5 初めて
「え!」
突然アンスが訳の分からないことを言ってきた。
「ハンターになったんでしょ! じゃあ、できるわよ」
「その前に、アンス、ハンターだったの?」
「そうよ。何かおかしなことでも?」
「でも、ギルドの人が最近はハンターが減ったって……」
「あー、それね」
アンスは苦笑いでこちらを見る。
「実はね、ハンターの数って減ってないの」
訳が分からない。
こいつも頭がおかしいのか?
「ギルドに登録しているハンターが減ったってことなの」
「なぜ?」
「ギルドにいるとね。難関な依頼が下りてくるの。だからハンター志望の人はみんな独立していってる。民間だけどおっきなハンター事務所とかいっぱいあるの」
これは知らなかった。
「ギルドだと、依頼を通すのに手続きとか大変で遅れとか生じるけど、民間だとすぐに出来る。だから何かあったらみんな民間に依頼を出すの」
この世界も大変なんだな。地球だけかと思った。
「じゃあなぜアンスはハンターを?」
「それはね、私の両親は元ハンターですっごく偉大なハンターだったの。私はそれに憧れてハンターをやってるってわけ」
どおりで一人暮らしな訳だ。
「ハルト~。しゅきしゅき~。だ~いしゅき♡」
こいつさっきから一言も喋らないと思ってたら寝てたのかよ。
「もうこんな時間か~。今日は寝ましょう。買ってきたご飯は明日食べることにしよう。じゃ、おやすみ~」
出て行ってしまった。
俺はまんまと騙されてハンターになってしまったのか。
なんなら民間に行って楽な依頼でもこなしてた方がいいよな……。
待てよ。ギルドにいる時は難しい依頼が来るってことだよな。
てことは難しい依頼をこなすと周りから認められる。そうすると当然モテるわけだ。となると、ヘデラはモテてる俺を諦めてどっかに行く。
勝ったな。
「よし! どんな事でも俺が解決してやる!」
「ハルト~。三回戦目は~」
「お前はもう黙っとけ!」
「どんな依頼が来てるかな~」
俺たちは今ギルドに来ている。
俺の装備は一番安かった剣。ヘデラは何もつけていない。アンスもだ
アンスが物色している中、俺とヘデラは話をしていた。
「なあ、魔法ってどうやって出すんだ?」
「簡単よ、こうやってね」
手をかざしたと思ったら急に光が出てきた。
「すご! 何これ。どうやったらできるの!?」
「魔法ってのは全部独学よ、教えてもらっても結局使用するのは自分なんだから」
「俺もできるの!?」
「そんなに興奮しないでよ。その元気は夜にとっておいて」
殴っていいよな。こいつ。
「ちょっと、お二人さん。初めてにしてはいい依頼があったわよ」
アンスが張り出された紙に指を刺し、俺らにアピールをしてきた。
「ほら、これ。群れから一匹だけ外れたゴブリンを討伐だって」
「ゴブリンか……余裕だな。しかも一匹だけ」
「私の魔法で倒してあげる」
「ずいぶん余裕そうね。じゃあ、ゴブリンについても教えなくていっか」
アンスの発言に違和感を覚えたが、俺たちは早速討伐に行くことにした。
「ここに目撃情報があったって聞いたけど……」
「こんな草原にいるわけないだろ」
「ねえ、ハルト。あれじゃない?」
ヘデラの指先の方向を見る。
シルエット姿だが、目視はできる距離だ。
「あれね。間違いないわ。早速行きましょう」
アンスの後をついていく。
近づいているうちに段々と姿がはっきりしてきた。
「なあ、あのゴブリンでかくないか? パッとみ二メートルはありそうなんだけど……」
「やっぱり教えとくべきだったわ」
「何が?」
「ゴブリンが群れる理由はね、一匹の戦闘力が低いからなの。その群れから外れるくらいだから相当腕に自信があるゴブリンってわけ。そのゴブリンは後々リーダーとなってまたゴブリンの群れを作るから、今のうちに倒しておきましょうってこと」
