51 対魔関係
「せ……洗脳……」
「ははは! 怖がらなくていいぞ。ちょっと気持ちよくなるだけだ……」
やっぱりしてくれるのか!?
「必要ならするしかない……と思う」
赤面している……。可愛い……。
「お、おい! 可愛いとか言うな!」
「言ってないって。勝手に心の声を読むな!」
「君といると調子が狂うよ……」
俺の手の平で魔王を転がしているぞ。やっぱり俺は天才じゃ……。
でも洗脳は怖い。洗脳ってことはあれだ、サザンが傀儡になったやつなのか?
「違うよ。勘違いもはなはだしい、私だってそういう洗脳が出来るならもうやっているさ」
「じゃあどうやって……。まさか直接脳をいじるのか!?」
「だからそういうのは出来ないって!」
「あれもこれも無理って……む」
「言わせないぞ」
無能だな。無能の魔王……無王……。
「……はぁ」
「言ってないからな」
「もう手っ取り早く始めよう。今日からじっくり、私色に染めてあげる」
「堕ちちゃえ♡ 堕ちて私の眷属になれ♡」
もう一時間ぐらいたったのかな……さっきからずっと囁かれている……。こんな方法もあったのか……。
いかんせん体も動かせないから暇なんだよな。天井を眺めるか囁かれるかしかない。
早く終わんねーかな。
「おい! 初めてなりには必死にやっているんだ! ちょっとは気を使えよ!」
下手くそ……もっと上手い奴がやったらいいのに。
「なあ、私だって君を傷つけたくないんだ。だから素直に堕ちてくれよ」
「それこそサキュバスがいるじゃん。そいつらに頼んだら?」
「あいつらはあいつらで独立しているんだ。私の管轄外だから頼む筋合いもないし」
「へー。そうだね」
「聞いといてその返事はないだろ……」
よく見たらこの魔王、可愛くないな。美人ではあるが……俺の趣味じゃない。
「はぁ、手が焼けるな……仕方ない。あれでいこう」
「あれって……」
まさか……やっぱりセッ〇スか!?
「……」
違うか……それならオーロラセッ。
「性的なものから離れろ! こっちまで恥ずかしくなるじゃないか!」
「じゃあどうやってさ。俺は何も思い着かないぞ」
「単純だよ。一緒にいればいい」
「それってまさか……」
「母親に教えてもらったよ。ストックホルム症候群だっけか? ほら、誘拐犯に恋するあれ」
「やっぱり……でも俺を堕とすなんて相当苦労するぞ」
「威勢がいいのは最初だけさ。一ヵ月後はどうなっているんだろうな~」
ぐうう~。
「「……」」
「腹減っているのか……そういえば三日間寝たきりだったな……。何か作るよ」
「ありがと」
「はい。ご飯できたよ」
これは……炒飯……?
「よく母親が作ってくれてな。同じ味かは期待しないでくれ……」
「元の味が知らないんだから期待も何もできないよ……」
「さあ食べて……」
「拘束されてるから食べられないよ」
「ああ。すまん。今外すよ……はい」
「どうも。では、いただきます」
もぐもぐ……。
「どうだ……美味しいだろ……」
「……金は取れんな」
「ひどい……」
「でもおいしいよ。家庭的な味だ。刺さる人には刺さるんじゃないか?」
「よかった。まずくなくて……」
「母親の味って……そんなに親が恋しいの?」
「そうだな……これから一緒に暮らすんだから私のことも知ってもらいたいし、色々話すとするよ……」
こいつ今一緒に暮らすって言ったか?
