41 海の中のユートピア
「ここが北の町ね」
古臭いと言えば嘘になるが、新品というのも嘘になる。中途半端な町づくりだ。
ただ魔物の襲撃があったということでところどころ半壊している。
「で、どの人に話せば海底神殿に行けるのです?」
「ウリン。海底神殿はあくまでも噂だからね。ある訳じゃ無いからね」
「うっさいですわ! わたくしがあるって言えば何でもあるのですわ!」
ダメだこりゃ。ウリンには期待しないでおこう。
それよりも誰に話かければいいだ……。
「おお、君たちですか?」
三時の方向から声が聞こえた。
見ると小太りのおじさんが歩いてくる。見た目的にひょうたんで酒を飲んでそう。
「いやあ、町の復興を手伝ってくれるって話は本当だったなんて……」
ん? なんか違うぞ。
確か海に案内がってことじゃ……。
「いったいなんの話ですの? わたくしたちは海底神殿に行きたいのですわ」
「ちょっとウリンさん! 中二発言はほどほどにね」
「海底神殿……? ああ! 海の調査に来てくれた人ですか……! それにこんな小さい幼女まで……」
サザンを見る目がいやらしい。こいつロリコンか。
「そう! それですわ!」
「てっきり町の手伝いかと……」
「わたくしたちがそんな下級仕事なんてする訳ないですわ!」
「おおおっとお! アンス。そいつを黙らせろ!」
「了解」
「ああ! どこに連れて行くんですの! ちょっと!」
「いやあ、我々はギルドのハンターで、今回の依頼は海の調査と……」
「ギルドの人達でしたか、しかしなぜウリン姫が?」
「勝手に来ただけで……」
「この人達がわたくしに力を貸してくださいとお願いされたんですの。まあしょうがないですわ。なんせわたくしですから!」
「どっから出てきた!」
「ほうほう、そういうことでしたか。では案内しますね」
俺たちが入って来た出入口とは反対の方向に歩いて行く。
町は半壊しているとは言えど、道は整備されている。
俺たちもついていくことにしよう。
「ヘデラ。何してんだ?」
ヘデラが俺たちと遅れをとっていた。
「ねえみてこれ。綺麗じゃない?」
走って来たヘデラの手の平に少し大きな物体がある。
見たことない形状をしている物は透明で粘膜が張ってある。
「これは……」
サザンが受け取りまじまじと見つめる。
「そんなのどうでもいいですわ! 早くあのジジイについていきますわよ!」
「ウリン! 口が悪いぞ!」
「おや? どうしました?」
ロリコ……おじさんが俺たちの様子を確認してくる。
「おやおやこんな所に……」
「結局なんなんだこれ?」
「これは鱗に見える。大きいけど」
「そうですね。これは大きい鱗です。賢いですね、お嬢ちゃんは」
また気持ち悪い発言。口元はにちゃにちゃしているし……。
「これは誰の?」
「お嬢ちゃんの質問ならぜひとも。これは今回、町を襲撃した魔物の物です。魚人の見た目をしていましたね~」
「魚人!?」
「なんですって!?」
アンスの叫び声がウリンと共鳴する。
今ので鼓膜が破れそうになった。
「ねえおじさん! 本当に魚人だったの!? 魚人だったら海底に世界があるって証拠になるわ! ねえ本当!?」
「え、ええ」
「早く海に行きますわよ! その鱗も貸しなさい!」
サザンが持っていた物を容赦なく奪う。
お前どうでもいいって言ってなかったか?
「よく見るときもいですわ」
ほら、すぐ捨てた。
「サザンも口開けてないで急ぐわよ!」
「落ち着いてください! この先の港まですぐですから!」
夢をもっている二人とロリコンが先を行く。
「ハルト。あんなガキなんてほっといて私たちは優雅に行きましょう」
「お前も訳の分からないもの拾ってただろ」
「あれはハルトのプレゼントよ」
「言い訳いっていいわけ?」
「「……」」
「ヘデラ。いこう」
「行こう」
おいおい、無視はないぜこのやろう。
……俺も行くか。
「はぁ……はぁ……つき……ました……ここが……」
「おじさん。休んでもいいですよ」
「ありが……とう……ござい……ます……」
「もう。早くしますわよ! こうやるんですわ!」
「わあちょっと待ってウリン!」
ウリンがロリコンめがけて拳を振り上げる。
瞬間、ウリンの手から光があふれた。
「……あれ? 疲れが……」
「さぁお爺さん。どの船をを使えばいいのですの?」
お爺さん……? 言い方が変わった……。あれか、機嫌がよくなったのか。そういえばこいつ気分屋だったな。
「あちらです」
ロリコンが指を差す。その指先は小さな小舟があった。
「え……。あれですの?」
「そうです。今回の襲撃でほとんどの船が壊されてしまったので……」
「使えないジジイですわね」
「立派な船だ! そう立派だ! なあアンス!」
「え!? ええそうね。あるだけマシね」
ダメだこいつら。
このロリコンに嫌われたら船に乗れないかもしれないんだぞ……。
「立派だね。ハルト君」
「ぐへへ。そうでしょうそうでしょう。では乗りますよ」
そっかこいつロリコンだ。
「ねえちょっと待ってよ。今回は海の調査でしょ? どうやってするの」
「ああ、そうでした。ちょっと待ってくださいね。魔法を掛けます」
そういい小さな杖を取り出す。
少し振り回した杖を見たが何も起きない。
「なんか起こった?」
「分からないんですの? これで海でも空気が取り入れられるようになったんですわ!」
「はえー。すごいな」
「正確には水分のなかにある酸素が取り入れられるってことだよ」
「そうです。お嬢ちゃんはかしこいね~。しかしそれだけじゃない。水中でも喋れるようにしたのです。お嬢ちゃん、これは分からなかったカナ?」
「はいはいストップ。じゃあ船に乗って問題の場所まで行きましょう。さあみんな乗って!」
目が死んでいるサザンをアンスが引っ張る。
しかし、ロリコンが静止をかけた。
「ちょっと待ってください! 今はまだ魔力があふれていません。しばし待った方が……」
「じゃあ私の出番ね!」
待ってましたと言わんばかりにヘデラが手を上げる。
「私が魔力探知をするから、そこまで案内するわ!」
「へ……。こいつ……すごいですわ……」
「おお! そうでしたか! では早速、船に乗りましょう!」
皆で船に乗る。
総勢六人だが沈みはしなかった。
「この辺よ」
「そうですか。では皆さん気を付けて……」
港から案外離れていないところで止まった。
けど水平線でそう見えるだけだろう。実際は五から六キロ離れていると思う。
「お嬢ちゃんも気をつけてね。おじさんとの約束だよ」
「……ハルト君行こうか」
「おっ、そうだな」
「じゃあ皆さんで飛び込むわよ! そーれ!」
ウリンが先に飛び込みをする。
それはそれは綺麗な飛び込みだ。水しぶきもほとんど出ていなかった。
「……足から行きましょうか」
次にアンスが着水する。
「みんなバカね。これは背中から行くのが正しいのよ」
ヘデラも水の中へ。そのまま消えてくれ。
「じゃあ私は港の方で待っておきますので、いってらっしゃい。お嬢ちゃん♡」
「……」
「ちょ! サザン! 引っ張らないで! 心の準備が! ああああああ!」




