4 悲しきかな
「なにあれ……」
「二人の女子が人間もどきを連れて行ってる……」
そう。俺の作戦は魔物を捕まえた体にすること。
手首を縛り、この赤髪の女性についていく。
相当な誤解を生むが裸の俺には仕方ないことだ。
「それにしてもあの人間もどき、弱そう」
「たかが女に捕まるなんて、魔物の恥だろ」
異世界に来てもバカにされるのかよ。
「ハルトの悪口なんて言ったやつ、全員潰そうかしら」
「やめてくれ、魔王討伐どころじゃなくなる」
「じゃあ、あいつらにもハルトの魅力を伝えないとね」
何をする気だろうか。
「あんたたち! ハルトはこう見えてもね、この私が愛したとてつもない人なの!」
「やめろ! 俺らの評判が悪くなる!」
とっさに口を閉じたがこいつは暴れまくる。
「人間もどきもやばいが、あの高そうな服を着ている美少女も相当だな」
「魔物に恋するなんて……」
言わんこっちゃない。
「ねぇ、あなたたち、私の身にもなってよ。苦肉の策とは言えど私にも悪評が広まるんだから」
ヘデラは黙る。
さすがに人様に迷惑がかかることはしたくないんだろう。
「さ。ついたよ」
少し古めかしい民家だ。
無一文の俺にとっては立派だが。
「上がって。靴は……。あなたたち、靴履いてないのね」
俺の靴は取り残されたが、なんでヘデラは履いてないんだよ。
「まあいいわ。そこの部屋に入ってて」
案内される。
「二人きりだね」
「なあ。疑問なんだが、なんで日本語が通じているんだ? ここは異世界だろ」
「そりゃ、ハルト好みの異世界だもの。もしかして英語の方がよかった?」
「いや、日本語で」
なんとも都合のいい異世界だ。
「あと、ヘデラはこの異世界のことは知ってるのか? この異世界の常識は知らないって言っていたが……」
「魔法が使えることと魔王がいること、あとはこの星が地球の環境に似てること以外は知らない」
こいつは居てもいなくてもどっちでもいい存在だ。つまり価値がない。
「なんでそんなに知らないんだよ」
「だって私の仕事は転職するまで書類の整理だったもの。ハルトが生まれた時、初めて地球を真面目に見たわ」
そうだったんだ。
「さあ、お二人さん。水もってきたわよ。あとあなたには服ね。女ものしかないけど我慢してね」
女ものの服だって! ご褒美じゃないか!
「ちょっときついな」
「仕方ないよ。それよりあなたたちの名前は?」
「俺はハルト。こいつはヘデラ」
「私はアンス。よろしくね」
アンスというのか。可愛らしい名前だ。それに赤い髪がその名前を引き立たせている。
「今日は一泊したら帰ってね。変な噂が出回ったらたまったもんじゃない」
「ねえ、ハルト。帰るってどこに?」
「俺に聞くな。まずここがどの町すら分からないんだから」
するとアンスは驚き顔で俺らを見る。
「あなたたち、本当に大丈夫? 今までどうやって生きてきたのよ」
何か言い訳を考えないと。
「あー。ハルトはね、魔物に襲われたときに記憶を失ったの。だからこの世界のことは分からなくなっちゃったの」
「なるほどねー。ヘデラは?」
こっちを見るヘデラ。
「ヘデラはあの夜から記憶がなくなったんだよ」
「?」
言い訳が下手すぎる俺。どうしようか。
「あー! なるほどね。一発ヤった時に記憶をなくしたんだよね。もう、お盛んなんだから」
それでいいや。もう勘違いを直すことはできないだろう。
「じゃあ、記憶を取り戻すまではこの家に泊まってもいいわ」
「いいの? やったね。ハルト」
「その代わり、絶対にヤらないでね。これを破ったら、今すぐにでも出てってもらうから」
「分かったから。ヤるとか言わないで」
そう言うとアンスは立ち上がった。
「私はご飯を買ってくるから夜まで暇潰しでもしててね」
ドアを開けて出て行った。
「さ! しましょ!」
「お前は話を聞いてたのか!」
さっさと魔王を倒してこの女神とおさらばしたい。
「魔王を倒したいからな。とりあえず情報収集だ」
「私も行くー」
正直ついてきて欲しくない。
が、ついていくなと言っても意味ないだろう。
「まずはこの町の地図からだ」
家を出て、この町の案内図を探す。
それにしても、道行く人がこちらを見てくる。
