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28 裸の付き合い


 「みんな揃ったな? それではいただくとしよう」


 メランジを中心とし、長テーブルを囲む。

 長テーブルには普段は目にしないような高価なものが羅列されている。


 「ねえハルト。この料理美味しそうじゃない? 見たことないけど」


 「落ち着けヘデラ。こういうのは作法ってものが……」


 皆が食器を鳴らさぬようにぞくぞくと取り分ける。


 「ハルト! これ精が付きそうじゃない?」


 「おい。食事のマナーは静かにだ。無礼をしたら何が起こるか分からないぞ」


 「ハルトといったっけな。そう気張る必要はない。今日は歓迎なのだから楽しく行こうじゃなか」


 「そうですか……」


 「メランジ様は器が広いお方よ。ハルトも見習いなさい」


 「アンスさん。分かっていますね? 決してそういうことはないようにしてね。特にあの王子とやらには絶対にさせません」


 怖いな。しかし権力者に物怖じしない度胸は見習わないと。

 しかし料理がうまい。これは人生で一度は食べたほうがいいものしかない。


 「普段は食べれないものしかない……。この禍々しい食べ物はなんだ?」


 「それは珍味と言われている人間もどきの白子だよ。あんたにはまだ早いかもね」


 「そうだな。アンスにあげるよ」


 流石に人に近いものは気持ち悪い。


 「ねえハルト君。私も食べたい」


 「それなら……ってサザンの前は揚げ物しかないな」


 サザンの食卓の前はお子様ランチの様だ。欲張りセットのバーゲンセールが似合うだろう。


 「あらお嬢ちゃん。こっちのから揚げ食べたら?」


 「いらない。それより精巣がいい」


 サザンを子供と勘違いした使用人が付き添いをしている。


 「白子はまだ早いんじゃないかな」


 「私サキュバス。精巣は私の主食」


 「面白いね」


 魔物と信じてないみたいだな。一応背中に羽が生えているが、コスプレだと思われている。

 ただもう一回言うが、本当においしい。誤解を生んだがそれも許されているみたいだ。歓迎会というだけある。ほかのみんなもいつもより丁寧に、しかし強欲に味わっていた。まあ、マズミさんは料理じゃなくアンスを味わっていた見たいだった。



