濁さないでよ! 私が一番って言って」
「そういえば、お前らの名前は……?」
「俺はハルト。で、この赤髪がアンス」
「どうも~」
「さっきから叫んでる変態で気持ち悪くていつも添い寝してくる金髪がヘデラ」
「紹介文ひどくない?」
「事実を言っただけさ。それが嫌なら俺には付きまとうなよ」
「ぷっ。楽しそうだね……」
笑顔を見せてきた。可愛いじゃんか。
「私ね。誰かと一緒に生活をしたことがないの……。だからさ、私も交ざりたい」
「もちろん! いっぱい甘えてもいいわよ」
「ありがと」
「さ! 帰るわよ!」