37 急展開
「メランジ様~! こっち見て~!」
「あれが噂のアンスか! 国を救ったアンスか!」
今、我々は凱旋帰国をしている。なぜかって? 勝ったからさ! 戦争、そう戦争だ。我々が命を賭して勝ち取った未来を祝賀中なのだ!
「別にハルトが頑張ったわけじゃないけど……」
「黙れアンス。勝負ってのは最後に決めたやつが正義なんだよ!」
「まあまあハルトよ。ここはみんなの成果ってことで……」
メランジに言われたのなら仕方ない。ここは引こう。
「しかしなんで歩きなんだ? ここはもっと盛大に馬車にのってだな」
「そこは仕方ない。先ほどの戦で馬たちはもう疲弊しているんだ。ハルトも見ただろ」
休憩しているところは見たが、あれは馬とは言わないだろ。角あったし翼も生えていた。元居た世界でいうならペガサスだ。
「知ってる? 馬って純潔の女の子を好むんだって」
アンスが訳の分からぬ雑学を披露している。しかしそれが本当ならペガサスそのものだろ。あいつ処女が好きって聞いたことあるし。さらには男の娘でもいいらしい。もうペガサスじゃなくて性欲モンスターだ。さすがにこの世界の馬はそこまでじゃないと思う。
「さらに言うと男でも可愛ければいいらしいよ」
「それよりもだ! ハルトよ。財宝はどこにしまっているんだ?」
「あれですよ。あそこの人だかりができている場所です」
「さっきから気になっていたあれか! よし! 走るぞ!」
「あ! 待ってメランジ様!」
「あらあら、若いっていいですね」
一応こいつら徹夜明けだろに。本当にどこからその元気が出てくるのやら……。
「邪魔はいなくなったね、ハルト。この花道を一緒に歩きましょう! …………無言で足らないでよ!」
デートというものはどうしたらできるのか。生まれてから昨日の凱旋パレードまで考えていたが、案外簡単に答えは出た。
「メランジ様……小鳥が鳴いているわ」
「そうだなアンス。鳥たちが語らっている……」
「さらにここまで綺麗な花に囲まれて……」
戦争を一緒に生き残れば、吊り橋効果で素直にできるらしい。
「ハルト君。覗きはよくない」
「いいじゃないかサザン。ほら見ろ。いい感じになっているだろ?」
「あのシスターがいなければね」
二人の後ろに堂々と佇んでいるマズミさん。度胸は認めるが今だけは覗きに徹した方がいい。
「そういえばヘデラはどこ行ったの?」
「ああヘデラか……あいつにこの場面を邪魔されたら溜まったもんじゃないだろ。だから俺の部屋に入れてる。出てくるなって条件でな」
「それいいの?」
「ほっとけ」
想像はしたくない。ヘデラのやつは今頃俺の布団を湿らせているころかもしれないとか考えると脳が腐ってしまう。
「あ、いました。あれがハルトさんです」
なんだ? この王城の使用人か? 俺を指さしているみたいだが……。というか今は邪魔しないでくれないかな。せっかくいいムードになっているのに……もうちょっと見させてくれよ。
「ハルトさん。国王がお呼びです」
「え? 国王が?」
このメイドは何言っているんだ。もう用は終わっただろ。まさか……帰れって言うのか。確かに居候していたが一応はヒーローなんだぞ……。くそ、どいつもこいつも腐ってやがる。
「ハルト君。決めつけはよくないよ。行こう」
「仕方ない、もうちょっと見たいが……あとでマズミさんに聞こう」
「ではこちらに来てください」
植物の楽園と言える中庭から、無機質に規則正しい城の中に入っていく。もっとも、俺の好きなのはこっちだが。
「あの……なんで国王が? 俺なんかしたんです?」
「私は聞かされていません。とにかくお急ぎだったので……」
怖いな。現国王か……威圧感がある人だと勝手に想像しているけど実際はどうなんだろう。
「お連れしました……」
「うむ。開けてくれ」
渋く低くうなる声、そして王室の扉が重々と開く。
「よく来た……」
玉座に座る小太りのおじさん。これが第一印象だ。なんか怖いけど……俺でも勝てそう。
「長話は嫌いでな……まあそこに座りたまえ」
王室の長椅子に座るよう指示される。サザンも一緒にということは秘密事ではないようだ。
「戦争の件だが……」
「はい……」
「よくやった」
「え?」
「お! その顔ってことは叱られると思っていたのか!? どうだ? 答えて見ろ!」
……訂正、第一印象は陽気なジジイ。
「まあ急ぎと言われたら誰でも怖いと思うが……あ! そうだそうだ。ここに呼んだ意味を答えなくちゃな」
こいつ無自覚でこの性格なのか……。ナチュラルハイが一番関わったらいけないんだよ。
「実は隣国の姫が財宝を取ったやつを呼べと言っていてな。まあ財宝を直接取られないからわしは別に構わんが……本人の意思を聞かないとだな」
隣国の姫か……確かウリンだっけ。メランジが政略結婚させられそうとか言っていたな……。
「その姫ってメランジさんと結婚するんじゃ……」
「何を言っておる。というかその話はどこから…………まあメランジだろ。あいつは秘密を守れんし。とにかく今はその話は世に出ていないし、それはわし個人の意見だ。別に隣国とつるんではおらん」
「そうですか……」
「まあ隣国の姫からの直々の指名だ。どうする?」
お姫様か。ああ人物像が思い浮かんできた。ツインテールで可愛いお洋服を着ていて、人形みたいに可愛い。そしてパンがない時にケーキを食べるようなやつではない……会いたい。
「ハルト君。妄想は悲しくなるよ」
「なんで分かるんだよ。まあいい! 俺行きます! 隣国でもどこでも!」
「よく言った! よし早速呼ぶぞ! 実はもうここに来ていていたんだ!」
は!? ちょっと待て。心の準備が……。
「行きますわ!」
綺麗な声……。しかもお嬢様口調……。完璧だ! もう好きになった!
「お邪魔いたしますわ~」
んん? 美人……だな。けどなんかイメージが違う。ツインテールではなくロングストレート。可愛いお人形の洋服ではなく中二病が着ていそうな禍々しい服。
はい一目惚れしませんでした。
「あなたがハルトですね! 今すぐわたくしの国に来て下さい! お願いしますわ!」
「すー。いやだ……いや! 行きます」
「それなら今から行きますわよ!」
「ちょっと待って。みんなの承諾を……」
「私はいいよ」
「そこは否定しろ! サザン! それにほかの三人は……」
「話は聞かせてもらったよ!」
!? 誰だ!
「アンスか……ヘデラもマズミさんもいるし……」
「隣国に行くんでしょ。私は賛成」
「ハルトが行くところならどこでも」
「よし! 決まりだわ!」
「まだ待って! マズミさんは……」
「私はここに残りますよ」
「え!? アンスの追いかけはいいの?」
「いいんですよ。さっきのデートで確認できました。アンスさんは私一本ってことをね」
「アンス……なにしたんだ……」
「聞かないで……」
「分かった……。というかなんで残るのです?」
「実はこの国に教会を立てるって仕事がきたんです。だからここに残ることに決めたの……私の本業は布教ですから」
「さあハルト! 行きますわよ! あなたたち! 出発の準備を!」
ウリンが連れてきた付き人にテレポートの指示を出す。
またか。また国に行かないといけないのか。
「そんな落胆しないでくださる? いいこともありますわよ! なんせわたくしがいますから!」
どっからそんな自信が来るのやら……。
「準備が出来ました。ウリン姫」
こうなったら腹を括るしかない。神様! いいことが起きてくれ!




