34 歪な戦い 中編
しかし言った手前何をしたいいか分からない。大口叩いといてこれだとまずい。
「ハルト。何か思いついた?」
「うるさい。今は黙っててくれ」
「仕方ないわね」
相手の魔力は容量が決まっているというのなら……。
「ヘデラ。お前が洗脳されろ」
「は!? バカ言わないでよ! いくらハルトの命令でもそれは無理よ」
「いやいや。これはれっきとした作戦なんだ。いいか、まず相手の魔力を使わせて……」
「ハルト危ない!」
ヘデラがとっさに俺をどかす。
「いって……」
は!? ……なんだ大丈夫じゃないか。てっきり身代わりになってくれたと思ったのに……。
というか今の攻撃は誰だ?
まさか……。
「終わらせる……。これで……最後……」
ドロスノーか……今のはサキュバスのお姉さんの攻撃だろう。結構強烈だったな。
「ぼーっとしてんじゃねえ! お前ら! やっちまえ!」
後方からの援軍がドロスノーめがけて進んでいく。
しかしサザンがその攻撃を無下にする。兵士ごときの攻撃なんぞと言わんばかりに。
ここはやっぱりヘデラが頼みの綱だ。
「ヘデラ。洗脳された皆を助けて、さらにドロスノーの一撃くらわす特大のウルトラCはないか?」
「そんな都合のいい攻撃ある訳ないでしょ! もう策が無いなら駆け落ちよ!」
それだけは絶対に嫌だ。本当に無理。こいつごときに駆け落ちなんて……。
とにかく考えろ……。そういえばドロスノー本体から攻撃しないな……実際過去に勇者パーティーにやられたってあるし……。
「ヘデラ。時間稼ぎを頼んだぞ!」
「へ? 何か思いついたの?」
「なにも思い着かないからこその時間稼ぎだろ!」
「? 普通は耐久作戦の時にやるやつでしょ。もしかして私の愛している人ってヤバイ?」
「黙れ。お前よりましだ」
こいつはもう使えん。自分で考えもしないし……。
まあとやかく言う俺もバカだが。
そんな事はどうでもいい。何か打開策、ウルトラCは……。
「攻めまくれお前ら!」
「行くぞ!」
兵士たち頑張っているな。というかさっきから兵士の相手いてるの洗脳されたサザンだな……。ほかのやつは……何もしてない。
「ヘデラ。洗脳兵士たち、何もしてないよな?」
「確かに、まあほっときましょう」
ほっといたらダメだ。多分ヒントが……。
「おいヘデラ。ドロスノーの魔力は容量が決まっているんだろ。じゃあなんでサザンたちは魔法が使えているんだ? さっきのヘデラの話が本当なら洗脳に全部魔力使っているはずなのに……」
「あー、あれじゃない? きっと今魔法を使っているのは本人たちの魔力を使っているのよ。だからドロスノーは関係ないのかな?」
それだ! それだよ! よしよし、この勝負貰った。
「ヘデラ。耐久作戦だ!」
「また!? 作戦考えている暇ないのよ!」
「違う! 今度は違う。れっきとした作戦だ。サザンたちの魔力がなくなるまで耐久するんだ!」
「なるほど。それなら合点がいくわ。……でも相手サキュバスよ。時間かかるんじゃ……」
「お前は女神だろ。そっちの方が強いはず……多分……きっと……もしかすると」
「そう言われたならやるしかないわね。じゃあ魔法のラリーでもしますか!」
こうしてヘデラは洗脳されたサキュバスのお姉さんの攻撃を弾きまくる。時間がかかるが、ガス欠は相手の方が早いはず……。
「ねえハルト! 疲れてきたの! 変わって!」
「それは無理だ。でも見てみろ。相手の攻撃弱まっていないか?」
「まあそれは本当みたいだけど……というかこの作戦の続きを教えてよ! まさか無策なわけないよね?」
「安心したまえヘデラ君。ちゃんと作戦はある」
まあ耐久していた時に思い着いたのだが……。
「早く教えてよ!」
「落ち着け。というか次の攻撃が来るぞ」
「分かってるって!」
軽くあしらうヘデラ。もう相手の魔力は尽きていそうだ。
「よし作戦を教える。相手は洗脳する時に隙が生まれるんだ。実際、サザンたちを洗脳する時時間かかってたし……。その隙を突く! これが今回の作戦」
「なるほど。で、その隙はどうやって作るの?」
「……ヘデラ。行け!」
「嫌だって言ってるじゃん! いい加減女の子を大切にしてよ!」
お前何歳だよ。いい歳こいたババアがとやかく言うんじゃねえ。
しかしその時、またもや後ろから声が聞こえた。
「姉貴! 大丈夫ですか!?」
声の方に振り向くとそこには洞窟で出会ったサキュバス軍団だ。
「あれはドロスノー……、姉貴は一人で……」
「みんな! 姉さんを助けるよ!」
ざっと十人ぐらいのサキュバスがぞろぞろと向かっていく。
「まって! 今行くと……」
「うわ! なんだこれ……ああああ」
遅かった……。というか今チャンスだったのでは?
「次はこいつ……」
サザンを洗脳から解き、次へと鞍替えする。
解き放たれたサザンは兵士たちの相手をしていたのか、ぐったり倒れてしまった。
「大丈夫か!? 今行くぞサザン!」
倒れ込んでいるサザンを介保する。大きな外傷はない。
「おい! しっかりしろ! サザン……」
くそ! 俺たちのサザンが……こんなやつに……。
「生きてる。生きてるから……」
「おお! 起きた! サザンが起きた!」
「休憩させて……」
「そうだな。ちょっと離れるか」
サザンをお姫様抱っこして隅へ行く。
「ヘデラ。指をくわえて見るな。今だけは違うだろ」
「いいじゃない……。というかサザン。大丈夫だった?」
「うん。何とか……今はどんな感じ?」
「今は兵士とサキュバスが援軍に来たんだ。まあサキュバスの何人かは洗脳されてしまったが……」
「そう……」
「それよりもドロスノーを倒すのに何かヒントがないか? 俺が考えた作戦は今無駄になったし」
「洗脳されて分かったことといえば、ドロスノーに隙は無い」
「……」
ヘデラ。黙ってこっちを見るな。
「じゃあどうすればいいんだ……」
「ドロスノーが洗脳する時、単純に魔力だけで洗脳するんじゃない。恐怖心……とか、心の中にある邪な気持ちを使う。そこを逆手に取れば……」
「なるほど。ドロスノーが洗脳してきた時に自力で洗脳を解き、裏切ればいいんだな」
「思ってたのと違うけど……それで行こう」
「よし! 洗脳されるか! ヘデラ! 俺にありったけの魔力を!」
「寝取られないでね」
ヘデラの力がどんどん入ってくる。おお! 力が湧いてきた! その証拠にドロスノーのやつがこちらを無視できない領域まで来ている。
「あの人間……使える」
よし来た! 洗脳され……まて、邪の気持ちを使ってくるんだろ。あれ? これまずくない?
「ハルト! 気を付けてね! ハルト……? ねえハルト!」
「ハルト君……! 聞こえてない……」
「へ? それまずくない?」
「まずはそこの二人から……」