まじかよ。てっきり迷子になったか弱いゴブリンを討伐する楽な仕事かと思ってた。
「まあ、最悪私に頼ればいいから二人で行ってきて。実力試しにもなるし」
これが初めてに向いてるって相当なこと俺はしでかしてしまった。
「ねえ、ハルト。あのゴブリンこっちに向かってない?」
「気づかれたようだな。よし! 俺には無理だ。ヘデラ、何とかしてくれ!」
「私だって無理よ! 足が震えて何もできないわ!」
「分かった。倒したら俺にキスしていいぞ」
「本当に……? ほっぺじゃなくてちゃんと口でよね? あとキスって初めてよね?」
「そうとも、キスも初めてだ」
「ハルトの初体験を奪うチャンスだわ! さあ! 行くわよ!」
そう聞こえた瞬間、ヘデラを中心とした光の渦が出来上がっていく。
空模様が怪しくなり、ゴブリンの顔が険しくなる。
「食らいなさい! 神の怒りを!」
雲の中から電流の音がし、雲とゴブリンの頭の間に一本の筋が浮かんだ。
その時、目の前が光で埋め尽くされたと同時に轟音が聞こえた。
「いっちょ上がり!」
ヘデラすごすぎだろ。こんな能力があったのか。
「何腰ぬかしてんのよ、ハルト。もしかして誘ってる?」
「ちがわい!」
すると後ろからアンスがやって来た。
「お見事ね。魔法に関しては即戦力だわ。ただ知識がないわね」
「なによ! 知識がないって!」
「ゴブリンの弱点よ。ほら、見なさい」
煙の中から薄っすらと顔を出したゴブリンが。
傷はつけたが致命傷ではなかったようだ。
「近距離で戦ってきた魔物は遠距離の魔法に対抗するために進化の過程で魔法耐性が強くなったの。だから今回重要なのは物理の方。私を見てて」
アンスが身を屈め手を右足に掲げる。
その瞬間、巨体のゴブリンが加速し、アンスに向かってきた。
「アンス! 危ない!」
するとアンスの右足が赤く輝き、オーラを纏う。
立ち上がったアンスは口を開けた。
「そのデカい図体に穴を空けてあげる!」
足を大きく上げ、向かってくるゴブリンに合わせて足を振りぬく。
その足さばきはしなる鞭のような、打撃音は鉄のハンマーのような快音がこの草原に広がった。
「これで良し」
倒れたゴブリンを見るや否や、俺たちに話しかける。
「ヘデラはハンターに向いてるわ」
「やった!」
「ハルトは……まだ何とも言えないわ」
「なんだよ、何とも言えないって」
「実力よ。正直、ギルドに登録したハンターはこのくらいの依頼がどんどん来る。だからこんなんで腰を抜かしてたらこの先厳しいわ」
どうしよう。かなりハイレベルな異世界だ。
「まあ、パーティーを組んだのは私の方。しっかりと鍛えさせてあげる」
「なんか、俺には向いてなかったのかな……。自信がどんどん失われてるんだが」
「大丈夫よ。最初はこんなもん」
「そうよ。いざとなったら私がお婿さんにしてあげる」
ヘデラには励まされたくない。
「まずは魔法の使い方ね。記憶がなくなってるんだから分からないのもしょうがないから、帰ったら教えてあげる」
そう言いアンスは帰ろうとする。
「あれ? 討伐したってどうやって分かるの?」
「あー。あなたたちには分からないよね。どんな生物にも体内の中にエネルギーがあるの。ギルドがこのゴブリンのエネルギーを感知して特定してる。だから死んだら勝手にギルドに報告されるの」
そんな便利なんだ。魔法ってすげー!
「ちなみに、民間のハンター事務所にはこんな道具ないところのほうが多いから、成果をいちいち照明しないといけないの。だからこれはギルドハンターの特権ね」
「そうだったんだ。ちなみに死体はどうすんの?」
「微生物が分解せてくれるわ。魔物は特に早くなくなるの。この程度だったら、四日くらいね」
この世界の微生物もすげーな。
「さ、帰るわよ」
巨体のゴブリンを後ろにし俺たちは帰って行った。