40 中二病の憧れ
「最初にいた町と全然違うな……大きさってのもあるし、何やら豪華という言葉しか見つからん」
「国の中心だしね」
「なあ、思ったんだが……兵士がいるなら俺たちハンターいらないんじゃないか?」
「国とギルドは全然違うよ。ハンターは人対魔物、けど兵士は人対人。役割が違うの」
「はえー。じゃあ民間のハンターは自警団と同じ感じか……」
「まあその認識でいいわね」
やっとこの世界の仕組みが分かってきた。そろそろ俺が英雄になる日も近いな……。
「入るよ。お父さんは多分裏方だけど」
鉄壁のような重い扉を開ける。
中は和気あいあいとした雰囲気で皆が楽しそうに、おおらかに過ごしている。
平和ってものはここにあったんだ。
「なんでこんな平和なんだよ。依頼はどうなってんだ依頼は!」
こいつらが妬ましいし羨ましい。
「ほら。指くわえてないでこっちにきて」
アンス達が裏方専用のドアのノックする。
「はーい」
ドアの裏から呼ばれた人が返事をする。足音がゆっくりと近づきドアノブを回す。
「えーと、どちら様でしょか…………あ、呼んできますね」
アンス達の顔を見るや否や疑惑の念が、すぐさま裏返った。
「顔見知りなの?」
「そうね。両親が現役でハンターしていた時に、よくここのギルドに足を運んだし」
「そっか。昔からの付き合いか」
俺もそんな馴染みが欲しいな。人付き合いなんてものに縁がなかった俺には程遠いものだ。
「こちらにどうぞ。中にギルド長がおられます」
「どうも~」
顔パスのアンスが引き連れている。こいつに頼るのはあんまり望ましくない……。せめて俺に気があればいいのにな。
「ハルト。私なら……」
「だからお前はエスパーか!」
「着いたよ」
簡易的なものづくりの部屋を紹介された。
アンスが軽くノックをすると中から小さい声が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼しまーす」
こちら向きの椅子に座っているごつい体型の大男が机の上で並んだ紙にハンコを押していた。
「……アンスか、久しぶりだな」
「お父さんもだいぶ老けたね」
「まだまだ力は健在だ……それよりもだな。横の彼氏だ。許可した覚えはないぞ」
「はぁ、お父さんまで。ヘデラ頼むよ」
「この男は私、ヘデラのものです。ですので安心して娘さんを愛してください」
「……ハルトくん。いいの?」
「もう別にいいよ」
名前が出てないってことは重要人物ではないから誤解はとかなくていいだろう。
それよりもだ。ここのハンターは全くと言っていいほど危機感がない。
「あ、そうだった。君たちに依頼が出ていたんだよ」
そう言ったアンスのお父さんは机の引き出しから紙を取り出した。
「この件なんだが……もう解決してしまってな……」
だからか。依頼がないから平和なんだ。
しかし依頼がないのなら思いっきり遊べる。
「え? ウリンが頼んできたんだけど……」
「アンス! 余計なこと言うな! ここは黙って……」
「ああ、ウリン姫がか……あいつは情報が遅くてな、いろいろ手違いが起こりやすいんだ。前王の方がやりやすかったんだが……仕方ないだろ」
「ということで我々は用済みなので帰らせていただきます!」
「まてまて話は終わっていない。せっかく実力のあるパーティーが来てくれたんだ。新たな依頼を出そう」
「……はぁ」
「今回の依頼は、ため息は出ないものだ。これを見てくれ」
‘‘海底調査‘‘
「ないこれ?」
「北の町からさらに北へと進むと海が広がっているんだが、そこの海がどうも怪しくてな。魔力があふれているということで調査を依頼されたんだ……。やってくれるよな?」
「……その日は予定があるので今回は見送らせていただきま」
「待って! その海って確か海底神殿があるって噂の!?」
「そうだアンス」
「みんな行きましょう! ねえサザン」
「うん。楽しみ」
ああ、終わった……。ただでさえ疲れが取れていないのにまた仕事かよ。社畜にでもなったようだ。
「よし、頼んだぞ……。と、その前に北の町へと経由したらいい。ギルドのハンターと言えば案内してくれるだろう」
「さあ行きましょう! ほら準備して!」
「ちょっと待った!」
!? ……またこれか。
「誰よ」
「わたくしですわ」
その口調は……。
「わたくし、ウリンも参加しますわ」
「……お前ができるわけなかろう。帰った帰った」
「そうよハルトの言う通りよ。お嬢は帰った帰った……早く帰ってよ!」
「ふーん。わたくしを否定しるんですね。そこのギルド長、わたくしの実力を言いなさい」
「……まあ使えはする」
「もっとマシな言い方をしなさい! クビにいたしますわよ!」
「お父さんが戦力になるって言うなら間違いはないと思う……。多分」
「で、なんでここにきたの?」
「ギルド長にハルト達の依頼が解決したって言いに来たのですわ」
「「……おっそ」」
「そんなことはどうでもいいですわ! 今海底神殿って言いましたわよね?」
「うん。言ったけど……」
「わたくし海底神殿に憧れがありますの。昔本で読みましたわ。こんなかっこいいものがあるなんてって……。今でもあのわくわくは忘れられまんの……。というわけで私も連れてってくださいますよね?」
「……どうするアンス?」
「ここで『いいえ』なんて答えたらこの国を歩けなくなるわ」
「同意見だ……仕方ない。いいぞウリン。ただし邪魔だけはするなよ。これは俺たちに向けた依頼だ。プロっていうものがしなきゃいけない仕事だぞ」
「ハルト君、嫌って言ってなかったっけ?」
「黙れサザン」
「いいですわ。わたくしの実力に依存しても助けませんけど」
「おい君たち。煽り合いはするな……。とにかく成功すればなんでもいい、報酬もしっかり出すから頼んだぞ」
「よーし! みんなで行きますわよ! 海底神殿に!」