 皿の底が大半を占めている長テーブルを見て、メランジが語り掛ける。


 「メイドよ。風呂の準備は出来ているか?」


 「出来ています」


 「よし。皆も風呂を入るがいい。食べた後にくつろぐとなんとやら、とあるが今日ぐらいはいいだろう」


 「じゃあ私はハルトと入る!」


 「おい! さすがに混浴じゃないだろ! ……そうですよね? メランジさん」


 「まあ、男女は別だ。そこはちゃんとわきまえないとだな」


 「よかったわねアンスさん! 一緒に入りましょう。その汚れたからだをしっかり洗い流してあげますよ」


 「分かったから! そんなに肩をつかまないで! ちょ! 痛い!」


 「お嬢ちゃんも入りましょうね。背中洗ってあげるよ」


 「一人で出来る」


 子供扱いが不服なサザン。見てるとちょっと楽しい。


 「皆、入る前に寝室を案内しておく。そこにタオルなどがあるから、それから風呂に入るがいい」


 「ねえ! ツインとかないの?」


 「サザン! 無礼よ! 敬語を使わないと……」


 「アンスよ。大丈夫だ。このくらいどうってことないさ」


 「心の広いお方……。ハルトも見習いなさい」


 うるさい。というか普段のアンスを見たら絶対にメランジも幻滅するだろ。いや、してくれないと困る。


 「ツインはないぞ。一人ひとりの空間を大事にしないとだしな」


 来た! 一人の時間が取れる! やっとトイレじゃなくて布団で……。あとで考えよう。確実に今じゃない。


 「ではそろそろ解散ってところかな。使用人たち。アンス達に寝室と風呂の場所を教えてやってくれ」


 「かしこまりました」


 椅子から立ち上がった俺たちを順番に案内してくれた。



 「着きました。ここがハルトさんの寝室です」


 「ありがとうございます……でも……」


 俺は寝室の周りを見る。すると察知したメイド笑顔で言う。


 「まあ皆さんとお隣です」


 「ですよね……」


 案内されたの部屋はヘデラとサザンの寝室の間。サザンは大丈夫だが、ヘデラの夜襲が怖い。


 「あのー。ヘデラの部屋を警戒するってことは……」


 「人手が足りないので……すいません」


 「いえいえ! 勝手な申し出でですから」


 「お気遣いありがとうございます。ただ……」


 「ただ?」


 「ここは一応王国の柱です。神聖な場所なのでそういうことはしないでください」


 「しません。絶対にしません。そこは安心してください」


 「わ、分かりました……では私はこれで……」


 メイドが持ち場に戻っていった。

 せっかくだし一人の布団を堪能するか……。


 もふもふだ……。あったかい……。幸せってのはこういうのでいいんだよ。

 せっかくだし一発してからいくか? いや、風呂に俺の子孫を流すわけにはいかないな。ここは我慢だ。


 「ハルトー? いるでしょ? 一緒にお風呂行きましょ!」


 ヘデラか……めんどくさいな。居留守を使おう。


 「ねえ。寝てるの? てことは今がチャンスね!」


 「起きてるよ! いちいち襲おうとするな!」


 「じゃあ行きましょ」


 仕方がない。ここは素直に行くか。

 タオルと寝巻を持っていく。


 「さ。行くわよ!」


 「別に一緒に入る訳じゃないからな」


 「分かってるわよ。それにしてもここの布製品は気持ちいね。地球にいた時と違う?」


 「これは別次元だろ。一つ一つが手縫いみたいだし……」


 「そっかー」


 こいつ聞いといてその態度は違うだろ。


 「あ。ハルトとヘデラじゃん」


 「なに物珍しく見てるんだよ。色違いでも見つけたのか」


 アンスとマズミさんが並んでいる。


 「あんたたちも今からお風呂? だったら奇遇ね」


 「考えは同じだな……。ところでなんでマズミさんはアンスに抱き着いているんです?」


 「求愛です。あと匂いの刷り込みとマーキングを……」


 「マズミはさっきからこの調子でね。なかなかやめてくれないの」


 大変だ。俺のヤンデレはまだまだ優しくてよかった。




 「というわけでヘデラ。ここでお別れだ。絶対覗きはするなよ」


 「嫌だ」


 「諦めろ。お前に覗きはまだ早い」


 「なにハルト。まるで熟練者みたいな言いぐさね」


 「だ、黙れアンス。決して見たことはないぞ。お、おい。本当だって!」


 女風呂に行ってしまった。せめて何か一言でも言えよ。


 「じゃあ今度こそお別れだ。ヘデラも湯舟を堪能しろよ」


 「私はハルトの体液のゆぶ」


 「さよなら!」


 危ない危ない。もう少しで爆弾発言が出てしまうところだった。

 それにしても更衣室は意外と広い。大人数にも対処できるようにしてあるのだろう。

 ロッカーがたくさんあるが一人先客がいるようだ。だがそんな事はどうでもいい。地球にいた時は裸の付き合いなんてしたことがなかった俺。ここは陰のすごさを見せつけよう。


 「タオルを巻くんだっけか」


 銭湯なんてまともに行ったことない。常識が分からん。


 「よし。ここで洗おう」


 意外にも日本の銭湯の作りに似ている。それぞれ洗うスペースが確保されていて仕切りがある。これなら物怖じせずに行けそうだ。


 「でもタオルって何に使うんだ? 体を巻くようなのか?」


 「そのタオルは局部を隠す時、体を石鹸につけて洗う時、そして風呂を上がる時に更衣室を濡らさぬように体を拭くものだ」


 その声は……。


 「メランジさんか……」


 「なんだ? 別の人が良かったか?」


 「そういう訳では……」


 「体を洗ったらこっちに来るがいい。ゆっくり話でもしよう」


 メランジは湯舟の中に入っている。なんでこっちの様子が分かるのかは聞かないでおこう。




 「来たか」


 「ども……」


 「まず浸かろう。疲れをいやすがいい」


 ここでの無言はやめろ。俺はトーク力なんてないんだ。お前が話題を作れ。


 「いやはやにぎやかだな。アンス達は」


 「……」


 「楽しそうで何よりだ」


 「……」


 「緊張しなくていい。ここはフランクに行こう。そういえばアンスとはどう知り合ったのだ?」


 「それは……その……。野外で裸の時に出会いました」


 「ふっ。いいなそれ。俺もそんな青春がしたいものだ」


 「メランジさんは出来ないんですか? さっきアンスとデートとかなんとか言っていた気が……」


 「そうか……。気になるよな……。そう難しいものではない。ただ俺が王子っていうだけだ。それゆえ普通の生活に憧れているのだろう。皆で遊んだり机を囲んだり……。楽しそうだ」


 「そうですか……」


 「だからアンスが私とデートしたいといった時、心なしか嬉しかった。王子としてでなく、一人の人間として見てくれたのだと思った」 


 アンスはイケメンな王子だから誘ったと思うぞ。


 「ハルトよ。ちょっと聞いてくれないか?」


 「はあ……」


 「実はな、今、隣国と冷戦状態にあるのだが……どうも向こうの様子を見るにこちらに戦争を仕掛けようとしているのだ」


 「そうですか……」


 「今の我々の戦力では戦っても負けが濃厚なんだ。そこで私の父上、現国王が何やら奇策を打ち出そうとしている」


 「それはなんです?」


 「隣国の姫、ウリンというのだが……、そのウリンと戦略結婚を考えているらしい」


 「……なるほど。二人が結婚したら戦争なんて起こらずに穏便に済ませると」


 「そう。さらに国としても合併するだろから戦力を増大する。いいことずくめだ……。ただな……」


 「ただ……?」


 「俺としてはそんな望まない結婚よりも、意中の人と付き合ってみたい。普通の人生ってものを過ごしたいのさ」


 「……」


 「ちょっと暗い話になってしまったな。まあ今の話は覚えなくていい。というか忘れてくれ。それよりもアンスから聞いただろう。我が国に眠っている財宝を取りに行くってことを」


 今思い出した。ここに来た目的がそれだったなな。


 「実はな……アンス達のパーティーで俺が一番期待しているのはハルトなんだよ」


 「え?」


 「噂ではハルト以外が頑張っていると聞いたが、魔物たちの痕跡を見ると、サフランを貫いた剣の後とハルトのもっている剣が同じでな。あとイレンのいた場所を確認すると、どうもハルト一人が戦っていた跡がある」


 まじか。俺の活躍なんてみんな知らないと思っていたが、見てくれている人はいるんだ……。


 「とまあ、アンス達のパーティーの核は誰かって言われるとハルトになるのだ」


 「あ、ありがとうございます」


 「とにかくだ。この作戦。財宝をとり、隣国に力を見せるにはハルトが必要ってことだ」


 変な重圧がかかってきた。期待なんてされたのは、小学生以来だ。


 「まあ、なんていうなかな。口下手ではあるが……。頑張ってくれ!」


 ふぉおおおおお。王子からの一言。嬉しいが、緊張の方が大きいぜ! 

 しかし本当にそんなことうまくいくのか? 不安しかないがやれと言われたのなら、結果は出してやろう。

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