表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/52

38 二人目


 「またこれか……」


 さすがに二回目は慣れている。目の前が光り輝いた後に透き通る景色を見るのが癖になって来た。


 「着きましたわ! さあ早く行きますわよ!」


 「痛い! 腕引っ張らないで!」


 「ちょっとそこの姫! ハルトをいじめないでよ! お嬢だからって容赦しないわよ!」


 「誰よあなたは! わたくしに指図しないでくださる?」


 「で、結局なんで私らを呼び出したの? それにあんた誰?」


 アンスの疑問、いや……俺たちの疑問をぶつける。


 「確かに名乗ってなかったですわ……いいでしょう! わたくしの名はウリン! この国の姫よ!」


 「「……そっか」」


 要件を言ってほしかった……。多分ウリンは馬鹿なんだと思う。


 「ウリン!? ウリンって聞こえた!?」


 なんだ? 急に周りが騒がしくなったぞ。


 「ウリン姫だ! ウリン姫がおられる!」


 「ぎゃああ! サインしてー!」


 一気にウリンの周りを囲む野次馬が現れた。


 「この反応が当然なのに……なんであなたたちはそう無反応なのですの!?」


 「だって……なあみんな」


 「だって? なんですの?」


 「その恰好だし……」


 指摘の内容は最善のはず……。


 「うるさいですわ! わたくしの選んだ服になんて無礼なんですの!」


 「そうだ! お前は何も分かっていない!」


 今喋ったやつは誰だよ。外野は静かにしておけ。


 「このご洋服は素晴らしいんだ! ウリン姫をひと際輝かせれるんだぞ!」


 このムーブどっかで見たことあるぞ……。

 姫プレイだ。男を侍らせ自分を持ち上げている。

 その証拠に野次馬は男しかいない。こんなものが現実で見れるとは……。


 「まあとにかくわたくしの家に行きますわよ。そこの豚。道を開けなさい!」


 「ブヒィィ! かしこまりました!」


 うっわまじか。もう幻滅してきた。

 こいつ多分、パンがなかったらケーキを食べるやつだ。間違いない。

 あとなんで民衆はこれを受け入れているんだよ。


 「行きますわよハルト達。いそいでくださる!?」


 段々ウリンの性格が分かってきた。気分屋だ。気に入らないことがあったらドSになる。あの時行くって言ってよかった。


 「はいはい」


 手間がかかる生娘の相手は想像しただけでしんどいな。




 「さあ着きましたわ。ここがわたくしの家ですわ」


 正門を目の当たりにする。メランジの国の城とはまた違うが、これにも良さってものがある。ウリンが住んでいるからバカにしようとしていたが、上げ足や難癖はつけられない。


 「どうです! 驚きでしょう!」


 「はいはい」


 「さっきから『はいはい』って……あなたは赤ちゃんですの?」


 「はいはい」


 「きえええええええ!」


 また気分屋が発動。正直見ていて楽しい。


 「その態度だったらあのお方に頭が上げられないわ!」


 「どういうこと……? あのお方って……」


 名前を言ってはいけないあの人か? 鼻が無くて、史上最強の魔法使い、使う杖はニ〇ト……おっと、これ以上は危ない。消されるところだった。


 「あなたそんな事も知らないですの!? ハルトは馬鹿ですわ!」


 黙れ。ぶち犯すぞ。


 「しょうがない。教えてあげますわ。あの銅像を見なさい!」


 城の敷地内のガーデンを指を差した先には綺麗で清潔な銅像があった。さっきから視界に入っていたのはこれか。髪の長さやただ住まいを見るに女性だろう。


 「あのお方は立った五年で弱小だったこの国を大正義国家に仕上げたのよ!」


 ほー。それは興味深い。国の運営は誰もが憧れるものだ。


 「さらに言うとわたくしの母ですわ!」


 「で、そのお母さまはどうして銅像に?」


 「……居なくなってしまったの……」


 まずい。アンスが地雷を踏んだ。


 「実は私が生まれて四か月の時に……十九年前に突然姿を消したんですわ……」


 「そうか……それはごめん」


 「いいんですわ。もう慣れてますし」


 ちょっとまて。流したらいけない物が出てたぞ。このウリン、今十九かよ。成熟した大人がいつまでわがまま言っているんだ。うう、気持ち悪くなってきた……。


 「わたくしの母はたくましいお方だって聞きましたわ……。なんでも身元が分からないのにその圧倒的知力と行動力で国民の皆さまから支持を得て成り上がったって聞かされましたの」


