35 歪な戦い 後編
「はは、あはははははは!」
「ハルト! 作戦違うよ!」
「うひゃひゃひゃひゃ」
「そもそもなんで洗脳されたのよ!」
「ドロスノーを裏切るなんてそんな高度なこと……」
「二人……殺す……」
「魔力が高すぎて洗脳が解けないじゃない! どうしたら……」
「ヘデラ。今は逃げよう」
「おい! あそこで戦っているのは……」
「あれは……! 何しているんだ! 助けに来たんじゃないのか!」
「兵士たち! 助けてよ! うちのハルトがバカになった!」
「おい! こっちに来るな!」
楽しそうだ。俺も行こう。
「あはははハはハハハ」
「そんなバケモンこっちによこすな!」
「そんな奴殺せ!」
なんでみんなそんな目で見るんだ?
なんでみんな武器を構えているんだ?
「あは、あはは」
「ハルト! いい加減にして!」
「ヘデラ。洗脳されてるから意味ない」
「可愛いハルトが台無しじゃない!」
可愛い……?
「なんだ? 動きが止まったぞ?」
「うああああああやめろおおお」
「ハルト! 落ち着いて!」
「あれは……」
「サザン! どうしたの!?」
「あれは再洗脳されている……。もしかして……」
もうずっとこのままでいいかな。他人なんてどうでもいいや。どうせまた何か言われる。あの時みたいにバカにされる。
「ハルト! かっこいいよ!」
……? ヘデラか……またそんなお世辞……。
「そうだ! イケメンだ! ……名前は知らんが……」
なんだ? みんなして何言っているんだ?
「かっこいいぞ! 名前は知らんが」
「構えがいいぞ!」
なんなんだよ。俺のどこがいいんだ……。でも、この感じいいな。
「よし。ハルト君を様子が変わってきている。みんな、その調子で褒めて」
「サザン。本当にうまくいくの?」
「多分、邪気よりも正気の気持ちを大きくしたら、自力で洗脳は解けるはず……」
「クズどもが……。その気なら……」
まただ。またこの気持ち悪い感じ。でも癖になる。やめられない。
「ヘデラ。気づいた? ドロスノーの魔力がハルト君に集中している。ほかのみんなの洗脳が解けている」
「へ? そうなの?」
「このままうまくいけば、ハルト君の洗脳が解けた瞬間、ハルト君がドロスノーに一撃を喰らわす。当初の予定通り」
「でもどうやってそれ伝えるの?」
「そこはヘデラの出番。頑張って」
「……何とかしてみる!」
そもそもなんでこんな異世界に来たんだ? 俺の生前は正義だった。何も悪いことなんてしていなかった。誰が殺したんだ。誰がここに連れ込んだ。お前らだろ。お前らがここに引きずり込んだ。お前ら全員……。
「世界一の剣豪!」
「こんなバケモン倒せないぜ!」
「イケメンで強いとか完璧かよ!」
やめろやめろやめろやめろ。俺のどこがいいんだ。俺なんかのどこに惹かれるんだ。
「ハルト……」
やめろ。抱き着くな……。
「ハルト。今から作戦を言うね」
……。
「洗脳されているように見せかけてドロスノーに近づき、そのまま剣を突き刺す。それが作戦。結構簡単だね。分かった?」
無理だろ。俺にそんな事……相手を舐めるな……。
「出来る。できるよ。安心して……」
俺に……俺が……俺なんかが……。
「私はハルトのことずっと見てきたの。いい時もダメな時もずっと……。だからさ、私が出来るって言っているなら大丈夫だよ」
できる……のか。俺に……。ずっと味方のいない世界で生きてきた俺に……。
「あとは任せたよ……信じてるから……」
暖かさが消えた。また孤独……。
「ヘデラ。大丈夫だった?」
「ばっちしよ。あのハルトがやるんでしょ。信じない訳にはいかないじゃない!」
「おい! なんで化け物に向かっているんだ?」
「あの化け物が何かしたのか!?」
俺は今どこにいる?
「あいつ、剣を握り潰しながら化け物の方に歩いている……何をする気だ……」
そうだ……。この世界にいるんだ……。それなら……。
「いうことを聞け若造が……」
「ドロスノーの魔力が完全にハルト君に移っている……」
「姉貴! 大丈夫ですか!?」
「ああ。そんなに騒がなくても……それよりも今の状況は……?」
「さっきの小僧が……」
「あれか……ハルトのやつ……」
「うぬぼれるな……わしを誰と心得る……」
一歩が重い。足が上がらない。
「いいぞ! 神をも凌駕する人だ!」
「すごいぞ! 天下に轟かせる大天才!」
「姉貴……これは……」
「私らもやるよ。……そのままいっちまえ!」
「姉貴……。そこの小僧! イクとこまで行け!」
遠く感じる。でも……それでも……!
「それ以上わしに近づくな! 全魔力を注ぐ! わしの手駒になれ! ふんんんんんんあああああああ!」
「ハルト君! 頑張って!」
「ハルト! 私が居るから!」
「悪いな老いぼれ。俺はもう誰かの下僕になったかもしれない……」
「ふんんんん! きけえええええええええ!」
「もっかい死んで来い!」
汚い血……。帰ったらまた洗わないとな……。
「あの小僧……ドロスノーをやっちまったのか……?」
「そうみたいだな……。ハルトか……名前、覚えたぞ……」
なんか気持ちが晴れ晴れしている。
「あのガキ……、本当にアンス達のパーティーだったとは……」
「ハルトー! すごかっ……おえっくっさ! ……すごかったね」
鼻をつまみながら言うな。ていうか俺も気持ち悪くなってきた。本当にくさいな、シュールストレミングかよ……。食べたことないから知らんけど。
「おいヘデラ。それが人に対する敬いか? サザンもそんな引かないでくれ。なあ、頼むよ!」
「それよりもハルト君。当初の目的は覚えてる?」
「あ、忘れてたかも……あれだ! なんか取りに行くって……」
「財宝だよ」
「それそれ」
「やはりそうでしたか。王子からここに来ると聞いていたパーティ―は……」
恰幅のいい兵士だ。この臭さには耐えられていない様子だが。
「財宝の在処は突き止めています。ですが……」
「ですが……?」
「その臭さは異常って事だろ。宝に臭いが移ったいけないしな」
!? ……サキュバスのお姉さんか。
「私が洗うところ案内してやるから、ついてこい、ハルト」
「そういうことなら今すぐ教えてください! サザンには嫌われたくないんだ!」
「ちょっと! 私は!?」
「仲いいんだな。それからサザン……言いたいことがあるんだが……」
……おいおい。修羅場にはするなよ。
「ありがとう。助かった」
「……うん」
「その気弱さが私は好きじゃないんだが……まあ元気そうで何よりだ」
「……うん」
「今回の礼ってことも含めて言うけど……いつでも遊びに来てくれ、サザンなら大歓迎だ」
「……ども」
こっちから見ても上手く会話は出来ていないと思う。俺はサザンの考えていることは分からんでもないが、内心は嬉しいと感じている……かな?
「さ! ハルト! 疲れただろし、背中洗ってやるぞ!」
「さあ行きましょうお姉さま」
「私は前を洗ってあげる。固くならないでね」
「……行きましょうお姉さま!」
「ねえ無視しないでよ! 私のおかげでもあるんだよ!」
「……お姉さま!」
「ハルトは私の物よ!」