まじか……ついにまともな人と……いや、人さらいがまともなわけないか。
「……もうツッコまないよ。一応聞くけど私の年齢は知っているか?」
「十八……だっけ?」
「おお。知っているな! じゃあ私の生まれは?」
「魔王城」
「よしよし……あと他には……」
どうせならスリーサイズとか知りたいな。
よく見るとスタイルいいし……身長も百八十くらいあるのでは……。
モデル体型ってこのことを言うのか。
「……流石にそこまでは……まあ見せないと堕ちないっていうなら……いやでも……裸は……乳首とかは見ないでね……」
「なに勝手に補完しているんだよ。あと脱がなくていいから! やめろ! ムクっときただろ!」
「そ、そうか……」
なんですぐ脱ぐんだよ……。それに俺の紳士的で素晴らしい質問にも戸惑いながらも答えてくれるし……まあウブなんだろうな。どこかからかいたくなってきた。よし、ここは……。
「なあ、一応私は魔王なんだ。君の討伐対象なんだよ……。まあ分からせが好きならやってもかまわないが……」
「ほうほう。でもそんなに弱みを見せてしまったら威厳なんてないぞ」
「そうか……仕方ない……。じゃあ分からせるか……」
ついに……卒業か……。ここまで長かった。俺の息子の旅立ちだ。しかと見届けよう……。
「じゃあまずは拘束を全部外すな」
お! やっぱり愛し合うのに拘束具なんてものがあったらダメだよな。そんなマニアックなプレイは好みじゃないってことを魔王は分かっているな。気が合いそうだ。
「おい。さっきからなに考えてんだ?」
「なにって……卒業式だろ……二人だけの……」
「はぁ……全く……ほれ、この君の剣だ」
「え……なんで?」
「ルールは簡単! この部屋から出たら君の勝ち。そして唯一のドアはここだ。もちろん私は君を妨害する。さあやって見なさい」
「ほーん。なるほど……。俺の……特殊能力を見せる時が来たってことだな」
「っふ。頑張って」
分からせって言ってもこいつは何もしてこないな。ただただドアの前に突っ立っているだけ……。
ならここは。
「じゃ、失礼しまーす……」
「だめだよ」
「いて! 痛い痛い!」
「力は強いほうだよ」
ちきしょう。素通りは無理か……。というか痛い! 片手で俺の腕を潰せるんじゃないか!?
「クソ……離さないっていうなら……。これでもくらえ!」
「……そろそろ疲れてきたころだろ。もうやめたら……」
「いや……まだ……できる……はず……」
「ざっと三時間だ。ずっと剣を振りっぱなし、諦めたらどうだ。これで分かっただろ」
「お……おら……!」
「やめないか……もう……。やれやれ……。仕方ない……」
なんだ……いきなり抵抗……しなくなった……何する気だ……?
「三……二……一……」
「あああ!? 体が……胸が……ああ……心臓が……!?」
「ちょっとした魔法を掛けた。毒の魔法だが……私クラスになると、君はあと十数秒後に死ぬよ」
「やめ……早く……お願い……」
「人に頼む態度は?」
「……すいませ……ん……お願いだから……」
「ふーん……あと五秒……」
「ごめんなさい……!? 俺が……僕が……ああ」
「……はい。解けたよ」
「くはああああ! ごほ! うええ!」
もうだめだ。こいつに逆らったらだめだ。
「わか……った……分からされたから……」
「こいつじゃなくて?」
「ルミア……」
「そうそれでいい」
「ああ……。うえええ!」
「ちょっとやりすぎたか? まあいいや」
まだ苦しい……。痛い……早く終わって……。
「ベッドに戻って」
「分かり……ました……」
「はい拘束具つけるね」
また手足の自由が……。
「ふうー……はあー……治ってきましたよ……」
「落ち着いてきたか? すまないね、加減が難しくて……あと敬語じゃなくていいぞ。もう聞き飽きてるし」
「じゃあ聞くけど……今のでこの部屋から出ないって分からされたからさ、この拘束具外してくれないか?」
「あー、それは無理だ。あくまで形式的なものだし。それにこの拘束具をつけると支配感が増していいと思うんだけど」
「もう一つ聞いていい? ここは魔王城なのか? 外の景色が分からないからずっと疑問だったんだ」
「正解。ここは魔王城、そして私の部屋だ。だから寝る時も一緒だぞ」
「そっか……」
「……喜べよ。豊満ムチムチナイスバディの私が居るんだからさ」
「いや……いつもヘデラと添い寝してたし……」
でも豊満ムチムチナイスバディは見逃せない。
分からされたとはいえ、服従感は一切ないし……。
てことは鼻の下を伸ばしてもいいってことだよな!
「素直だな。そうやって私にも堕ちてくれたらいいのに」
「じゃあ魔王にも認められた素直さで頼むぞ……」
「……」
ぺチィ!
「まだ何も言ってないって!」