「みんな私たちを見てるね。そんなラブラブなオーラが出てるのかしら」
「そうだな。魔物に恋するお前が珍しいのだろう」
案内図を見つけた。
「なるほど、とりあえずここの図書館に行って情報収集だ」
図書館に入る。
「ようこそ……魔物はちょっと……」
「魔物じゃないです」
こんなところまで噂が広まっているのか。
「そうでしたか……まあ、ゆっくりしていってください」
通してもらえた。
「噂の不審者が来たわ。見張りをつけてちょうだい」
聴こえているぞ。
まあ、気にせず俺らは仕事欄の本を読むか。
「魔物を倒す職業はっ……と」
あった。
「ハンターと登録すると魔物を倒したら給料が発生するのか」
ヘデラも覗き込んでいた。
ハンターについての本を取る。
なるほど、ハンターになるにはギルドから試験を受けて合格したらハンターになれるのか。
「よし! さっそくギルドに行くぞ!」
外に出てギルドに着く。
「ようこそ……魔物はちょっと……」
またかよ。
「違います。ハンターになりに来たんです」
「あぁ、そうでしたか。ではこの紙に記入して待ってください」
指示された椅子に座り、紙に個人情報を書く。
「ねぇ、ハルト。私もハンターになるの?」
「俺と一緒にいたかったらな。それはそうとお前は女神なんだからステータスとか高いだろ」
「それは分からないわよ。だって自分の能力なんて見たことないのよ」
とことん使えない。
「お待たせしました。では簡単なテストを受けてください。その結果次第でハンターになれるか決まります。ではこちらへ」
そう言われ奥の扉に案内される。
そこには机に紙とペンが置いてあった。
「あれ? 実技試験とかじゃないの?」
「あー。前まではそうだったんですが、ハンター志望が少なくなって筆記試験になったんですよ」
なんだそれ。
席に着きテストを解く。
「何だこれ」
とてつもなく簡単な常識問題がある。
この異世界のことを知らなくても解けそうだ。
「終わったー」
手を背伸びさせるヘデラ。
「結構時間かかってなかったか? こんな問題、顎でも解けるが」
「では回収します」
用紙を手に取り奥へと消えていった。
「満点とかありえるのかな? そしたら俺、ギルドに歓迎されるんじゃないかな?」
そう考えると嬉しくなってきた!
奥からさっきの受付の人がやって来た。
「お待たせしました。二人とも合格です」
きたー!
「ではこちらに……」
「ちょっと待ってください。俺の点数、何点でしたか?」
自信満々に聞く。
「聞いちゃうんですね」
そりゃ聞くだろ!
俺の伝説が今、始まる!
「十点です」
「え」
聞き間違いかな?
「十点中?」
「いえ、百点中」
訳が分からない。
「ハルトって意外と馬鹿だったんだね」
「うるさい! お前は何点なんだよ」
「私はハルトより賢いからね~」
「あなたは五点です」
「はえ?」
固まるヘデラ。
「ごほん……。ではこちらに来てください」
もうダメだ。おしまいだ。
足取りは重い。このまま帰っちゃおっか。
「ここでは適正診断をします。こちらに目を向けてください」
目を向けるが光がないことはバレてるだろう。
「えー。ハルトさんですね。なるほど、どれをとっても並みですね」
こいつさっきからバカにしてないか。
「ヘデラさんは……魔力が高いですね」
「それ以外はー?」
「並み以下です」
「帰ろう。俺らに魔物討伐は無理だ」
「待ってください! 確かに能力は低いです。ハンター志望でこれは見たことないです。たださっきも言った通り、今ハンターが少なくなってきて魔物が増えてるんです。ですからそのお力でぜひ、我々力なきものに手を差し伸べていただけないでしょうか!」
「やりましょう! 私たちの力は弱者を救うためにある!」
ヘデラはちょろすぎる。
「道具などは各自用意してください。依頼をこなして行くと報酬が入ります」
「分かりました。では今日はこれで」
ヘデラを引っ張りせっせと帰る。
家につき意気消沈しているところにアンスが帰って来た。
俺は今日の出来事をアンスに話す。
「へー。あなたたち、ハンターになったのね。じゃあ私とパーティーを組まない?」