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36 勝利の印籠


 「メランジ様……! 大丈夫ですか!?」


 「この程度、かすり傷さ……。それよりもだ。もうすぐ夜が明ける。まさかここまで続くとは思わなかった……。もし負けそうになったらいつでも逃げてくれ……」


 「そんな事……出来ません! 私はメランジ様と一緒に……」


 「あれはなんだ!?」


 「あの高台にいるのは……」


 「光輝いているぞ!」


 「なんだ……敵兵が……あそこを向いている……」


 「メランジ様……あの高台に……」


 よし。みんなが目線を向けた。信じるぜメランジ! これを見せたら敵兵は引くんだろ!


 「皆の物! これが目に入らぬか!」


 ちょっとパクったけどいいだろう。今なら許される。


 「あれは……あの青白く光る物は……」


 「まさか……伝説の……」


 「あの声は……ハルト!?」


 「ハルトなのか……! まさか……本当にやったのか!?」

 

 注目を浴びている。いい調子だ…………本当だよな? 本当にこれで大丈夫なんだろ?


 「あのハルトの持っているものってまさか……伝説の財宝!?」


 説明お疲れ。ヘデラ。


 「そんなまさか!? 噂は本当だったなんて……」


 「試練を乗り越えたものしか手に入れられないあの財宝だと……」


 「敵国にとんでもない秘密兵器があったとは……」


 感嘆はいい。早く出ていけ。注目だけ集めても意味ないんだ。


 「あいつがいるならここは負け戦になるぞ……どうします!? 団長!? あやつを敵に回したら……」


 「…………ひ……引けええええええ! 総員退避だあああああ!」


 足が不規則な音を立てて、敵兵は出て行った。計画通り。というかこれそんなにすごいのか? 勝利の印籠にしては安っぽく見える。


 「やっぱりハルトだったのか!」


 「まあ。というかみんな疲弊しているけど……」


 「かなりの激戦だったのよ。殉職も何人も出たって聞いたし……」


 「そうかそうか。その戦いを俺が止めたのか。ふむふむ……」


 「というかハルト。いい加減その高台から降りてきたら。鬱陶しいよ」


 「はいはい」


 ああ、嫉妬の声が気持ちいい。もっとも、この戦場では何も言われていないが……。頭の中でも祝わせてくれ。


 「降りてきたね。でさあ、結局それ何?」


 アンスが俺の持っていた伝説の財宝を指さす。


 「説明させてくれるな。これがみんなが目指してた財宝だ」


 「ふーん。ただのブレスレットじゃん。あ、でもこの真ん中についてる宝石は綺麗ね」


 「おいおい。これだけじゃないぞ! 城に帰ったらその財に驚くだろう……」


 「まあそんなことはどうでもいいけど……」


 どうでもよくない。


 「それよりもマズミさんはどこ行ったの? いつもアンスについていっているけど……」


 「あらあら皆さんお揃いで」


 マズミさんだ。死んではいなかったようだ。にしても綺麗すぎないか? 泥一つついていない。


 「マズミ。何してたの? 最初から見なかったけど……」


 「ちょっと懲らしめていました!」


 「へ、へ―。そっか……なんでそんな事……」


 「アンスさんが戦闘に駆り出された瞬間、相手の国の兵士がアンスさんを見ていたんですよ!」


 「そりゃあ、武器も持たずに戦に駆り出されたら注目は浴びるでしょ」


 「違いますよ! 私が懲らしめたのはアンスさんをいやらしい目で見ていた人です。アンスさんは可愛いですからね。仕方ないって言えば仕方ないですが」


 「別にそんな事しなくていいよ。いつも見られているし……」


 「……いつも?」


 おい。こっちを見るな。アンスもそんなバカげたことを言うな。

 まずい気まずくなってきた……。かくなる上は……。


 「ごめんなさい!」


 「……まあいいです」


 メランジの目が見れない。あんなに期待されていたのに、女性のナイスバディにはそそられますなんて事実を知られてしまったし……。というかさっきからメランジは一言も喋っていないな。


 「メランジさん。さっきからどこを見て……」


 「これが伝記にあったブレスレット……。ハルト! 貸してくれ!」


 「ええ!? まあ、どうぞ」


 「ほわあ……」


 目が堕ちているし、女の子みたいな反応をしている。可愛い……。いやこの可愛いは人としてじゃなくて小動物に向ける可愛さだ。決してメランジなんぞに欲情はしない……というか俺は誰に説明しているんだ……。


 「おい! ハルトよ! ほかにも財宝があったっていっていたよな! 今すぐに国に帰るぞ!」


 「ちょ、ちょっとメランジ様! もうちょっと勝利に浸りましょうよ!」


 「帰ったらいくらでもできる。それよりも……!」


 「メランジ王子!」


 「……なんだ。使用人よ」


 「なんだじゃありません! 勝ったのですよ! これはもう凱旋パレードをするしかありません!」


 「そうか。まあ準備よろしく」


 「かしこまりました!」


 興味なさそう。まあメランジも年頃だし国民に賞賛より金品のほうがいいのかも。


 「あの……メランジ様……」


 「ん? どうした? アンス」


 「その……約束……覚えていますか……?」


 「あ、ああ! その……あれだ……で、デートだっけか……」


 「はい……」


 「アンスさん? デートするんですか?」


 「なによマズミ。いいじゃない」


 「あれは財宝をとったらという内容でしたよね? 今回その財宝を取ったのはハルトさんです。ということは王子とハルトさんがデートするのが筋じゃないですか?」


 「「!?」」


 おいこいつふざけたことを言うな。男は好きじゃないんだぞ! メランジも否定しろ! こんなボーイズラブなんか望んじゃいねえ!


 「それはダメ! ハルトは私とデート!」


 そんな約束はしていない。断じてだ。


 「マズミよ。確かにそれも一理あるが……今回は異例だし……その……大目に見て……だな」


 「仕方ないですね。私の監視のもとなら」


 よしよし。うまいこと躱した。


 「じゃあハルトは私の監視のもと、私とデートね!」


 「し……去ね」


 「言葉選んでる」


 「そうだサザン。ここは雰囲気を崩したらダメな場面だ」


 「よし! みんな! 国に帰るとするか! もう朝日が出ているし、帰ってゆっくりしよう!」


 「はい! メランジ様!」

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