 「へー。身元が分からないね~」


 アンスよ。その目は俺と似ていると言いたいのか?


 「そうですわ……まあでも一緒に生活していた記憶なんてないし、どーでもいいですわ」


 ド畜生が。やっぱりこいつはダメだ。キュッキュッボンだし……三角フラスコだし。

 しかしこの銅像……惹かれるものがある、近くで見たい。


 「ハルト。何してるの? もう行くよ」


 「先行っててくれアンス」


 「じゃあみんな、行きましょうか」

 

 「そしたら行きますわよ。ちゃんと後で来てくださいわね。ここに連れて来た理由をお話ししますので」


 やっとあのお嬢様口調から解放された。漫画で見るからいいのであって、実際に聞くと耳障りでしかない。


 「ハールト♡」


 「うわあああ! …………ってヘデラかよ……本当にそういうのはやめてくれ。剣を抜くところだったぞ……」


 「どっちの剣?」


 「やかましい……。というかなんで残ったのさ。付いて行けよ」


 「いいじゃない。目的は一緒だし」


 「なるほどな。やっぱりヘデラもあの銅像が気になるよな」


 「え? デートじゃないの?」


 「もう帰れ!」


 「ああ、銅像ね。うん。私も一緒」


 はい嘘つきましたー。鼻が伸びても知らないからな……。


 「にしても綺麗な庭ね。あのお嬢には似つかわしくないね。もっと食虫植物とか並べればいいのに」


 「それは俺でも嫌だ。でもあり得る話でもあったな。あいつ中二病くさいし……。というかそれはどうでもいい。俺はあの銅像とシンパシーを感じたんだ。見に行くぞ」


 「はいはい」




 「意外とデカいな」


 「そうね。迫力があるわ」


 台座も合わせてざっと二メートルある。遠くで見ていたものとは別物みたいだ。


 「あ。なんか文字が開いてある」


 ほう。どれどれ……。


 ‘‘ミサキ 没年 二十九‘‘


 ふむふむ。なるほどねー。はいはい。分かりましたよ。


 「なに頷いているの」


 「ヘデラ。分かっているな」


 「な、何よ。あー、ハルトのことね」


 「違う。この人だよ。この銅像! この名前みて何か違和感を覚えろよ!」


 「……今のところ、ハルトの電球はついているみたいね」


 分からないって言え。そこは素直に。

 とういかこのミサキって名前、絶対日本人だろ。しかも身元不明ってことは転生したな。

 俺と同じ境遇、だから何か感じるものがあったんだ。


 「この下にも書いてあるよ」


 ヘデラがさらに指を差す。


 ‘‘二十四時間で一日を数字で表した人物‘‘


 「へー。すごいね」


 頭からっぽにしたらその感想が出てくるのか……。そんなことはどうでもいい。今とても重要なことが書いてあったぞ。

 一日を時間で表すってことをこの世界に持ちこんだのか……。道理でだ。時計がないのにみんな何時かってことを言えているのは。多分この世界には明確な一日の基準ってものがなかったのだろう。それを決めたってことの方が大きいぞ。


 「考え事をしていると、股間が留守になるってことね」


 「やめろ恥ずかしい。自然に触ってくるな」


 「まあそろそろ行きましょうか。ハルトも何か分かったってことで円満解決ね!」


 何が円満で何が解決したのか教えてほしいが、そろそろここに連れてこられた理由が知りたくなった。

 行くか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