42 実在する社
「も……もしかして……あれじゃないのですの……!?」
ウリンが俺たちにむけてきっぱりと指を向けた。
そこには薄暗いが、でかでかと存在感を出しているものがある。
そう、噂の海底神殿だ。
「ちょっと……休憩しよ……」
少々疲れてしまった。
いかんせん服のことを考慮していなかったのだ。重くてしょうがない。あのロリコンのことは悪く言っておこう。
「へなちょこハルトはほっといて、さっさと入り口を探しますわよ!」
「むかついてきたよ〜ん」
「キモいですわ」
「……」
俺の言葉を受け流したウリンが目の前の海底神殿に向かって深く潜っていく。
「ハルトはしょうがないおこちゃまだね。ほ~ら、私の胸においで? いっちょに行きましょうね~」
「ほらほら、茶番はいいからウリンについていくよ」
「私も先に行く」
唯一俺が心を許している二人が、海の深さに飲み込まれていく。
「ねえハルト。服が重いなら私が持つわよ」
「おお! ありが……」
「ありが……? もしかして遠慮してる? 大丈夫よ。ハルトの裸なんて覗きで確認しているし」
「……」
こいつだけは生かしておけない。この件が終わったら生き埋めにするか……。
「……あ! 私の服が濡れて重くなっちゃった! どうしよう。脱いでも見られて大丈夫な人なんて一人しかいないのに……その唯一の人は私と一緒に転生した人なのに……って見捨てないでよハルト! 分かったから! 変な目なんて向けないから!」
「皆さま! 入り口を見つけましたわ!」
先頭でぶいぶい言わせているウリンが、やっとこちらを振り返り俺たちを見つける。
「遅いですわ! 早く早く!」
「つ……疲れた……」
「ウリン。ちょっとはペースを考えてよ。ハルトがこのスピードについていけるわけないでしょ」
皮肉がきついぜアンス。
しかし、実際は先を越したはずのヘデラに横をつけられていた。
……仕方ないだろ。水泳なんてほとんどしていないんだ。
「まあいいですわ。しかしこの入り口をどうやって開けるかですわ。確か本では……」
「呪文じゃなかったっけ?」
「そう! それですわ! えっと確か……。なんとかかんとか……でしたわ!」
そこは頼むから覚えておいてくれよ。本で読みつくしたんじゃないのか。
「呪文が分からない……どうしましょう。一回戻って確認する?」
やめてくれ……またこの海に潜るなんて……。
「……! こういうときこそサザンよ! サザン! 何か知ってる?」
「知らない」
「「……」」
終わった。俺たちの希望が失われたのだ。この深海のように深く暗くなってしまった。
「もう無理やり開けますわよ!」
ウリンが海底神殿の入り口をこじ開けようとする。
だが無残にもびくともしない。
「もう! どうしたらいいのです!? そこの男! 何とかしなさい!」
もう名前で呼ばれなくなった。ちょっと悲しい……。
するとサザンが入り口にゆっくりと近づく。
「何するんだ?」
「みんな静かいしといて」
秀才の一言で皆が黙る。
入り口の目の前で立ち止まったサザンが大きく口を開けた。
「助けて! 人間に襲われてる!」
「「!?」」
「……なるほどですわ!」
ウリンが呟いた瞬間、海底神殿の入り口の中から足音が聞こえた。
「今行くぞ!」
瞬間、開かないはずの扉が勢いよく開いた。
「どうした!?」
「「……」」
「侵入しゃ……っ!」
「よしみんな。開いたよ。サザンもよくやったわ」
アンスが容赦なく魚人を叩き潰す。
「おお、怖い怖い」
「わたくしのおかげですわ!」
はえー。頭いいな。さすがは我らの頭脳。
「でも海底神殿の中は空気があるのな。都合がいい」
海水が扉を境目に膜のように張っており、海底神殿の中からいきなり空気が吸えるようになっている。
魔法として片づけるには惜しいくらいの技術だと思うが……。
「早速行きますわよ! ほらほら! お宝! お宝!」
ウリンも子供か。アンスとお似合いの友達になれるな。
それにしても海底神殿か。俺の少年魂が燃えてきた。




