7 襲いネタ
「アンス、考え直してくれ!」
まさかアンスが襲ってくるとは。
「あなただって誘ってきたじゃない!」
心あたりがない。
「そんなことしてない!」
「嘘つき! してたじゃない!」
これじゃあただの水掛け論だ。
「具体的に俺がなにしたの……?」
「あなた、毎日お風呂に上がったあと、私が貸した服を嗅いでたじゃない」
見られてたのか!
「あれはー、そのー」
「言い訳なんて聞きたくない。あなたもその気だったってことよね……」
まずい、口を近づけてくる。
「あなたは初めてじゃないわよね……。じゃあ、私を……リードして……」
唇が触れそう。俺の初キスがこんなんになるなんて……。
「ちょっと待ったー!」
「げ! ヘデラじゃない!」
救世主の登場だ!
俺は急いでアンスを引き離す。
「なんでヘデラがここに!」
「だって寝られなかったんだもん!」
「ハルトと離れたぐらいで……」
「違うわよ。うるさかったの!」
「へ?」
「隣から掠れる声がうるさくて! しかも三時間くらいよ! 止まったと思ったらまた聞こえてくるの!」
「もしかして……それって……」
「うわああああああああー!」
「あ! どこ行くんだ! アンス!」
明かりが無くても分かるくらい顔を赤らめて出て行ってしまった。
「もう大丈夫よ、ハルト。さあ、私としましょ」
「しません!」
「私だって、アンスが起きてたから、溜まってるのよ」
「ヘデラも媚薬飲んだのかよ!」
「え? 飲んでないわよ」
「じゃあその溜まってるのはいつもなのか?」
「そうよ。あの空間にいた時から慰めてたわ」
まじかー。なんか幻滅してきた。
「そうだったのか……」
「そんなことはどうでもいいの。アンスもいなくなったことだし、しましょ」
「無理」
「そんなことは言わずに♡」
「俺の初めてはもっと高貴なものなんだよ!」
「そんなんだから童貞なのよ」
「うるさい」
「仕方ないから今日はお預けね」
「別に望んでないがな」
「さあ、一緒に寝ましょ」
ヘデラとともに布団に入る。
「私の抱き枕~」
だからお前のじゃない。
しかし、抱きしめられると暖かくなる。
今日の夜のことは忘れよう。
「おはよう。ってアンスはいないのか……」
ヘデラは相変わらず寝ている。
それよりもアンスが心配だ。昨夜に家から出て行ってしまった。
「探すか……」
町へと足を運ぶ。
朝方だからか、人は少ない。
それにしてもここはどういう町なのか考えたこともなかったな。
色々見て回るか。
「お。ここは広場だな。噴水もある」
ここがこの町に名物なのだろう。しかし目玉と言っても少し小さいが。
「ここは商店街だな。ヘデラはここで食材を買ったんだろうな」
朝の散歩には少し歩きすぎかもしれないが、町の探検は意外と楽しい。
「ほえー。ここは教会か。建物の大きさはこの町では一番だな」
ん? 入口に誰かいる。
白銀の髪をなびかせて箒を履いている。
「あら。おはようございます」
見た目的にシスターさんだろう。
「おはようございます。朝、早いんですね」
「そうですね。いつもここの掃除が日課ですの。ただ今日は少し早いですがね」
「それはどうして?」
「それは……」
そう言いかけた時、教会の入口が開いた。
「ねえ。マズミ。早いよ~」
「あら。アンスさん」
「あ! ハルトじゃない!」
見つけた。
「探したよ。アンス」
「あら。お知り合いで?」
「昨日言ってたパーティーのハルトよ」
「そうなんですね。私はマズミと言います」
逃げたと思ったらここに駆け込んでたのか。
「アンス。このシスターと知り合いなの?」
「まあ、そうね」
「あら。知り合いというか幼馴染ですね」
「へー。意外だな」
「アンスさんは一人っ子だったの。だから昔は私のことを、『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って言っていつも後ろを着いて行ってたのですよ」
「ちょっと! 言わないでよ!」
可愛いところもあるじゃないか。
「それよりも聞いてください。昨日の夜は大変だったのですよ。アンスさんが夜中に叩き起こしてきて……そのおかげか、なかなか寝付けなかったのです」
「だから言わないでって! 恥ずかしいじゃない……」
「ちなみに、どんな内容で起こされたんですか?」
「それはね……」
「ストップ! マズミ。私から話とくから! それ以上口を開かないで!」
「あら。そうですか」
「さあ、ハルト。帰りましょ!」
アンスが俺の腕を掴み、引っ張り気味で帰っていく。
「気をつけてね~」
「はい! ではまた!」
マズミさんが見えなくなった。
「なんであなたはそう人のプライベートに突っ込んでいくのかね」
「いや~。心配でね。それよりアンスさん。なぜ教会に?」
「うるさい! 答えたくない……」
「自分の興奮が収まり切れずに、仲間を襲いかかっ……」
ペチッ!
「なにすんだよ! アンス! 平手打ちしなくてもいいじゃないか!」
ぺチッ!
「暴力はよくないぞ!」
ぺチッ!
「痛いんで本当にやめてください。俺が悪かったです」
「分かればいいのよ」
このことに触れたたらまずいな。
「さ。家に着いたから、もう昨日のことは忘れなさい」
「分かりました」
家に着き、玄関扉を開ける。
「あ! ハルト! どこ行ってたのよ! さみしかったのよ!」
「散歩だよ。散歩」
「ちょっと待って……。アンスと一緒に朝帰りってことは……」
ぺチッ!
「おい! 今のは関係ないだろ!」
「今日も討伐しましょうね~」
打たれた頬がまだ痛い。
「ねえ、ハルト。本当にアンスとしてないよね?」
「本当だよ。俺にそんな度胸あると思うか?」
「まあ、そうよね。ハルトは私のことは大好きだからできないもんね。あと初めては私に捧げるって決まってるしね」
「共感を求めるな」
「さあ、ハルト。ヘデラ。これにしましょ!」
‘‘男性の行方不明調査‘‘
「ハンターって探偵もするの?」
「基本はしないけど、解決が長引いてるものはギルドにも依頼が入るわ」
「報酬はっと……十万マニーか。高いな」
「行方不明調査だけでこんだけもらえるってことは、ちょっと頑張んないとね」
「さっそく行くか」
「ここが行方不明者が出ている森か……」
「ねえ、ハルト。なんか不気味じゃない?」
そう言われると不気味に見える。
「男だけが行方不明になってるのよね」
「だったらハルトは危ないじゃない!」
「大丈夫だよ。なんたってアンスがいるからな。あのアンスだぜ? 俺を襲おうとした」
「グーで殴るよ」
「ごめんなさい」
ガサガサ。
「「!?」」
「何か音がしたね……」
「そうだな……」
「多分動物じゃない?」
「緊張感をだせ。ヘデラ」
ガサガサ。
「ねえ。これ、囲まれてない?」
確かに周りから音がする。
ガサ!
「私、様子見てくるわ」
「それフラグ立ってない?」
「あの私よ? あなたを襲おうとした」
「自分でネタにするのな」
「まあ、任せなさい」
アンスが物音のする方に行ってしまった。
「ハルト。怖いんだけど……。守ってくれる?」
「ヘデラは俺より強いんだから、逆に守ってくれよ」
「仕方ないわね。私の後ろについてなさい」
あの性格さえ知らなければ頼もしい。
プスッ!
あれ? なんかクビに当たったな。
なんか急に眠たくなってきた……。
「ヘデラ……。待って……」
倒れてしまう……。おいて行かないで……。
「あれ? ハルト~。どこ行ったの~?」