29 世界の数
気持ちいい……。もっとふわふわしたい……。これだ。この癒しが俺には必要だったんだ。心なしか少しぷにぷにしている。
溜まっているものを解消したら満足だと思っていたが、それ以上の幸福があったとは……。
「ハルト君。気持ちい?」
「うん! 気持ちいいよママ!」
童心にもどった気分だ……。
もう夜中だと言うのに俺の気持ちはお日様が出ている。
「そっか。もう寝ていいよ」
「ママ! そうする! ……は! 誰だ! 俺の布団に潜り込んでいる不届き者は! ……サザンか……。ってなんでサザンが?」
「言わせないでよ」
「え? 俺なんかした?」
「別に」
時たま思うが、サザンは何がしたいのかよく分からない。
「それよりもう夜中だぞ。みんな寝てるし、明日に備えて疲れを取ったらどうだ?」
「さみしい」
う! やめろそんな顔。幼女の見た目がしていい顔じゃない! 落ち着け俺! 小学生は守備範囲じゃないんだ! ……待てよ。確かサザンって百四十歳だったな……。てことは合法か?
「一人で寝たくない」
「そっか。普段はアンスと寝ていたからか……」
サザンの過去には触れたくない。聞いたらこっちの気持ちが落ちてしまいそう。
「もっとぎゅってして」
「はいはい」
抱きしめている。幼女を抱きしめている……。いや、厳密には違う。多分巷で言うロ〇ババアか。
「固い。これじゃない」
「黙れ。俺に女子の体を期待するな」
「んん」
もっと抱きしめてくる。やばい。固くなってきた。
「ちょっとサザン。離れてくれ。ほ、ほら! アンスのところに行ってきたらどうだ? 多分受け入れてくれる……」
サザンの力が緩まない。しぶといな……。
もう諦めよう。きっとやましい気持ちなんてなく、純粋に人肌が恋しくなったのだろう。
「初めて会った時以来だね。こうして二人きりで寝るの」
やましい気持ちはないはずだ! 絶対に! 想像するな俺! サザンのことを頭から抜くんだ!
「気持ちよかった?」
「へ? いきなりなに言うんだよ。風呂か? そりゃあ気持ちよかったが……」
「違う。この部屋でしてたこと」
「何のことかな?」
「音してたよ。ギシギシって」
「……察してくれ。俺も溜まっていたんだ」
「分かった」
「それよりも、もう一試合したくなってきた。出てってくれ」
「隠さないんだね」
「サザン相手ならな」
「……」
めちゃくちゃ気まずい。なんでごまかさなかったのか後悔しそうになってきた。
「ハルト君」
「な、なんでしょう」
「私って生きている意味あるの?」
いきなり何言ってくれるんだ。サザンがそれを言うと怖いんだよ。
「ヘデラは君が好きだし、アンスも王子に気がある。あのシスターだってアンスのこと愛している。でも私は? 私のことは誰が気にかけてくれているの? 私って必要なの?」
こいつこんな感情出したの初めてじゃいか?
「……」
「ねえ」
「俺は……そうだな、その前に昔話でもしよう」
「うん……」
「俺が故郷にいた時はな、なぜかハブられていたんだ。本当に理由は分からない。多分人と少し違っていたんだろう。なかなか友達が出来なかった。いつも一人でいたよ」
「……私と似てる」
「俺の親も最初こそ気にかけてくれたんだけど、段々諦めていってな、そりゃもう居場所なんてなかったものさ。……でも……」
「でも?」
「気づいたんだ。俺の知ってる世界は、家と……学びやぐらい。二つの世界しか知らない。その二つがすべてだった」
「……」
「だけどある日、その二つの世界から飛び出してみたんだ。そしたら俺のことを愛せる人がいたし、俺のことを受け入れてくれる人もいた。まあ何が言いたいかっていうとだな……、別に一つの世界に固執する必要はないってことだ。自分と合わなければやめてもいい。別の世界に行けばいい。そうやって気軽に考えたらいい。それが頑張って生きるってことだと思う」
「……うん」
「サザンも、別に合わなかったらやめてももいい。別の世界にサザンのことを愛してくれる人もいるはずさ。それでもだめだってなった時は俺がなんとかしてやる。……だからさ、今は生きる意味を考えるんじゃなくて、今自分の知っている世界を楽しめばいいよ。そしたら見えてくるものがあると思う……」
「……」
寝たか。安心した寝顔みたいだ。俺もなんだかスッキリしてきた。試合は延期だな。今日くらいはサザンと一緒に寝てもいいだろう。抱きしめてやるか……。




