39 赤の知人
「というわけですの」
要約すると、この国の北にある町を魔物の脅威から救えとのこと。
「……お前らがやれ!」
「うるさいですわ! 自力でしたいのは山々だけど、兵士の皆さまは疲れが取れてないし。それにこれはあなた方にしか頼めないのですわ!」
よくお前にしか頼めないと言われるが、言い換えるとお前なら頼めそうということになる。その手には乗らんぞ。
「ふーん。兵士が出動できないって、あんたらが戦争仕掛けたからだろ」
「違いますわ! あれはわたくしのお父様が勝手にやったことですの! わたくしは断じて関わっていないですわ!」
「こっちはどれだけ苦労してきたと思う。命を懸けたんだぞ! あんたらのわがままの為に!」
「……今回のことは全面的にお父様が悪いのですわ」
「そればっかだな」
「実際、裁判で戦争犯罪人になって、今は禁固されていますわ」
「……そうか。うん。分かった」
「ちょっとはデリカシーってのを持ちなさいの! いくら客人だからって容赦しないですわ!」
「ちょっとちょっとウリン。今お父さんがいないってことは、この国は誰が権力を持ってるの?」
「それはもちろんわたくしですわ! 今はね」
寒気がしてきたぞ。若干十九の人間がすべてを握っているのか。
「ねえ、もう一つ聞きたいんだけど。どうして私たちなの? ウリンとは会ったことないのに……」
「アンスの知り合いがあなたたちのことを教えてくれたのですわ」
アンスに知り合い? 冗談は顔だけにしろよ。こいつに友達なんているわけない。これは希望じゃなく事実。見たことないし。
「まさかね……」
なんだその意味深な呟きは……。
「というかあなたたちはギルドのハンターなんだからわたくしの言うことぐらい聞きなさいよ!」
「は!? なんだよギルドハンターって……。ああ、そういやそんな設定あったな」
「もうギルドを通してあなたたちに申請していますわ。もう逃げられないですわ」
怖い怖い。逃げられないとかいうなよ。
「そっか……私たち実力あるしね。仕方ないわ。やりましょうか」
「いやいやアンスよ。もっと傲慢にいかないと……」
「じゃあよろしくですわ~」
出て行ってしまった。
まったく、やれやれだぜ。仕方ない、やれやれだ。
「というか私のことを知っている人か……ちょっと詮索してくる」
続いてアンスが行く。
「ハルト君。いつ行くの?」
「へ? どこにさ」
「北の町」
「ああ、確かに何も決めていないな……。よし、アンスの予定が終わったら行くか。ヘデラもそんな淡い期待をするな。ここにベッドなんてない」
「はいはい」
「なんでハルトがついてくるのよ」
「別にいいじゃん。というか俺だけ否定されるのは違うだろ。ヘデラをサザンはいいのか?」
「百合の間に挟まる男は死に値するわ」
「ほーん。ならマズミさんのことは止めないね」
「分かった。許して」
ふっ。ちょろいもんだぜ。
「ここね……多分だけど」
アンスが急に立ち止まる。目線の先を見るに訓練所だろう。この国の兵士たちが一心不乱に剣を振っている。俺よりもガタイがいいガチムチだらけ。汗汁を流しに流し、むさ苦しい男の匂いだけで無いはずの子宮が妊娠の準備をしそうになる。
そんなホモの楽園の中に一人だけ皆の前に立ち指導をしている女性がいた。
「やっぱりそうね……」
アンスの負の期待が命中したのかな。顔がさっきから笑っていない。
というかよく見ると前に立っている女性は赤髪だ。ロングヘアーだが、顔立ちがアンスとよく似ている。
まさか……。
「お! アンスじゃん! 久しぶり!」
「ちょ! お母さん! 大きな声出さないで!」
やはりそう。この人はアンスのお母さんだ。
「大きくなったね。独り立ちしてからもう何年だっけか……?」
「もう忘れたの!? 四年よ四年! というかここだとみんなに気が散っちゃうからまた後にして!」
「仕方ないね……。あとで横の彼氏も紹介してよね」
「お母さん! こいつは彼氏じゃない! 勝手に決めつけないで!」
「相変わらずだね。ほら、あそこのベンチに座っていて。今日の訓練が終わったら行くから」
とぼとぼと、今のやり取りだけで疲れた様子のアンスと一緒にベンチに座る。
「なあアンス。確かお前の両親って死んでたんじゃ……」
「何勝手に人の親を殺してんのよ。まだまだ健在よ」
「ねえハルト。この人たちすごくない? さっきから野太い声で奮っているんだけど」
「ヘデラ。それはアンスがいるからだよ」
「どういうことよサザン」
「この前の戦争でアンスが活躍したからね。自分たちも負けていられないっていう意思の表れだと思う」
さっきウリンは兵士が疲れているっていていたが、本当なのだろうか?
ハッタリならボイコットをするしか……。
「は〜い。もうその辺で終わろうか。戦の疲れはしっかり取れよ。そのために今日は軽いメニューなんだからな」
「「うぃーす」」
あっという間に終わった。
「やあやあ君たち。改めてよく来てくれた」
「もういいってそういうの。今回聞きたいのは……」
「実の娘を呼んだ理由ね。まあ簡単だよ。君たちが活躍していたからね」
予想通り。こんなふうに展開が読みやすいものが続いてほしい。
「横の彼氏君。名前は?」
「ハルトです……」
「ちょっと! だから彼氏じゃないって!」
「え? こんなハーレムを築いているのに繋がりが無いってことはないだろ」
「その通りですよ。ハルトは私、ヘデラの彼氏です。ご期待に沿えなくてごめんね。アンスはもっといい人が見つかるはずよ」
「そうなんだ。それはそれでよかったよ。娘がいつの間にかヤってましたなんて聞いたらねえ」
「もうやめてよ! いい年なんだから生々しい話は終わり!」
「はいほ~」
そのまま職場に戻っていった。
「もうこの場から離れたい……」
「じゃあもう行くか。北の町だったな、ほら準備して」
ゆっくりと立ち上がる。こっちが恥ずかしくなるような修羅場ではなかったのが救いだ。
「ねえ。行く前にちょっと寄りたいところがあるの……」
「……仕方ない。よったらさっさと討伐に行くぞ」
「寄りたいところって?」
「この国のギルド。多分だけどそこにお父さんがいるから顔でも出そうかなって……」
「わがままだな。ちょっとは遠慮ってものを覚えろよ」
「いいでしょ。ハルトだってトイレに行ってる時毎回オナ」
「さあ行こう! 今すぐ行こう! アンス! さっさとしないと日が暮れるぞ!」
「ちょろいもんよ」




